第16話 VS襲撃者、ゲリラ配信開始!

 冒険者としての手続きを済ませた時にギルドで聞いた、冒険者の掟というものがあった。

 その掟の中には、「強き者として有事の際は市民を守る事」という項目があった。

 今目の前で起きているように、稀に魔物がダンジョンの外に現れることがあるのだ。

 その原因は、人間領で自然発生した魔物が姿を現したり、我々で飼育していた物が逃げ出したりなどと様々だが、今回はそのどちらにも当てはまっていないだろう。

 目の前にいる魔物を我は知っていた。

 奴は「マシンゴーレム」。通称、鋼鉄の破壊兵器。

 この魔物はダンジョンには存在しない魔物だ。そしてコイツは機械であるため、オンオフを管理者が自由に切り替えられる。つまり、自我を持って逃走という事態は起こらないのだ。

 先程の転送魔法のような魔法陣と言い、このマシンゴーレムは我への刺客なのか……?


「まあ良い。屠ってやろう」


 マシンゴーレムは、通常のゴーレムをベースとして武装を追加した個体なので、強さは大体Bランク程度といった所だろう。

 だが、このマシンゴーレムには我にしか分からないであろう印がついていた。

 首元あたりに刻まれた『D』の印。これは、魔物側の重役の警備に用いられる特殊な個体。スペックはオリジナルから飛躍的に向上しており、Sランクにも届きうる強さと言っても過言ではないだろう。


「どちらにしろ、我には敵わないのだがな」


 とにかく、コイツはここで破壊する。それに変わりはない。


(コブリンよ、聞こえるか。転送魔法で我の元に剣を送れ)


 我はコブリンに伝達魔法で連絡する。程なくして、我の元に剣とライブ配信用のカメラが転送されてきた。


(ん……? 何故カメラも?)

(魔王様、ここであのマシンゴーレムを倒す様をライブ配信すれば、英雄としてさらなる人気を得られること間違いなしです! やっちゃってください!)


 さらなる人気、か。面白い。

 我は素早くカメラのスイッチを入れ、配信を開始した。


「緊急事態なので手短に。東京シティパークにて魔物が出現しました。恐らくAランクはある魔物です。危険なので即刻倒します!」


『お、ボロスのゲリラ配信だ』

『シティパークに魔物出現!? しかもAランク!?』

『兄貴、街の平和を守ってください……!〈弟分ニキ〉』

『ヒーローボロス来るか!?』


 緊急の配信だというのに、いきなり二万人もの視聴者が集まっていた。どうやら我の配信は「東京に魔物が現れた」というニュース速報的な役割も果たしているようだった。

 ニュースは拡散が早い。こちらとしては好都合だ。


「さて……、随分と待たせてしまったな。今からお前を解体してやる。覚悟しろ!」


 我は剣を構えてマシンゴーレムに斬りこんだ。


「貴様の武装はほぼ遠距離攻撃用! 近接攻撃特化の拳も、そこまでの速さでは振るえない。つまり、間合いに入ってしまえばこちらの物だ!」


 並の冒険者ならば、間合いの内側に入る前に兵器でやられているだろう。だが、この程度はお手の物だ。


「フレイムインパクト!」


 マシンゴーレムに最接近した我は、炎の魔法を拳で打ち出して攻撃した。

 普通のゴーレムならば風穴を開けられる威力の技だ。しかし、マシンゴーレムのボディは傷一つついていなかった。


「……マジか」


 呆然とした一瞬の隙で、マシンゴーレムはその強靭な腕で我を薙ぎ払おうとした。

 咄嗟に回避したが、また距離をとられてしまった。

 ……正直言って、あそこまで硬いのは想定外だった。

 大まかな感覚だが、あの装甲を破るためにはおそらく、炎魔弓インフェルノアローを始めとした超高火力の技が必要になるだろう。

 だが、今ここで炎魔弓インフェルノアローを撃てば、避難が済んでいない一般人まで巻き込むことになってしまう。それは冒険者の掟を破ることになるので良くない。

 既に避難は始まっているようだが、先程の攻撃で負傷して思うように動けない者、観覧車やジェットコースターに乗っており、アトラクションが終わるまで外に出られない者なども多く、完全な避難完了まではまだまだ時間がかかりそうだった。

 つまり我は、被害を最小限に抑えながらマシンゴーレムと戦い、全ての一般人の避難が終わるまでの時間稼ぎをしなくてはならない。

 かなりの長時間、このマシンゴーレムの相手をしなければならないだろう。しかも、炎魔弓インフェルノアローを撃てるだけの体力を残す必要があるので、我は本気を出すことができない。

 我とマシンゴーレムの実力差を埋めるには、十分すぎるほどのハンデがあった。


「ボロスさん! 大丈夫ですかっ!?」


 突如、上の方からレイさんの声が聞こえた。

 どうやら魔法で出した泡を足場にして、ここまで下って来たようだった。


「レイさん。俺はコイツを引き付けておかないといけません。コイツを倒すためには高火力の技が必要ですが、広範囲を巻き込むので避難が完了するまでは使えない。レイさんは一般人の避難をお願いします!」

「はい!」


 そう言ってレイさんは一般人たちの方へ駆けだした。だが、マシンゴーレムが彼女に照準を合わせていた。


「貴様の相手はこの我だ、鉄屑!」


 ガトリング砲を発射しようとしていたマシンゴーレムに対し、我は相手に大きな衝撃を与える魔法「フレイムショック」を発動し、奴の気を引いた。


『ボロスカッケー!』

『というかしれっとレイさんもいるのかw』

『レイさんと遊園地……、もしかして!』

『おい、それ以上言うんじゃないわよ〈ガチ恋ネキ〉』

『ブチギレで草www』

『とにかく、ボロスさん頑張って!』


 我とレイさんが遊園地に一緒にいたことについて推測しながらも、我を応援する声が多いように感じられた。


「随分と多いハンデを背負ったものだ。鉄屑、我と対等に戦えること、喜ぶが良い。数分後にはスクラップだろうがなァ!」


 遊園地での防衛戦が幕を開けた。

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