魔王様、最強配信者とコラボする
第21話 最強配信者、現る!
「ガンマさん、避けて!」
「くッ……!」
我らはギリギリで攻撃を避けたが、相手は既に次の攻撃に移っていた。
速い。いくらなんでも速すぎる。恐らくこの速度、本気の我をも上回っている。
Aランク最強のガンマさんと二人がかりでも、絶対勝てるという自信が無かった。
「クッソ、どうしてこんな事になったんだ!」
迫りくる鋭い爪を前にして、我は叫び散らかした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マシンゴーレムを討伐した日の夜、突如メールが届いた。
送り主は轟ガンマ。Aランク最強の冒険者で、人気ナンバーワンの配信者でもある。
そんな彼から、コラボしたいというメールが届いたのだ。
「コラボ……、か。コブリンよ、我がこの人間とコラボしたらどうなる?」
「はい、えーっとですね。この轟ガンマはチャンネル登録者数三百万人を突破した今でさえ、その勢いを増し続けているトップランナーですね。彼とコラボすることで知名度は圧倒的に上がり、さらにあちらのファンの流入も期待できます。それに何より、あの轟ガンマとコラボしたという経歴が加われば、それだけで興味がそそられるという物です。ひとたびコラボするだけで、将来的な利益も見込めます。コラボしたほうが良いですよ、絶対!」
コブリンが想像以上に強く推してきたので、我は反射的に後ずさってしまう。
「ず、随分と熱心なのだな。あ、お前まさか……、轟ガンマのファンだな?」
「ギクゥ!?」
我が聞くと、コブリンは随分と分かりやすい反応を示した。
「ほほう、ファンなのだな。ならば彼についても詳しいだろう。コラボする前にどんな奴かだけ知っておきたい。述べられるだけ特徴を述べろ」
「轟ガンマ———ガンマさんはただ強いだけではなく、姿もカッコいいんです! 見てくださいよ、この流れるようなサラサラの金髪に、吸い込まれるような若緑色の目、人間時の魔王様は百八十五センチはあるであろう高身長ですが、それに並ぶほどの体格! そして何よりも強い! 配信時の戦いを見る限りだと、もしかしたら私よりも強いかもしれない……! まあ、もちろん魔王様には敵わないでしょうけどね! さらに……」
「もう良い! そんな一気にダラダラと話しおって、やかましい!」
あまりにもコブリンが流暢に喋る上にほとんど内容が入ってこなかったので、一旦黙ってもらうことにした。
「魔王様が語れとおっしゃったのではないですか! もっと語らせてください!」
「コブリンよ、一度頭を冷やせ。そんなに興奮しなくてもコラボはする。それよりメールの返信をするから力を貸せ」
さて、このようなメールにはどう返事をするのが正解なのだろうか。
とりあえず『良いですよ!』と打って返事しようとする。
「お待ちください魔王様! 流石にその一言だけはまずいと思います! 仲の良い相手とのメールじゃないんですから、ここは丁寧に行くべきです!」
なんだ、これでは駄目なのか。
ならばもう少し丁寧にしよう。『この度はコラボの依頼をいただき本当に誠に大変ありがとうございました。……』
「魔王様! 丁寧になりすぎです! 本当に誠に大変ありがとうございました、は最早丁寧すぎて逆に失礼です! ガンマさんにこんなメール送れない!」
「丁寧な言葉などほとんど使ったこと無いから知らん。そんなにいうのならば貴様が書け」
コブリンに命じると、なんと三十秒で返事を書きあげてしまった。
「ふむ……、若干貴様の轟ガンマへの個人的な感情が漏れ出ている気もするが、まあこれで大丈夫だろう。よし、送れ!」
「了解です!」
コブリンが返信した。そして一分くらい経った頃、ガンマから返事が届いた。
『ありがとう! 詳細な話をしたいから、明日の午前九時にこの場所に来てくれ!』
そのような文言と共に、都内某所の住所を送って来た。
「コブリン、この場所は?」
「普通のビルですね……。強いて特徴を上げるなら、珍しくジムがあるビルというくらいでしょうか……」
怪しい誘いではなさそうだな。特に行っても問題はなさそうだ。
「よし。我は明日この場所に向かう。そこでガンマからコラボの話を聞いてこよう」
「了解です、魔王様。あと、ガンマさんのサイン貰ってきてもらっても良いでしょうか……?」
「……仕方ない」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日、指定されたビルに到着した我を待ち構えていたのは、昨日コブリンが言っていた通りの、金髪長身の男・轟ガンマだった。
「初めまして、ガンマさん。新人Aランク配信者の影山ボロスです」
「ボロス君か。俺は轟ガンマ。同じAランク配信者として、これからよろしく!」
彼はにこやかに右手を前に出して握手を求めた。
不思議な気配だ。穏やかだが頼りがいのあるような気配。あと、何故かさん付けで呼びたくなるようなエリート感。
我も手を出し、ガンマさんと握手する。
「ボロス君、昨日の配信見たよ。まさかSランク相当の魔物とあれほど対等に渡り合えるなんて、驚いた! 君は間違いなく、俺に並ぶ、あるいはそれ以上の力を持っている! 俺はそう確信した!」
まあ、そうだろうな。我魔王だし。
だが、我も実際に対面して驚いていた。この男、昨日のコブリンの『自分より強いかもしれない』という評価は間違っていないかもしれない。
だとすると、やはりとんでもない実力者だ……。
「それで、今日は何故ここに呼んだんですか?」
「それはだな……」
ビルの三階まで登ったところで、ガンマさんがある扉を開きながら言った。
「コラボする前に、君の実力を測りたくてね。俺と戦ってほしいんだ」
ガンマさんが開いた扉の向こうにあったのは、ジムのダンスルームと思わしき広い空間だった。
「この部屋は貸し切ってあるから、思いっきりやれるだろ? さあ、君の力を見せてくれ!」
まさか、いきなりガンマさんと戦闘になるとは。
だがこちらとしても丁度良い。最強たるその力、身をもって体感してやるとしよう。
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