第6話 配信の成果

「コブリンよ、戻ったぞ!」


 我はギルドに赴き報酬(元をたどれば我々の財なのだが)を受け取り、我が根城・魔王城に帰還した。


「魔王様! お疲れ様でございます! 配信、大変素晴らしゅうございました!」


 我の帰宅を察知すると同時に、コブリンが素早くやってきて我の肩もみを始めた。


「初配信で最高同接数十万人だなんて、異次元ですよ! やはり魔王様は格が違う! チャンネル登録者も既に六万人を突破、マイッターのフォロワー数も四万人に到達しています!」

「……今回はお前の策に救われた。感謝する」


 本当に今回はコブリンに救ってもらったと思っていたので、コブリンに感謝の意を伝える。それを聞いたコブリンは、


「ま……、まさか魔王様から直々にお褒めの言葉をいただける時が来るなんて……! 光栄でございます! これからも魔王様のために誠心誠意尽くして参りますので、どうぞよろしくお願いいたします!」


 と、まくし立てた。どうやら大喜びしているようだ。

 先の配信で、我は褒められることの嬉しさを理解した。正直言って、これまでの我は部下に少々きつい所があったのかもしれない。そのあたりも、今後は多少改善してやっても良いだろう。

 ひとまずギルドで貰った報酬の写真を撮影し、マイッターに投稿した。

 そしてそれを確認すると、コブリンがホワイトボードの前に立って語りだした。


「では魔王様、改めて今回の配信の成果を確認させていただきます」


 ホワイトボードに投影されたのは、登録者が六万人を突破し、今まさに七万人をも超えようとしている「ボロスちゃんねる」と、マイッターのトレンド画面、そしてそれらに関連する文字の羅列だった。


「今回の配信は大々的に話題となり、関連ワードが一斉にトレンド入りを果たしました。これらのトレンドワードや、一部のファンたちによって作られた配信の切り抜きなどから、現在進行形でアーカイブの再生数が伸びています。そしてこれにより、マーチューブにおける投げ銭、いわゆるスーパーチャットの機能が解放されました」


 スーパーチャット。配信中も、やたらとそのような物をしようとしていた輩がいたのを思い出した。


「成程、それがお前の言っていた配信による利益の一つか」

「はい。配信中に現れていた『赤スパ』を投げようとした人間、名前は赤スパの悪魔。此奴の言う『赤』というのが、投げ銭の額のランクです。なので次回の配信時、此奴は約五万円の赤スパを複数回投げるでしょう」


 五万円。そしてそれが連投されるともなると、何とも魅力的な話だ。これなら、コブリンが言っていた「稼げる」というのも納得だ。


「さらに、この赤スパの悪魔が投げ銭を行った配信では、他視聴者の投げ銭率も高くなるというデータがあります。推しに認知されたいという承認欲求が強まるのでしょうね。とにかく魔王様、投げ銭をしてくれる視聴者は神様同然に扱ってください!」


 配信中の喋り方に加えて、またコブリンから面倒な指示が出た。

 だが、先の圧倒的な金額の話を思い返すと、それも案外悪くないと思った。


「……まあそれは良いだろう。して、今回の配信による利益はどの程度なのだ?」


 我はコブリンに一番大事な質問をぶつける。

 コブリンは少しパソコンをいじると、すぐに答えを出した。


「あー、まだ収益化は出来てないですねー」


 ……うむ。はぁ!?


「おい、収益化が出来ていないとはどういう事だ!」

「落ち着いてください魔王様! マーチューブで収益化するには一定の基準があるんです! 今回の配信ではそれを満たしていなかっただけで、つい先ほど基準を満たしたので次回からはちゃんと収益が付きます! 今回の配信はいわば自己紹介! なるべく多くの人間どもに『ボロスちゃんねる』を知ってもらう事が狙いです!」


 コブリンが高速で言い訳——もとい、解説をした。

 それにしてもマーチューブ、本当に制限だの基準だのが多いな。これだから人間どもの世界は面倒で嫌いだ。


「……制約、か」


 気付けば、我はボソッと呟いていた。


「魔王様……、制約というとやはり、先代様の事でしょうか?」


 コブリンが心配そうに聞いてくる。

 先代の魔王、つまるところ我の父上は、魔王の座を降りた今でも、一定の権力を持っていた。

 今回の、財政難をなんとかせよという問題も、父上が我に解決するように言って来たものだ。


「先代様は人間どもを毛嫌いしていましたから、今回の件をお伝えしたらどうなるか……。ひとまず、先代様には詳細な稼ぎ方は伝えないでおくとしましょう」


 コブリンは顔を青くして、資料を棚の中にしまって鍵をかけた。まあ、父上は今別邸——世間での二つ目のSSSランクダンジョンにこもっているから、すぐに見られることはないのだが。


「とにかく、早速明日も配信を行いましょう! 鉄は熱いうちに打て、ですよ!」


 そう言うとコブリンは、早速ホワイトボードにとあるダンジョンを映し出した。


「ダンジョン配信による利益は三つ。収益化と投げ銭と、あと一つはダンジョン内に眠る豊富な鉱山資源です」


 映し出されたダンジョンは、かなり鉱石などが発達している様子だった。


「人間側との条約により、ダンジョンの管理者である我々がこれらの資源を持ち帰ることは許されていませんが、冒険者は別です。なので魔王様には、このとんでもなく稼げると有名なBランクダンジョンで配信を行っていただきます!」


 Bランクダンジョン。純粋な難易度で言えば今回の方が遥かに上だが、AランクもBランクも非常に少ないので、大して変わらないだろう。あとは適当に縛りプレイで補えば良い。


 コブリンの言う三つの利益が集結するであろう明日の配信。それを最大限盛り上げるべく、我はコブリンとの話し合いを始めた。

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