魔王様、惚れる

第7話 禁断の縛りプレイ開始!

 翌日十四時、我は目的のダンジョンの前に立ち、配信開始のボタンを押した。

 マイッターで告知していた事もあってか、同接数は最初から三万を超えていた。


「皆さんこんにちはー! ボロスです! 昨日の配信が滅茶苦茶伸びてて自分でも驚いてます!」


『ボロスさんこんちわー!』

『あのレベルの配信で伸びない方が異常w』

『【50000】約束通り連投してやるよ!〈赤スパの悪魔〉』

『↑マジでやってるw しかも五万w』


 コメント欄も早速温まってきたようだ。そしてやはり現れた赤スパの悪魔。貴様の投げ銭促進効果には期待しているぞ。


「今回は、鉱石や宝石が沢山採れて一攫千金が狙えるこちらのBランクダンジョンにやってきました!」


『おお、ここか!』

『ここってBランクでもトップクラスに難しいとこじゃん』

『まあでもボロス様なら大丈夫でしょ! だって私のボロス様だもん!〈ガチ恋ネキ〉』

『↑まさかの新キャラ!?』


 随分と濃い視聴者が現れ盛り上がっていたが、同時に昨日よりも下のランクに挑むと知って落胆している者も一定数いるようだった。

 そこで、コブリンと話し合った策の一つを使う。


「はいまあ、俺は昨日Aランクを攻略しちゃってる訳なので、今回のダンジョンは縛りプレイで行こうと思います!」


『また縛りかよwww』

『どうせまた深淵の手擦るんだろ?』

『昨日も縛りプレイ定期』


 コメントには舐めた口を利く不敬な輩もいたが、無視して縛り内容を発表する。


「みなさん、この本は知ってますよね? 『魔法入門 誰でもできる炎魔法のキホン』です。今回はここに載っている炎の基礎魔法四種類だけで、このBランクダンジョンを攻略していきます!」


 コブリン曰く、人間どもにとってはAランクもBランクも『化物級に強い』という印象らしい。

 そして、この『魔法入門 誰でもできる炎魔法のキホン』に載っている四種類の炎魔法は、炎魔法に一定以上の適正があれば誰でも使えるような、その程度のレベルの魔法である。一般的には、この四種の魔法だけで攻略できるのは、最低ランクのFランクダンジョン程度だと言われている。

 つまり、『BランクダンジョンにFランクでしか通用しないような魔法だけで挑む』というのは、人間どもから見ればやはり衝撃的な事なのだ。


『待て待て待て待て!』

『流石にそれは無謀だろw』

『いやでも、ボロスさんなら行ける……のか?』

『【50000】これで本当に縛り達成したらまた赤スパ連投してやるよw〈赤スパの悪魔〉』

『赤スパしながら言うなやwww』


 想定通り、コメント欄も驚きの様子を見せていた。


「赤スパの悪魔さん、スパチャありがとうございます! まあという事で、この基礎魔法だけで攻略してやりますから! 対戦よろしくお願いします!」


『がんば~』

『また俺達は歴史的瞬間を目にしてしまうのか……?』

『【50000】ボロス様死なないで! ヤバい時は無理しないでいいんだよ? 命最優先で頑張って!〈ガチ恋ネキ〉』


 お、ガチ恋ネキとやらが赤スパを投げてくれたようだ。しかし此奴のコメントは一々気持ち悪いな。我がそんな心配に及ぶと思うか?


「ガチ恋ネキさん、赤スパありがとうございま~す」


 とりあえず適当にお礼だけして流しておく。


『なんかボロスの対応が淡白で草w』

『ボロス様そっけない……、でもそこがまた可愛い!〈ガチ恋ネキ〉』

『メンタル強すぎで草』


 ガチ恋ネキで盛り上がるコメントを聞き流しながら、我はダンジョンに足を踏み入れた。


「おー! 噂に聞いた通り鉱石が沢山ありますね!」


 本当は管理に訪れた時に何度も見ているのだが、配信者として大げさにリアクションしておく。


『ボロス、目が輝いてるw』

『やっぱりこの人結構現金なんだよなw』

『やっぱりそういう所も素敵……スキ……〈ガチ恋ネキ〉』

『【10000】そんな鉱石なんか無くても、俺のスパチャがあるじゃねぇか〈赤スパの悪魔〉』


 現金か。確かに、今のもやし生活を乗り切るためだったら、我は手段を選ぶつもりはない。

 そして赤スパの悪魔よ、中々面白い事を言うではないか。気に入ったぞ。


「赤スパの悪魔さん、ありがとうございます! まぁお財布に無理のない範囲でよろしくお願いします!」


 そんな事を言っていると、早速一体目の魔物が現れたようだ。

 奴はゴールドスライム。この鉱石が溢れる環境下で独自に進化したスライムだ。

 同胞を傷つけるのは、少しも心が傷つかない訳ではないが、倒せば純金を落とすこともあるようなので遠慮なく行かせてもらう。


「ファイアボール!」


 本の一番最初に載っている魔法、ファイアボール。小型の炎の球を投げつけるだけの極めてシンプルな技だ。だが、これも我にかかれば……!


『ファイアボールが……同時に五個!?』

『やっぱバケモン過ぎるw』


 ファイアボールを五つ同時に展開し、ゴールドスライムを囲うようにして設置する。


「燃え盛れ!」


 そして一斉に、ファイアボールを放つ。五つのファイアボールが合わさった圧倒的温度と火力で、ゴールドスライムはドロドロに溶けてしまった。

 そして、熱せられたことで中から出てきたのは……


「おお! 純度の高い金だ! これは高く売れますよー!」


 純金を手にし、袋にしまった時だった。


「きゃああああああああああ!」


 ダンジョンの奥の方から、女性の叫び声が聞こえてきた。

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