第2話 金欠魔王の逆転作戦
~ボロスの初配信から一週間前のこと~
我こそはボロス=ディア。魔物を従えし偉大なる魔王である。
だが、そんな偉大な魔王である我は今、とある事情に悩まされていた。
「おのれ……、何故偉大なる魔王の一族であるこの我が、もやし生活を強いられなければならないのだッ……!」
そう、現在魔王政府の財政は、非常に逼迫していた。
それは何故か? 結論から言うと、ダンジョン経営が大赤字になってしまったのだ。
二千年前、古代の日本にて魔物と人間という二つの種族が激しい戦いを繰り広げた魔導大戦。長きにわたり両陣営に甚大な被害をもたらした戦争は、魔物側と人間側の協議により決定した停戦条約によって終結した。
『人間の土地に魔物の巣窟を設置し、結界を張る。人間側が停戦条約を破って攻撃を行った場合、結界を解除しその中の魔物を解放する。各地に設置した巣窟に一部を除いた魔物を住まわせ、残りの知性が高い魔物は極東の地(現在の東京)に設けられた魔物領に住むこととする。』
この条約により、人間の街に設置された巣窟が、後にダンジョンとなったのだ。そして、我が今いる魔王城周辺や、父上が住む別邸のある魔物領は、通称SSSランクダンジョンと呼ばれるようになった。
だが、二千年も経てば、魔導大戦の記憶も条約の記憶も有耶無耶になるという物だ。二百年ほど前だろうか、好奇心旺盛な人間達が、自らダンジョンに飛び込むようになったのは。
ダンジョンに飛び込み、魔物を倒したり倒されたり。魔物側と人間側、両方に被害が出たため、当時の魔王と人間の代表がダンジョンに関する話し合いを行った。
そして、このようなルールができたのだ。
『全てのダンジョンは魔王政府を中心として人間政府との共同で管理を行い、冒険者とダンジョンのマッチングは、総合ダンジョン管理局〈ギルド〉が行う。冒険者はダンジョンに挑む際、ギルドを通じて魔王政府に参加費を支払い、ボスを討伐した場合、魔王政府からギルドを通じて報酬が支払われる。』
このルールに基づき、二百年ほどダンジョンの攻略が行われていた。
しかし、魔王が我に交代した途端、冒険者たちのレベルが上がり、参加費による収入よりも報酬による出費が多くなってしまった。
安全のために、参加できるダンジョンに制限がかかったのも理由の一つかもしれない。
まあとにかく、そんなこんなで我は今、とてつもなく金欠に困らされているのだ。
「魔王様! 何か閃かれたのですか?」
「うるさい。今考えているところだ。黙っておれ」
考え込んでいると、我の部下であるコブー=クリンが話しかけてきた。
此奴は我の執事であり、優秀なゴブリンだ。ゴブリンであるにも関わらず、ここまでの圧倒的な魔力と知能は賞賛に値する、我のお気に入りだ。コブリンと呼んで可愛がってやっている。
「コブリンよ、そういう貴様は何か策があるのか?」
我はダメ元でコブリンに案を求める。
それを考えるのが魔王様の仕事でしょう? と返されると思ったが、返答は意外な物だった。
「はい。実は一つ、一発逆転の策がございます」
「そうか、やはり貴様でも有効な策は―――って、あるの!?」
我としたことが、驚きのあまり椅子から転げ落ちてしまった。
「魔王様! ご無事でしょうか!?」
「良い、策とは何だ。言って見せろ」
我が言うと、コブリンは咳ばらいをして語りだした。
「一発逆転の策、それはズバリ〈ダンジョン配信〉です!」
ダンジョン配信、その言葉は聞いたことがある。
ダンジョンを攻略しようとする冒険者の中に、いつからか配信をする者が現れだした。ダンジョンを華麗に攻略していく様は人間どもに大受けし、一大ブームとなった。
……のだが、我から見てみれば、どの配信者も極めてレベルが低い。人間どもはあんなつまらん物のどこに面白さを見出すのだろうか。
「詳しく説明しますとね、こちらをご覧ください」
コブリンはホワイトボードを持ってきて、そこに図を描きながら説明を始めた。
「まず、魔王様がダンジョンに挑戦します。ここで払う参加費は、ギルドを通じて我々に還元されるので問題ありません。そしてダンジョンを攻略した際の報酬も、我々から我々に支払われるので、ここまでだとプラマイゼロです」
「では、どうやって稼ぎを得るというのか?」
我は椅子に座り直し、コブリンに質問する。
「そこで、ダンジョン配信です! 参加費が我々に還元されるので、魔王様は実質タダでダンジョンに挑むことができます。そして、そこに配信による利益が加わることで……」
「タダで配信して、タダで利益を得られるという事か。しかし、今やダンジョン配信などありふれているぞ。そんな中で、莫大な利益を得られる―――人気配信者になる方法があるのか?」
我は疑問に思い、コブリンに聞く。それを聞いた彼は、待ってましたとばかりに目を輝かせて解説を始めた。
「そこでです! 魔王様は圧倒的にお強い! 人間に化けていただいて、高ランクのダンジョンを攻略する姿を配信すれば、確実にバズるはずです! しかも、ダンジョンは我々が管理しており、いわば我々の庭です! 魔物の種類や配置、ダンジョン内の仕掛けなど、我々はいくらでも操作できるのです!」
「成程……、つまり『自作自演の配信で人気を得る』という事か」
我はそれを聞き、しばらく考えた。そして……
「実に良いアイデアだ。早速準備に移るぞ!」
初配信への準備を行うのであった。
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