第20話 財政は変遷する
その後我らはしばらくの間、英雄として祭り上げられていた。解放されたのは三十分後、ギルドの職員が到着して一般人に解散命令が出てからだった。
「影山ボロスさんに、七海カイトさん。今回魔物を討伐したのはお二人で間違いないですね?」
「だよな、ボロス」
「そうだ。俺達二人で倒した」
ギルドの職員に質問されたので、我はカイトと共に答えた。
「今回は危険な魔物の討伐にご協力いただきありがとうございます。今回の魔物はSランク相当という事で、お二人にはギルドと魔王政府から報酬金、合計百万円が支払われます」
職員から告げられたのは、目が飛び出るような大金。これだけあれば魔王政府の財政も立ち直………
いや、待てよ。今この職員「ギルドと魔王政府から」って言ったよな。
急いでスマホを確認すると、ギルドから我あてに通知が届いていた。
そこには、『今回、東京シティパークに魔物が出現した件に関して、討伐に協力いただいた冒険者二名に百万円を支払います。魔王政府とギルドで半分ずつ出すことになったので、二人の口座に五十万円ずつ振り込んでおいてください。あと、魔物によって破壊された都市の復興費用も出してもらいますね。元をたどればそちらが管理してた魔物による被害ですから、妥当ですよね』と書かれていた。
……終わった。
報酬金は、我らから合計百万円支払い、うち五十万は我に還元されて、もう五十万はギルドから支払われるので実質プラマイゼロだ。
それどころか、復興費用でおそらく数億は持っていかれる。とんだ大赤字だ。
父上が魔王の座にいた頃は、人間に敵対的な父上を怒らせてはいけないと下手に出ていたが、我に交代したのを良いことに随分と人間側に有利な交渉を持ってくるようになった。何とも不敬な事だ。
ますます、マシンゴーレムを送り込んだ裏切り者を早急に見つけ出さなくてはならなくなったな。
「ボロスさん? 何だか顔色が悪いですが、先程の戦闘で怪我をしているのですか?」
しまった。我としたことが表情に出てしまっていたらしい。職員に心配をかけられてしまった。
「まあ、ハイ。ちょっと痛いですかね……」
痛いのは魔王政府の財布の方だ。
そう言いたかったが、確実に我が魔王だとバレてしまうので黙っておく。
「お二人とも、しばらくはゆっくり休んでください。明日には、お二人の口座にギルドと魔王政府から報酬金が振り込まれているはずです。今回は魔物討伐にご協力いただき、本当にありがとうございました」
そう言い残し、ギルドの職員は後処理に移った。
「ボロス、百万円だってよ! やったな!」
「あ、ああそうだな……」
その百万円の半分は我が支払うんだよ!
「あ、二人とも! 私も一般人の避難に協力したとして、報酬金十万円もらえることになったんです!」
別の職員から話を聞かされていたレイさんが我らの方にやってきた。レイさんの功績も認められたようで何よりだ。
「お二人とも、百万円も貰えるんですか!? 凄いですね、やっぱりAランクって!」
レイさんが我らに憧れの視線を向けてくる。レイさんに憧れの存在として見られるの、めちゃくちゃ嬉しい……。
「あ、そうだ二人とも。これを」
ふとカイトが思い出したかのように、懐から二枚の紙を取り出して我らに渡した。
「これは……」
「ジェットスニーカーズのライブチケットだ!」
それを受け取ったレイさんは子供の様に飛び跳ねて喜んだ。
「今回のお礼だよ。来月のクリスマス公演、よかったら二人で来てよ!」
「ありがとうございます! 絶対行きます!」
カイトはレイさんの言葉を聞いて優しく微笑むと、去り際に我の横を通り耳打ちした。
「席は用意してやったから、あとはお前が男を見せな」
それだけ我に言い残し、カイトはバンドメンバーの元へ向かってしまった。
……まさか、我の心の内を見透かされている!? この短時間だけで!?
「ジェットスニーカーズもこれから大変だろうね。カイトさんがAランク冒険者だって公表したから。悪い事ではないからみんな受け入れてくれるとは思うけど、そうじゃない人もいるだろうしね」
「まあ、カイトなら上手い事やれるでしょう。彼には優れた判断力がある。俺はアイツと共に戦って、それを理解してますから」
これから彼がどうなるかは分からない。だが、彼もまた悪い人間では無いという事は分かっていた。
どうやら意外と、人間にも良い奴は多いようだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「コブリンよ、話がある。こっちに来い」
我は魔王城に帰ってすぐ、コブリンを拷問室に呼び込んで壁に追いやった。
「な、一体どうされたのですか魔王様!?」
「貴様、まさか我にマシンゴーレムを倒させて我を英雄に仕立て上げるために、あのマシンゴーレムを送ったのではあるまいな?」
そう。マシンゴーレムを送り込んだ者を見つけ出さなければならないのだ。犯人は高度な魔法技術を持っている。我の側近で最も魔法に長けているのはコブリンだ。
「さあ、さっさと答えろ」
「違います! 私がそんな事するわけないじゃないですか! そもそも、魔物が街を壊した場合、魔物を逃がした責任として復興費用を我々が支払わないといけないのは、私が一番知っております! 財政難なこの状況下で、そんな自分の首をしめるような真似はいたしません!」
コブリンの言い分を聞き、我は彼を解放してやった。
「良い。貴様にそんな事をする度胸は無いと知っておる」
「な、なら別にこんな事しなくて良いではないですかぁ……」
「万が一に備えるに越したことはない。念のためだ」
だが、これで大方の見当はついた。
「恐らくマシンゴーレムを送り込んだのは、父上のいる別邸にいる者の誰かだ。あるいは、父上か……。あちらには貴様に並ぶ手練れが何人かいるからな。それに、ここにいる者は皆我に忠誠を誓った者達だ。裏切るような真似はせんだろう」
だが、父上側の誰かがやっていたとして、こちらから調べる手立てはない。父上に会うためには父上の許可が必要だが、この状況で許可をくれるとは思わない。
ひとまずは、保障費用による大赤字を何とかせねば。何か大きく注目を得られる方法は……。
考えていたその時、我のスマホから着信音が鳴った。
『影山ボロスさん、俺とコラボしてくれませんか?』
最強の配信者、轟ガンマからのメールだった。
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