第4話 ボス戦でも無双する!

「それでは、ボスを攻略していこうと思います!」


 我はそう言いながら、ボスの部屋への扉を開けた。

 部屋の中には、不規則な間隔で岩の柱が乱立していた。そして、その影に潜んでいたのは……。


「あれは……、ワイバーン? でも何か様子が変ですね」


『おいおいおい、マジのワイバーンじゃん』

『でもボロスさんの言う通り、何か変かも』

『もしかして変異種とか……?』


 コメント欄には中々勘が鋭い者もいて、ワイバーンの正体を見抜いているようだ。

 ここに設置したワイバーンは、我々が特別に飼育した突然変異種。この柱が乱立する空間でも自由に動けるように、通常よりも柔軟性を大幅に向上させている。

 さらに風の魔法にも特化させ、体色も黒の斑点が入った濃い緑色に変化していた。


「どうやら変異種みたいですね。こりゃ中々厄介になりそうだ。皆さんも『深淵の手』は見飽きてきたでしょうし、この戦いは本気で行きますよ!」


 我は配信を見ている人間どもに向けて、そう宣言した。


『逆に本気じゃなくてあの強さかよ!』

『そもそもワイバーン自体討伐例がほぼ無いから、互角に戦える時点で化物なんだよな……』

『ボロスさん死なないで! ここで死んだら私泣くよ!』

『ワイバーン倒せたら赤スパ連投してやる。まあ無理だろうけどw【赤スパの悪魔】』

『マジか、赤スパの悪魔じゃん! 配信名物の!』

『がんばれ! ボロス!』


 コメント欄は、配信が始まって以降最高の盛り上がりを見せていた。

 そしてしれっと投げ銭を予告する者もあらわれたようだ。

 さあ人間ども、ここからが本番だ。


「来い、ワイバーン!」


 我はワイバーンに向けて開戦の合図を出す。


 ダンジョンは、ボスを倒さないと攻略した判定にはならない。故に、このワイバーンはしっかりと討伐しなくてはならない。

 ならば、極力最高のエンターテインメントにしてやろうではないか。

 早速、ワイバーンは自慢の翼と風魔法で加速して、我に襲い掛かって来た。


「流石に速いな……! ならばこちらも! 『深淵の手』」


『またそれか』

『確かにそれ強いけど、ワイバーンとは相性悪くないか?』


 度重なる同じ魔法の使用でコメント欄が若干冷めているのを感じたが、想定内だ。逆に我が、貴様らが想定しないような使い方をしてやろう。

 手に魔力を集め、それを前に突き出す。

 我の手の中の影から直接漆黒の手が放たれ、遠くにある岩の柱を掴んだ。


「行けッ!」


 そしてそのまま、漆黒の手をワイヤーのようにして柱まで高速で移動する。


『おいおいおいおいマジか!』

『深淵の手汎用性高すぎだろ!』

『その魔法俺達にも教えてくれ!』


 深淵の手の想定外の活用法に、コメント欄はひどく驚いているようだった。まあ、それも無理はないだろう。

 我を仕留めそこなったワイバーンは、再び我に狙いを定め、またもや高速で向かって来た。

 しかし我も、漆黒の手を次々と伸ばし、柱を伝って高速で避けていった。


『戦いのレベルが高すぎてついていけねぇ』

『なんでワイバーンと追いかけっこが成立してるんだよ!』

『ボロス強すぎ定期』


 さて、深淵の手を応用した高速移動で視聴者を魅せることには成功した。ここから戦闘は、コブリンと話し合った第二ラウンドに移行する。


【ワイバーンとの戦闘場所は、深淵の手の応用技が使えるように柱を沢山立てておきます。そして柱の役割はそれだけではありません。魔王様には、柱をぶっ倒してもらいます】


 我は漆黒の手で柱を登っていき、ワイバーンの頭上を取った。

 そして、懐に差してあった剣を抜く。


『ボロス剣も使えるのかよ!』

『一体何をする気だ……?』


 我は柱に足を着け、剣を構えてワイバーンの方を見据えた。


「フレイムボール」


 そして、我とワイバーンの間に、巨大な炎の球を生成する。


『待て待て待て! 何で火の通常魔法があんな大きさになってるんだよ!』

『ボロスさんと俺達じゃ魔法のレベルが違うぜ……!』

『↑分かり切ってた事だろw』


 我が使ったフレイムボールは、基本的な火の魔法。だが、それも我が使えば十分強力な魔法になる。


「さて、カッコよく決めちゃいますよー!」


 足に力を込めて、柱を思い切り蹴る。そしてそのまま、落下の速度も合わせて高速でワイバーンの元に斬りこむ。


「ギャアァ!?」


 ワイバーンはあまりの速さに我を目視できなかったようで、突然体を斬られたことに驚いているようだった。


「驚いてる所悪いけど、本命はそっちだから」


 そして我は、そんなワイバーンに容赦なく吐き捨てる。

 ワイバーンの頭上では、我が真っ二つに斬ったフレイムボールが丁度炸裂している所だった。

 我に斬られた事により、内側に圧縮されていた魔力があふれ出し、大爆発を起こしたのだ。

 そして、我が一閃した時についでに斬っておいた柱の何本かも、ワイバーン目掛けて倒れていた。

 結果として、ワイバーンは瓦礫と柱の下敷きにされて、身動きがとれない状態になっていた。


「さあ、ワイバーンを倒しましたよ!」


『……ごめんちょっと理解が追い付かない』

『ワイバーンに人間が勝つところを見れるなんて……!』

『あれ、俺もしかして赤スパ連投確定?【赤スパの悪魔】』

『↑乙w』


 コメント欄は、ワイバーン討伐の事実にとんでもない盛り上がりを見せていた。

 気が付けば、同接数も五万を超えていた。

 これならば、かなりの利益が見込めそうだ。流石はコブリン、我が右腕よ。


「いやー、中々強かったけど何とか倒せました! 皆さん応援ありがとうございます!」


 我は堂々と、視聴者に勝利宣言をした。




『……あれ、ワイバーンまだ動いてね?』

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