第17話 想定外の協力者
マシンゴーレムは、プログラムされた通りに動く魔物だ。
通常のプログラムは『魔力の多い者を優先的に排除する』だが、この個体に関しては、初手の銃撃で我を狙わずに無差別に攻撃をした点から考えるに『街を無差別に破壊する』というプログラムなのだろう。
通常のプログラムならば、必ず攻撃の矛先が我に向くので、一般人に被害を出さないように立ち回ることは容易い。だが今回の場合、恐らく奴は我の相手をしながら周囲への銃撃も行うだろう。
ならばやるべきことは一つ。ひたすら奴の体勢を崩して、銃撃をさせないようにする。
「フレイムショック!」
我は再びマシンゴーレムに向けて衝撃を与える魔法を放つ。だが、先程攻撃を受けた経験から学習したのか、両腕を前に回して防御した。
「やはり学習能力も高いのか……! つくづく厄介だな」
マシンゴーレムが銃撃の体勢を取った。
撃たせるか!
我はすぐさまマシンゴーレムの間合いの内側に入り、体勢を崩しにかかった。
「喰らうが良い、
大量の炎の拳を生成し、それらを一気にぶつける我が奥義の一つ。マシンゴーレムの装甲を破るには至らなかったが、奴の体勢を崩すには十分だった。
『すげぇ……、炎魔法の最高レベルの技じゃん』
『やっぱりボロスの魔法練度えぐいな!』
『【50000】ボロス、勝ってくれ!〈赤スパの悪魔〉』
「皆さん、応援ありがとうございます。絶対勝つので安心してください!」
我は視聴者に向かってそう言い放ち、マシンゴーレムに追撃する。
「深淵の手!」
我は魔力を込めた手で地面に触れ、マシンゴーレムの下に影を発生させた。
此奴は今、我の攻撃を受けて仰向けに倒れている。これなら、沈められるはず―――
「……マジか」
『嘘だろ……』
『深淵の手が回避されるなんて……!』
マシンゴーレムは、漆黒の手に掴まれて影に沈みゆく寸前でロケットブースターを発動し、その圧倒的推進力で漆黒の手を引きちぎって影から脱出したのだった。
そして滞空したまま、いつの間にか装填されていた背中のミサイルを一般人の方に向けて発射した。
「まずい! 間に合わない―――!」
我はミサイルを止めようとしたが、それよりも早く我の射程範囲から離れてしまった。
ミサイルの着弾点には、負傷して動けない一般人がいた。
もう、ダメか――――
「ハイドロバリア!」
突如、若い男の声が響いた。
ミサイルは水の壁に阻まれて、一般人まで届いていなかった。
「あの男、どこかで……」
先程の魔法を発動したであろう、濃い青色の髪をオールバックにしたクールな男。どこかで見たような気がする。
あの特徴的な髪型、透明感のある水色の目、そして爽快感を感じさせる、青を基調としたジャケット。
そうだ。思い出した。あの男は……!
「ジェットスニーカーズのボーカル、カイト!」
レイさんが今日遊園地を訪れた大本命。彼女に見せてもらったポスターに名前と共に写っていた男だ。
「ああそうだ! お前のその強さ、もしかしてAランクか!?」
「そうです! もしかしてアナタも……!」
カイトは我が配信中だと気付き、一瞬ためらう様子を見せたが、すぐに顔を上げて堂々と名乗った。
「ホントは言いたくなかったんだけど……、仕方ない! 俺は七海カイト! ジェットスニーカーズのボーカルで、Aランク冒険者だ!」
『おおおおおお! マジか!』
『カイトってAランク冒険者だったの!?』
『まさかこんなところに四人目がいたなんて……!』
『カイト様サイコー!』
コメント欄のみならず、避難中の一般人でさえ驚愕の表情を浮かべていた。国民的人気バンドのボーカルが、最強クラスの冒険者だったのだ。そんな反応にもなるか。
「カイトさん、俺はAランク冒険者のボロスです! この魔物、もしかしたらSランクに近い実力があるかもしれません!」
「ボロス、とりあえずタメで良い! そして今はどういう状況だ!?」
カイトは冷静にこの状況を把握しようとしているようだった。先程の魔法の熟練度の高さといい、かなり洗練された冒険者と見た。
「コイツの装甲はとんでもなく硬い! 破るには俺の最高火力技が必要だが、周りに一般人がいる状況では使えない! 全員の避難が終わるまで、コイツを引き付ける必要がある!」
「分かった。多分俺の最高火力よりもそっちの方が強い。全力で君をバックアップする! 可能な限り力を温存してくれ!」
カイトはそう言ってすぐに動き出した。
「ハイドロサーフ!」
カイトは自分の足元に水流を発生させ、それに乗って高速でマシンゴーレムに接近した。
「装甲が破れないなら、武装を狙う! ハイドロビーム!」
カイトが指を銃の形にして、マシンゴーレムの右肩のガトリング砲を狙う。指の先端から超高水圧の水流が放たれ、ガトリング砲を破壊した。
「カイト、お前に合わせる! フレイムキャノン!」
我もカイトに合わせて、左肩のガトリング砲目掛けて圧縮した炎の球体を高速で放つ。着弾と同時に爆発し、ガトリング砲は粉々になった。
「ナイスだ、カイト!」
「そっちこそ! やっぱ君、超強いでしょ!」
『Aランク二人の共闘、これは激熱すぎる!』
『歴史に残る瞬間じゃね!?』
『というかAランク二人がかりでも倒せないあの魔物強すぎるだろ』
『兄貴、カイトさん、そんな奴ボコボコにしちゃってください!〈弟分ニキ〉』
「愉快なコメント欄だね、ますます負けるわけにはいかないな!」
いつの間にかコメントを伝達魔法で聞いていたカイトが叫んだ。恐らくコブリンが、連携を取りやすくするために共有したのだろう。相変わらず気の利く奴だ。
「ボロス、勝つぞ!」
「了解!」
我らはマシンゴーレムに向かって、堂々と勝利宣言を決めるのだった。
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