第23話 史上初の挑戦
「Sランクダンジョン踏破、ですか……」
ほほう、まさかガンマさんがそんな事を言ってくるとは。
Sランクと言えば、我が根城・魔王城や父上のいる別邸などの特例【SSSランクダンジョン】を除けば最もランクの高いダンジョンだ。
Sランクダンジョンは三つほどあるが、冒険者は自分と同ランクのダンジョンまでしか挑戦することができないというルールができたのと、Sランクの冒険者が存在しないのとで、ここ百年は挑戦する者すら現れていなかった。
「成程、俺達二人でマルチ制度を利用してSランクダンジョンに挑戦しようって事ですか」
「そうだ。俺達ならギルドも承認してくれるはず」
マルチ制度。以前レイさんも使っていた制度だ。二人以上の冒険者が協力することで、ギルドの承認を得て自分よりもランクの高いダンジョンに挑めるシステム。
その冒険者達が協力することで、そのランクと同等の力が発揮できるとギルドから認められなければこの制度は利用できないが、Aランク最強のガンマさんと我がタッグを組めば、ギルドもSランクダンジョンへの挑戦を承認してくれるはずだ。
「さっき君と手合わせをしたのも、二人でSランクダンジョンを攻略するに値するか試すためだ。君には十分な力がある。君となら、Sランクを踏破できると思ったんだ」
「成程……、良いですよ。俺も強さを売りにしてる訳ですし、何より踏破できればそれは歴史が動く事態だ。やらない理由が無いですよ!」
史上初のSランクダンジョン踏破。それは最早バズどころの話ではない。今までとは比にならないほどの反応が集まるだろう。
「よし、ならば早速申請だな。ギルドに行くぞ!」
そう言ってガンマさんは足早にギルドに向かって行った。
「あれ、ガンマさん! 書類とか色々と必要なんじゃないですか?」
我が言うとガンマさんは一瞬で戻ってきて、ハンコやら冒険者免許やらを手早く準備して、「よし、早速ギルドに行くぞ!」と宣言し直した。
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「Aランクの轟ガンマさんに、同じくAランクの影山ボロスさんですか……。お二人でSランクダンジョンに挑みたいと……」
「はい。ボロスは昨日Sランク相当の魔物を討伐してますし、全く問題ないのではないでしょうか?」
ギルドに到着すると、早速ガンマさんが申請書類を提出し、職員と交渉を始めた。
一方の職員はというと、どうやら難色を示しているようだった。
それもそうだろう。Sランクダンジョンの危険度はAランクとは比べ物にならない。いくら実力があるとはいえ、安易に送り出したくはないだろう。
それに、Aランク冒険者というのは、昨日のように魔物が出現した時の戦力となる。万が一Sランクダンジョンに二人ものAランクを送り込んで二人とも死んでしまえば、それは大きな損失となる。
「俺からもお願いします。挑戦してみたいんです、冒険者としての限界、ダンジョンの頂点に」
我もガンマさんに加勢してお願いする。職員はかなり悩んでいるようだ。
このままだと承認を貰うのは厳しそうだ。だが、もちろん手は打ってある。
「あのー、お取込み中すいません。佐々倉さん、実は魔王政府からこんな物が……」
どうやら来たようだ。別の職員が一枚の紙を持って来た。佐々倉と呼ばれた我らの担当は、それを見て驚愕の表情を浮かべていた。
我が魔王政府としてギルドに送った文書。
『最近の調査の結果、Sランクダンジョンに出現する魔物の強さが弱くなっている事が確認されました。こちらとしても、Sランクダンジョンは挑戦者が全くおらず、このままではSランクダンジョンが廃れてしまうので、挑みたいという方がいれば積極的に承認していただけると助かります。魔物が弱体化している今のうちに、人間がSランクダンジョンを踏破したという例を作っておくのも、後進のためではありませんか? ——魔王政府 ディア十八世』
もちろん、魔物が弱体化しているなどというのは嘘だ。だが、Sランクダンジョンが全く挑戦されず、参加費が入ってこないため、廃れかけているというのは事実だった。高ランクの魔物ほど管理に手間がかかるのだ。
「佐々倉さん、Sランクダンジョンを踏破したという事例を作れば、冒険者たちの戦意も上がり、ダンジョン業が盛り上がるハズです。それに、二人とも十分実力はありますし、その実力を広く知らせる良い機会になるのではないですか?」
佐々倉は職員の言葉を聞いて、かなり悩んでいる様子だった。
「俺達で歴史を変えたいんです! どうかお願いします!」
「必ず生きて帰ってきます! なのでどうか!」
我もガンマさんと共にダメ押しする。
佐々倉は髪をかきむしり、悩みに悩んだ末に顔を上げてこう言った。
「……分かりました。轟ガンマと影山ボロス、この二人でSランクダンジョンに挑戦することを承認します」
無事承認。狙い通りだな。
「よしっ! やったな、ボロス君!」
「まずは第一段階クリアですね!」
その後、我らは一通りの手続きを行い、完了したのは夕方五時になった頃だった。
「ボロス君、折角だし今日はウチに泊っていかないかい? こっちのコラボのゲーム実況配信もしたいし、共にSランクに挑む者として親睦を深めたい」
「良いですよ、ゲーム絶対負けませんから」
こうして我らは、一晩をガンマさんの家で共にすることになったのだった。
ちなみに、全てのゲームの全ての試合でガンマさんにボロ負けした醜態を配信で晒したのは、また別の話である。
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