第5話 想定外さえもエンタメに
我はワイバーンに勝利したことを大々的に視聴者に向けて告げる。ワイバーン討伐という偉業を目の当たりにして、皆興奮している様子だった。
この我も、コメントにちやほやされて僅かに油断していた。だから、気が付けなかったのだ。
『あれ、ワイバーンまだ動いてね?』
我の身の危険を告げるコメントに。
「グオォォォォォォォ!」
ワイバーンは音もたてずに起き上がっており、反応が遅れた我の背中をその鋭い爪で切り裂いた。
「何、だとッ!?」
先程の一撃で仕留めたと思っていたが、どうやらこのワイバーン変異種は我の想定以上にタフだったようだ。あれほどのダメージを受けてなお、動きが鈍った様子が無い。それどころか、怒りでより俊敏になっている節まである。
『ボロス、大丈夫か!?』
『ここにきて負けるのか!?』
『もしかして俺、赤スパ回避できる?【赤スパの悪魔】』
『↑まずはボロスさんの身の安全を心配しろ』
「……ギリギリで躱して、魔力による防御も施したので、命に関わるほどの重傷は負ってません。安心してください」
コメントに心配する声が多く寄せられたので、ひとまずは無事を報告しておく。
だがしかし、まさかここで想定外の事態が発生するとは。
……まあ、この程度の想定外ならばすぐに対処できるのだが。むしろ、さらなるエンターテインメントの機会を与えてくれたことに感謝しよう。
「さあ、こっからが本番だ。生きの良いワイバーンめ、その息の根を止めてくれよう……!」
『あれ、ボロス喋り方変わった?』
『でもこっちの方が強そうで良いかも』
『マジでボロスさんかっこよすぎ! 好き!』
コメント欄には我の口調の変化に気付く者もいたが、中々好評のようだった。ならば、此奴を倒すまではこれでも問題ないだろう。
「良いか、ワイバーン。我が本気を出したら、貴様は一瞬で灰となり、我はハイになるのだ。久々に面白くなって来た、火力上げてくぞ!」
我は再び深淵の手を発動し、まだ残っていた柱を伝ってワイバーンの頭上を取った。
それに対しワイバーンは、今度は風魔法で遠距離攻撃に徹するという戦法を取って来た。
「成程、学習能力も高いわけか。だが、我が学習する間もなく葬ってくれよう!」
深淵の手を解除し、宙に浮いた我は、ワイバーンを見据えて炎の魔法を発動する。
大きさは掌に乗る程度。しかし、そこには先程のフレイムボールの二倍以上の魔力を込めている。
変幻自在の魔力の炎。それを我は弓を引くようにして伸ばした。
「さらばだ、ワイバーンよ!」
そしてその炎の矢を、ワイバーン目掛けて放つ。
「
炎の矢を、目視できない程の速さで打ち出す。そして一秒も経たぬうちに、ワイバーンに着弾した。
ワイバーンがいた場所を中心に、ダンジョンの天井まで届くほどの巨大な火柱が発生する。ボスの部屋全体が炎に包まれる。防御魔法を張らなければ、我も焼き尽くされていただろう。
炎が消え去った時には、既にワイバーンは灰と化していた。
『……言葉が出ねぇ』
『人間技か、これが?』
『どっどどどうせこれ加工だろ!』
『今の魔法、普通にSランクにも通用するんじゃね? 知らんけど』
『やっぱりボロス様サイコー!』
コメント欄は呆然としていたが、それでも確かな盛り上がりを見せていた。やはり人間どもは派手な物がお好きなようだ。
『ああ、これで俺は赤スパ連投確定か……【赤スパの悪魔】』
『ドンマイw』
「赤スパの方、無理はしなくて大丈夫ですよ。まあでも、やっぱり少しは無理してほしいかも?」
『現金だなw』
『やっぱりどこか人間味があって可愛いんだよなぁ……』
『↑惚れてるやんw』
お、どうやら我のネタが受けたようだ。これはコブリンに言えと言われたわけではなく、本当に我が考えて言ったものだ。さっきもそうだが、やはり人間どもにでも褒められれば嬉しいものだ。
『というか、さっき喋り方変わってたのは何なんだ?』
『もしかしてボロスって戦闘狂w』
だがやはり鋭い者もいて、先程の口調の変化について突かれてしまった。
「えーっとですね……、アレはアレです! 戦闘でテンションが上がると口調が変わるんです!」
理由を考えていなかったので、即興での適当な理由付けになってしまった。……通るか?
『うおっ、漫画のキャラみたいで面白れーw』
『そのキャラ良いなw』
『強いだけじゃなくキャラも濃いなんて……、ますます推したくなるじゃん!』
何故だか分からないが、結構受けているようだ。なら良かった。
「それじゃあ、ボスのワイバーンを倒したので、あとはギルドで報酬を貰うだけですね! ゲットした報酬は後でマイッターに写真を上げるので、そっちのフォローもお願いします! では、また次回会いましょう!」
『おつかれ~』
『次も絶対来る』
『こりゃあとんでもない新人発掘しちゃったなー!』
『ファンになりました!』
沢山の好意的なコメントに包まれながら、我は配信を終了した。
最高同接数は十万人。初配信にしては最高の出来だろう。
さて、早速ギルドで報酬を貰い、コブリンと今後について話し合うとしよう。
我は足早にダンジョンを後にした。
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