第10話 絶不調のボス戦

「着きましたね……、ここがボスの部屋です」

「すごい……、なんだか物凄い威圧感を感じます……!」


 レイさんは扉の前に立ち、中から漂う気配を感じたのか、扉に対して威嚇しだした。


『あ、ボロス笑った』

『やっぱり惚れてんじゃないの~?』

『【50000】ちょっと! そんな訳ないでしょ!? 口を慎みなさい!〈ガチ恋ネキ〉』


「えっ? 俺笑ってました? あ、ガチ恋ネキさんスパチャあざっす」


 コメントに指摘されるまで、我は笑みを浮かべていたことに気が付かなかった。

 やはり、レイさんに会ってからどうにも調子がおかしい。由々しき事態だ。後でコブリンに話すとしよう。

 未だコメント欄はガチ恋ネキが騒いでいてうるさかったが、無視してボスの部屋の扉を開く。


「コイツは……、ゴールドゴーレム!」


『マジかよ! ここに来てゴールドゴーレム!』

『ボロスついてないな……』


 このダンジョンのボスは三種類。誰がボスになっているかは時と場合による。

 今回のボスはゴールドゴーレム。三メートルを優に超える巨躯を持つ、三種類の中で最も強いとされるボスだ。

 まあ、これも勿論仕込みなのだが。


「さて、当然ボスも基礎魔法縛りで攻略していきますよー!」


 視聴者にそう言い放ち、我は早速動き出す。

 ゴールドゴーレムが動き出すよりも早く、我はゴールドゴーレムに接近し、三発のファイアボールを喰らわせる。


「どうだ……!」


 しかし、ゴールドゴーレムは全くダメージを負った様子が無かった。

 ……いや、この感覚、恐らく三発中二発は当たってすらいない。だが、奴に避けられるほどの俊敏性は無い。

 つまり。


『ボロスが技を外した……?』

『やっぱり兄貴調子悪くないっすか!?〈弟分ニキ〉』

『いや、ゴールドスライムとゴールドイーターを倒した時までは普通だった。ボロスの魔法が狂いだしたのはその後だ』

『それじゃあ、まるでボロス様がその女に惚れておかしくなったみたいな言い方じゃない! 違うから! 私に惚れて調子が狂ったんだから!〈ガチ恋ネキ〉』


 やはり、我の魔法の精度が圧倒的に落ちている。威力も、正確性もだ。

 そしてこれらは全て、レイさんに会ってから起きた。

 ……まさか本当に、我はレイさんに惚れているのか?

 我は思考を巡らせたが、戦闘中に余計な考え事は命取りだった。

 ゴールドゴーレムがその巨大な拳を我に向けて振り下ろす。何とか回避したが、我がいた場所には大穴が開いていた。


『ボロスさん! 厳しそうだったら縛り破っていいから! 死ぬのが一番ダメだ!』

『ボロス死ぬな!』


 どうやら、我を心配するコメントが多く寄せられているようだった。

 貴様らの心配には及ばん、と言いたい所だったが、あからさまに我は不調だ。

 ゴールドゴーレムはもう片方の手で殴りかかって来た。だが、やはりそこまで速度はないので、我は素早く回避した後、腕の上に着地して、そのまま頭部まで登っていった。


「お前はトロいんだよ! ファイアラップ!」


 そして、炎の剣で頭部を狙う。


 カキンッ!


『……え?』

『剣が折れた!?』

『マジでボロス大丈夫か!?』


 そうだ、思い出した。コブリンに頼んで、特別防御力の高い個体を設置してもらったのだった。まさか、こんな所でそれが裏目に出るとは。

 我はゴールドゴーレムの息に飛ばされ、地上三メートルから落下する。大した距離ではないが、あっけにとられていたため受け身が取れなかった。


「バブルウォール!」


 その時、天使の声が戦場に響いた。

 我の体は地に着く寸前で、魔法で作られた水の泡に受け止められた。


「レイさん……!」

「助けてもらったんですから、これ位して当然ですよ!」


『おおお! レイやるやん!』

『Cランクって言っても十分強いからな……』

『ちょっと! ボロス様はこんなので惚れないよね!? 私の方が何倍も強いんだからね!?〈ガチ恋ネキ〉』

『↑強がり乙w』


 レイさんの魔法に助けられた我は、改めて気を引き締める。

 不調の理由はまだ分からないが、レイさんと視聴者が見る前で負けることなどできない。


「ゴールドゴーレムよ、先程は情けない所を見せたな。だが、今度はそうは行かぬぞ」


『ボロスの戦闘狂モードキター!』

『よっ! 待ってました兄貴!〈弟分ニキ〉』

『ふっ、どうやら俺はまた連投しなければならないようだな……。〈赤スパの悪魔〉』

『↑勝利確信してて草w』


「レイさん、一気に畳みかけましょう。メインの攻撃は俺に任せて、死角からの攻撃に徹してください」

「はい! 頑張って合わせます!」


 我は再び、ゴールドゴーレム目掛けて走り出した。


「ファイアボール、ファイアラップ!」


 我はファイアボールを生成しながら、折れた炎の剣でそれらを野球をするようにゴールドゴーレムに打ち込んでいった。

 だが、タダで喰らうゴールドゴーレムではない。即座に我の方に向き直り、反撃の構えを取った。


「ボロスさんは私が守る! バブルボム!」


 だが、奴の単調な攻撃は簡単に読むことができる。レイさんの魔法の泡が、我とゴールドゴーレムの拳との間に生成される。

 我はすぐに距離を取り、泡を殴ったゴールドゴーレムは泡の爆発によるダメージを受けた。

 敵がひるんだのを確認し、我はすぐにとどめの攻撃に移った。


「ファイアギガ!」


 基礎魔法最後の技、純粋な炎の塊をぶつける火力自慢の魔法(基礎魔法比)だ。そしてこれを、最大限活かす。


「ファイアウォール!」


 我は天井に炎の壁を生成し、そこ目掛けて炎の塊を打ち出す。


「ゴールドゴーレムよ! こっちだ!」


 我は炎の剣を構えてゴールドゴーレムの気を引く。

 だが、本命は我ではない。

 ゴールドゴーレムが我を凝視する。上から接近する物にも気づかずに。


「———かかったな」


 最大まで張力を強化したファイアウォールに、それと同等の力を持つファイアギガがぶつかる。

 ファイアギガはファイアウォールによる跳ね返りと重力により、さらに勢いを増す。


「全く、どうにもこのダンジョンには頭が足りない奴が多いな」


 数倍にも勢いが増したファイアギガが、ゴールドゴーレムに着弾する。

 その威力にゴールドゴーレムは為すすべも無く、ただの金塊となったのだった。

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