第19話 ボロス怒りの一撃

「カイト! もうすぐ一般人の避難も終わりそうだ! そろそろ離れてくれ!」


 避難が終わりそうになった頃合いを見て、我はカイトに告げた。


「もうちょっとガンマさんに良いとこ見せたかったけど、しょうがないな。でも、爪痕だけは残させてもらうぞ!」


 カイトは離れる前に最後の技を発動した。マシンゴーレムを囲うように円形の水が出現し、マシンゴーレムを拘束した。


「ハイドロロック。どれくらい持つか分からないが、俺が逃げるだけの時間は十分稼げるはずだ! 後は頼んだぞ、ボロス!」


 そう言い残して、カイトも避難を始めた。

 彼は魔法を発動しているようで、かなりの速度で離れて行った。この速度なら、一分もあれば安全地帯まで行けるだろう。


「さあ鉄屑、断罪の時だ。覚悟はできてるんだろうな?」


 我はそう告げながら、魔法の発動準備をする。

 自らの命の危険を感じ取ったのだろう。マシンゴーレムは火事場の馬鹿力でハイドロロックを破り、自身の全ての装備を一気に全弾発射した。


「随分と派手な攻撃だな。そんなもの、もう無意味だというのに」


 決死の全弾発射は、言ってしまえば物量に任せたゴリ押しだった。その為照準も甘く、我に一弾当てることさえ叶わなかった。


「グ、グォォォォォォォォ!」


 これまで一度も声を上げなかったマシンゴーレムが、咆哮を上げながら我に最後の突進を仕掛けてきた。


「フッ、ついに脳まで捨てたか。さっきので分からんか。力任せで勝てるほど我は甘くないぞ? 炎魔幻骨インフェルノラッシュ!」


 自ら向かって来たマシンゴーレムに、我は歓迎のラッシュを喰らわせる。ここに来て初めて、奴の装甲に僅かなヒビが入った。


『ついにヒビが!』

『ボロス、決めろ!』


「言われずともそのつもりだ! 鉄屑、レイさんとの楽しい時間を奪った罰だ。溶けて液体になる位の攻撃を喰らわせてやろう!」


 我は魔力を収束し、炎の弓矢を生成する。マシンゴーレムが命乞いをするかのようにこちらを見ていたが、死にそうになった時の仕様だと知っていたので少しも躊躇いは無かった。


炎魔弓インフェルノアロー!!!」


 獄炎の矢をマシンゴーレムに向けて放つ。

 矢が着弾し、ビルより高い観覧車より尚高い火柱を立て、遊園地の半分を巻き込んだ大爆発を起こした。


 そして爆発が収まった時には、ドロドロに溶けた鉄屑だけが残っていた。


「……皆さん、魔物を討伐しました!」


『勝った! すげぇ!』

『ヒーローキター!』

『【50000】街を守ってくれたお礼だ!〈赤スパの悪魔〉』

『【50000】自分からもっす! お勤めご苦労様っす!〈弟分ニキ〉』

『【50000】ボロス君、カイト君、よく頑張った! お疲れ様!〈轟ガンマ〉』

『【50000】やっぱりボロス様は私のヒーロー!〈ガチ恋ネキ〉』

『めっちゃ赤スパ来てて草www』


 マシンゴーレム討伐にコメント欄はとんでもなく沸いていた。そしてしれっと二十万円の投げ銭を頂いていた。……マジで貴様ら財布大丈夫か?


「皆さん、応援とスパチャありがとうございます! 事後処理もあると思うので、今日の配信はこれで終わり! チャンネルとマイッター、マイスタのフォローも是非お願いします! では、また次回!」


 我はそう言って配信を終了する。

 まだ、やっておきたい事があった。


「……まだ辛うじて形は残しているか」


 ドロドロに溶けた鉄の中に残っていた、二つの物体。

 一つはマシンゴーレムのコアだ。コイツが機能している限り、この状態からでも復活される危険があるので粉々にしておく。

 もう一つは、頭部にセットされていたであろう、我の掌に乗る程度の大きさのメモリーカードのような物。

 これはマシンゴーレムの脳にあたるパーツだ。このカードに刻まれた指示に基づいてマシンゴーレムは行動し、一緒に備わっているAIにより学習が可能となる。逆に、これが壊れるとマシンゴーレムは動けなくなる。だからコアもろとも、局所的な保護魔法で守られていたのだろう。

 コアはともかく、こっちのカードは単体では何もできない。中のデータから今回の黒幕の情報も得られるだろう。帰ったらコブリンに解析してもらおう。

 そう思ったその時、突然そのカードは小さな爆発を起こして粉々になってしまった。


「遠隔の魔法で破壊された……? それともマシンゴーレムが破壊されると同時に壊れるように魔法が刻まれていたのか?」


 魔法の遠隔発動と魔法のプログラム、どちらにしろ高等技術であることに変わりはない。やはり、コイツを送り付けてきたのは魔物側の要人の誰か、しかもかなりの強さを持つ者だ。


「ボロス! 倒したのか!?」


 そんな事を考えていると、遠くの方からカイトが走ってきていた。


「ああ。この通りだ」

「すっげぇ。あんなに硬かったのにドロドロに溶けてるじゃん。やっぱりお前、ガンマさんと同じくらい強いんじゃないか?」


 マシンゴーレムの成れの果てを見たカイトはひどく驚いている様子だった。


「でも、遊園地の大半が壊れちまったな……」

「……俺にはこれしかできなかったんだ。一般人を犠牲にしてまで、遊園地を残そうとは思えなかった」


 我はカイトと崩壊した遊園地を見渡した。そしてその奥から、とある人影が迫っていることに気付く。


「あれは……、レイさん!」

「ボロスさん! 無事で良かったです!」


 レイさんは我の方に駆け寄って我の手を握った。それで戦闘の疲れが一気に吹き飛んだような気がした。


「カイトさんも、凄かったですよ! まさかカイトさんがAランク冒険者だったなんて……! あの、握手してもらって良いですか?」

「勿論! 応援ありがとう!」


 カイトは人気者らしく答えてレイさんと握手した。

 ……なんか我より握手の時間長くないか? なぁ、長くないか?


「嬉しいです! ありがとうございます! カイトさん、次のライブ絶対行きますね!」


 レイさんがそう言うと同時に、大勢がこちらに向かう足音が聞こえてきた。


「英雄だー! 俺達を助けてくれてありがとう!」

「カイト様―! Aランク冒険者だって本当なんですか!?」

「万歳! 二人とも万歳!」


 救われた一般人が大勢、我らの元に向かってきていた。そして勝手に我とカイトを胴上げし始めていた。


「ちょっ、何をする! 不敬であるぞ!」

「わわわっ、皆さんありがとうございます!」


 ……やれやれ、この様子だと帰れるのは随分後になりそうだな。まあ、案外こういうのも悪くないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る