第22話 最強との手合わせ

「戦闘と言っても、単なる手合わせだ。殺す気でかかったりはしない。あと、ビルが壊れるから魔法もナシ。純粋な格闘だ」


 フィジカルのみでの勝負という訳か。冒険者の中には、魔法に奢り肉体の鍛錬を怠ける者もいると聞くが、我は魔王たるものトレーニングは欠かしていない。肉弾戦でも負けはせぬ。


「ガンマさん、本気で行かせてもらいますよ!」

「ああ。来い!」


 その一言が試合開始の合図となった。

 まずは小手調べだ。まっすぐガンマさんに近づき、右ストレートを繰り出す。


「……ほう」

「良いパンチだな! 俺も負けてられない!」


 ガンマさんは我の拳をいとも簡単に受け止めた。

 そしてすぐに反撃に転じた。我の手を放してすぐに、我の足目掛けて蹴りを入れた。


「あっぶね……」


 我はギリギリでジャンプして回避したが、今度は着地の隙をついて攻め込んできた。

 正面からストレートが飛んでくる。我はそれを受け止めようと手を前に出したが、手ごたえが無かった。


「は……?」


 そして我は、気が付いたら殴りとばされていた。

 成程、そういう事か。

 ガンマさんは先程のストレートを最初から当てるつもりはなかったのだろう。ガードされる寸前で素早く拳を引き、我が混乱している隙に死角から攻撃を入れる。

 所詮は初見殺しだが、中々頭も切れるようだ。そして純粋なフィジカルも強い。

 我も手加減はしていられないな。


「流石っすね、ガンマさん。でも、ここからが本番ですよ!」


 我は床を強く蹴りだし、一気にガンマさんとの距離を詰める。


「隙だらけっすよ!」


 そしてそのまま、ガンマさんが反応する隙も無く彼の隣を駆け抜け、すれ違いざまに右の拳を腹付近に打ち込んだ。


「ゴホッ……、やるな! ならば俺も速度を上げるまで!」


 そう言いながらガンマさんは走り出しの姿勢を取った。

 来る!

 瞬き一つする間も無く、ガンマさんは目の前に迫っていた。

 だが、魔王の反射速度を舐めないでほしい。事前に来ると分かっていれば、十分反応は可能だ。


「おぉ……、今のを受け止めるか!」


 ガンマさんの拳を受け止めた我は、そのまま彼の頭に回し蹴りを決め込む。

 片腕でなんとか防御した彼だったが、その直後に我が放った拳には流石に反応できず、壁まで吹っ飛んだ。


「やるじゃないか……!」


 それでもガンマさんは立ち上がり、再び走り出しの姿勢を取った。

 だが、今度はすぐに動き出さない。

 ……成程、誘っているな。良い。最後はそちらの得意で決めてやろう。

 我も同じように走り出しの体勢を取り、しばらくの間にらみ合う。

 何秒そうしただろうか。ついに、ガンマさんが動き出した。


「今だッ!」


 我もほぼ同時に地面を蹴り、ガンマさんと最接近する。


「……相討ち、か」


 お互いに放った拳は、ぶつかったまま止まっていた。ほぼ同じタイミングで繰り出されたのだろう。

 だが、互いにほぼ同時にそれを察知して、反撃の拳を腹に打ち込んでいた。我もガンマさんも、同時に床に倒れ込む。


「グッ……、流石に強いっすね、ガンマさん」

「いいや、俺も随分とやられたよ。こんなに良い勝負ができたのは久しぶりだ。お陰で昔を少し思い出せた。ありがとう」


 ガンマさんが手を差し出してきたので、我もそれに応えて硬い握手を交わす。

 やはりこの轟ガンマという男、かなり強い。魔法を縛っていたとはいえ、我と互角に戦った。

 我もまた、彼の強さを認めるしかなかった。


「ボロス君。改めてお願いだ。今ので君の強さは十分体感できた。俺とコラボしてくれないか?」

「勿論です。むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ」


 我は改めて、コラボの約束をしたのであった。


「まあコラボというくらいだから、俺のチャンネルと君のチャンネルの両方でコラボ企画をやることになる。俺がやりたいことは決まってるが、君はどうだ?」


 ……そういえば、コラボすることだけ考えていたので、コラボして何をするかは何も考えが無かった。


「やっぱり普通にダンジョン配信じゃないですかね……? 仮にも俺たちはダンジョン配信者な訳ですし……」

「まあそうだよな……。でも俺達二人ともダンジョン配信だと、視聴者も飽きるんじゃないか? 俺もたまに、ゲーム実況の動画とかも出してるし」


 ほう、ダンジョン配信者でもゲーム実況などの他の動画も大事なのか。これまた勉強になった。


「お、ボロス君一昨日『レイちゃんねる』でゲーム実況配信してたのか。……って、これは流石に酷いな!」

「ガンマさん、それ以上は俺の心が痛むのでやめてください」


 どうやらあの配信のアーカイブを見ているようだ。あの時は本当に醜態をさらしてしまった。レイさんとゲームしたのは楽しかったが、まさかガンマさんにまで笑われるとは。


「ボロス君、俺のチャンネルではゲーム実況の動画を出そう。君とゲームしたら面白そうだ!」

「ちょっとガンマさん!? 俺を一方的にいたぶるつもりですか?」

「いやいや、君は多分ルールさえ理解できれば滅茶苦茶強いと思うんだよ。事前に操作方法とかはしっかり教えるからさ。それか、難しい操作がいらないゲームにしようか?」


 と、そんなこんなで「轟チャンネル」の方でのコラボ動画は、我とガンマさんのゲーム実況動画となった。


「え、ゲーム実況の動画はガンマさんのチャンネルで出すんですか? ガンマさんが考えてきた企画は?」

「それはそっちのチャンネルでやってほしい。俺より新人の君がやった方が盛り上がることだからね」


 一体、ガンマさんはどんな企画を考えてきたのか。その真実が、今明かされる。


「俺が考えた企画……、それは、史上初のSランクダンジョン踏破だ」

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