第8話 嘘だろ……、まさかこの我が⁉
その女性の悲鳴は、少しの間断続的に鳴り響いていた。だが、しばらくすると何も聞こえなくなり、不穏な静寂が場を支配した。
『……放送事故か?』
『ボロス助けに行けよ』
『やっぱこのダンジョンってレベル高いんだなぁ……』
助けに行け、というコメントが多く見受けられる中、突如脳内に伝達魔法によりコブリンの声が響いてきた。
(コブリンか。これもお前の演出か? そしてやはり助けに行った方が良いのか?)
(これは想定外の事態ですが……。魔王様、ここはやはり好感度アップの為にも助けに行った方が良いかと。今すぐ行ってください!)
コブリンの指示を受け、我はその女を助けに行くことにした。
「皆さん、今からさっきの女性を助けに行きます。まだきっと助かるハズです!」
悲鳴は奥の方からこちらに向かって移動していたハズ。少し進めばすぐに見つかるだろう。
「……マジか」
そこで我は、とんでもない物を見てしまった。
目の前にいる魔物はゴールドイーター。鉱石をもかみ砕く程に顎が発達した、三メートルサイズのワニの魔物だ。
そのゴールドイーターの口から、人間の足が飛び出していた。
ゴールドイーターの目の前には、腰が抜けて動けなくなっていた女性の冒険者が一人。
「ああ……私のせいで……」
その女性は今にも消えそうな声で呟いた。
ゴールドイーターは顔を上に向けると、そのまま一気に口の中の人間を丸呑みした。
『嘘だろ……、丸呑みしやがった』
『これ放送事故か?』
『ボロス、どうする……?』
人間を丸呑みしたゴールドイーターは、次はお前だと言うように、目の前の女性へと飛び掛かった。
「ファイアウォール!」
我は咄嗟に、魔法で炎の障壁を作ってその女性を守った。
「あ、ありがとうございます……!」
「下がっててください。コイツは俺が倒します」
我は女性を後ろに下がらせ、剣を構えてゴールドイーターと対峙した。
『ボロスカッケー!』
『こんな時でもしれっと縛りは守ってるのな』
『流石私のボロス様……! 弱きを守る理想の強者の姿ですわ……!〈ガチ恋ネキ〉』
よし、コメントの反応も良い感じだな。予定には無いアクシデントだが、これもまた一興という物だ。
ゴールドイーターは目の前の獲物を取り損ねた事に怒ったのか、再び勢いよく口を全開にして突進してきた。
「やっぱ、所詮は脳筋ですね。ファイアボール!」
我はゴールドイーターの無防備に全開になっている口に、ファイアボールを五個ほど投げ込んでやった。
ゴールドイーターは突然口内に飛び込んできた熱い物体に驚き、その場でひっくり返った。
「ファイアラップ」
我は基礎魔法の三つ目、自らの持つ物体に炎を纏わせる魔法を発動し、剣に炎を纏わせた。
「覚悟しろよ、ゴールドイーター!」
我は炎の剣で、ゴールドイーターに斬りかかる。
対するゴールドイーターは、やはりまた口を大きく開けて迎撃してきた。
「何度やってもバカの一つ覚え! 貴様はもう少し脳を磨くべきだったなァ!」
我はそう言い放ち、ゴールドイーターの口の中に自ら飛び込んだ。
『……は?』
『ボロス血迷ったか?』
『脳を磨くべきはお前だよwww』
『待ってやだボロス様死なないで!〈ガチ恋ネキ〉』
『はぁ、期待してたのに。残念残念〈赤スパの悪魔〉』
落胆の声が多く聞こえたが、そんなもの関係ない。何度言えば分かるのだろう。貴様らと我ではレベルが違うという事に。
ゴールドイーターの口の中は、人が一人すっぽりと入れるくらいの広さがある。我はそこに着地し、口が閉じる前に上顎を内側から剣で突き刺した。
「ガァァァァァァ!?」
内側から突然突き刺され、さらに先程のファイアボールで火傷を負っていたことにより、炎の剣で突き刺されたダメージは倍増しているようだった。
「知ってるか? ワニという動物はな、口を閉じる力は強くても、開ける力は弱いのだぞ?」
そう言いながらゴールドイーターの口の上に飛び乗り、今度は上から上顎と下顎をまとめて串刺しにして地面に叩きつけた。
「グゥゥゥゥゥゥ……!」
「終わりだ」
巨大な口という唯一の武器を封じられたゴールドイーターに対し、我は炎を纏った拳で頭を殴ってとどめを刺した。
『やっぱり強い……!』
『いつも予想外の方法でダンジョンを攻略していく……、流石です兄貴!〈弟分ニキ〉』
『弟分なのにニキとは?』
『とりあえず討伐おめでとう!』
変な新キャラも現れたようだが、コメント欄はゴールドイーター討伐に盛り上がっているようだった。
(コブリン、一旦映像を切れ)
我はコブリンに伝達魔法で指示を出し、配信の映像を一時的に切ってもらった。
「すいません、ちょっと失礼しますね」
コメント欄にそう言い残し、配信が一時停止したことを確認すると、我はさっきの女性の元に向かった。
我が戦っている間に、ずいぶん遠くまで逃げたようだ。我がゴールドスライムを倒した場所の近くで、彼女はうずくまっていた。
「大丈夫ですか? ゴールドイーターは倒しましたし、今は配信も切っているので安心してください」
女性に話しかけると、彼女は震えながら顔を上げた。
透き通るほど綺麗な白銀色の髪を肩までのツインテールにまとめ、深く輝く紫色の瞳を持った、十六歳くらいに見える少女だった。
「あっ……、さっきは助けてくれてありがとうございました……」
少女が震えた声で言った。
……何故だ? 何か言い返さなければいけないのに、言葉が出てこない。何をしている我、相手はただの人間だぞ?
おかしい、明らかに何かがおかしい。普段ならば、こんな事はありえないハズだ。
……まさか、我はこの少女を可愛いと思っているのか?
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