【完結】ダンジョン管理人の魔王様がダンジョン配信をするようです

炭酸おん

魔王様、配信する

第1話 歴史を動かす配信者、現る!

 ここは、万人が知る自由な動画投稿サイト、マーチューブ。

 多種多様な動画が集うマーチューブで、近年圧倒的な人気を誇っているジャンルがある。

 ダンジョン配信だ。

 その名の通り、魔物の巣窟であるダンジョンに自ら飛び込み、それを攻略していく様を配信するのである。

 人気配信者の配信は、アーカイブでも十万再生を超えることもある、夢のある職業だ。

 しかし同時に、あらゆる者たちが一斉にダンジョン配信に手を出したため、その手の動画は最早飽和状態。人気を得るのは難しくなっていた。


 ―――そんな中、ある新人ダンジョン配信者が、配信を開始した。

 紫色の長髪を風になびかせたクールな男が、ダンジョン前に立っている。

 またつまらない新参者か。誰もがそう思っていただろう。しかし、その予想は一瞬で打ち砕かれることとなる。


「はい、今回はですね、こちらのAランクダンジョンに挑んでいきたいと思います!」


 ダンジョンには、危険度に応じてランク分けがされている。

 命の危険もあるため、ダンジョンを攻略する者は、自身のランクと同じランクのダンジョンまでしか挑むことができない。

 Aランクと言えば、全部で六人しかいない超高ランク。ぽっと出の新人が、いきなりAランクダンジョンで配信をしようというのだ。


『あーあ、死んだわコイツw』

『というか普通にAランクってヤバくね?』

『もしかして期待の新星なんじゃ……。イケメンだし』


 ダンジョンを普通に攻略するのと、配信しながら攻略するのとでは、難易度が桁違いだ。

 初配信でいきなりAランクに挑戦しようというその配信者を見て、コメント欄には嘲笑する者、ランクに驚く者、早くもヒットを期待する者など、様々な反応が見られた。


「お、なんか急に同接増えたな…。じゃあ改めて自己紹介! 新人ダンジョン配信者のボロスです! 今回は初回にして早速、Aランクダンジョンに突入しようと思います!」


『コイツ、マジでAランクなのか?』

『だとしたらトップレベルの冒険者じゃん』

『でも、Aランクといえど、同格のダンジョンを配信しながら攻略するのは厳しいんじゃ……』


 ボロスの身を案じるコメントが増える中、彼はついにダンジョンへと足を踏み入れた。


「———っと、早速魔物がいますね。あれはデスウルフですかね」


 デスウルフ。圧倒的な俊敏性と強靭な爪で、数多の冒険者を葬って来た魔物だ。Aランクともなると、このレベルの魔物が通常魔物の感覚で現れる。


『あー、終わったわ逃げろ逃げろ』

『今まで何人の配信者がデスウルフにやられたことか…』


 コメント欄は絶望しているが、当のボロスは全くひるんでいなかった。


「皆さん、俺があんなのに負けると思います? ちょちょいのちょいですよ」


 ボロスは余裕ぶって言うと、その手に魔力を集めだし、そのまま地面に触れた。


「はい、行きますよ! 『深淵の手』!」


 ボロスが触れた箇所から地面が黒く染まっていき、デスウルフの下まで広がっていった。


『これは……魔法?』

『こんな魔法見たこと無いぞ』


 ボロスの謎の挙動に困惑するコメント欄。

 そして、ボロス目掛けて飛び掛かるデスウルフ。


『あーもう死んだわ。さよなら』

『やっぱりAランク配信は無謀だって…』


 誰もがボロスの死を確信したその時、突如としてデスウルフの動きが止まった。


『……は?』

『ボロス、何かした?』


 デスウルフは、黒い地面から現れた何本もの腕に掴まれていた。

 そしてその腕は、そのままデスウルフを黒い地面の底に沈めていき、やがてその姿は完全に見えなくなった。


「はい、デスウルフの討伐に成功しました!」


『……ごめん、ちょっと信じられないわ』

『というか、これ快挙だろ! こんなにあっさりデスウルフ倒すとかさ!』

『お前ら、拡散だ拡散! ここ切り抜きな!』


 あまりにも衝撃的な光景に唖然としていたコメント欄だったが、すぐに正気を取り戻してお祭り状態になった。


「生憎これ以下の技は持ち合わせていないので、今回はこのダンジョンをボス以外、今の『深淵の手』だけで攻略していこうと思います!」


 そして、とどめのボロスのぶっ飛んだ宣言。


『Aランクで縛りプレイとか前代未聞じゃんwww』

『この技強すぎて最早縛りにならないだろwww』

『いやでも、見た感じだと浮遊してる魔物には不利っぽいかも?』

『こんなに強くて顔も良いとか惚れるわ』


 ボロスに惚れる視聴者も現れる中、同接数は既に一万を超えていた。


「同じ技だけだと皆さんを飽きさせちゃうかもしれないので、ちょっと応用しますね~」


 ボロスが次に対峙していたのは、ハンタープテラ。空中を高速移動しながら、冒険者の頭を大きな口で丸呑みする、放送事故のお供とも呼べるモンスターだった。


「さあ、『深淵の手』!」


 ボロスは再び魔力を集め、今度は壁に手を当てた。


『あ、これまさか……』


 彼がやろうとしている事を察した視聴者もいるようだった。

 今度は漆黒の手が、壁から伸びてきた。

 漆黒の手はハンタープテラの翼を掴み、地面に叩きつけた。


「ようこそ! じゃあね!」


 ボロスは既に、ハンタープテラの落下地点に「深淵の手」を発動しており、そのままハンタープテラは奈落の底へと沈んでいった。


『やっば』

『ボロスのセリフが悪役すぎて草』

『もうコイツ化物だろ』


 コメントを聞きながら、ボロスは笑みを浮かべていた。


(なんだ、これだけでこんなに反響あるのか。チョロいものだな)


 Aランクダンジョンであるにも関わらず、彼がここまでのパフォーマンスを行えていたのは、この状況は彼が自分で作ったものだからである。

 ダンジョンに現れる魔物の種類も、数も、順番も、全て把握している。


 それは何故か?

 言うまでも無い、彼こそが全ダンジョンの管理者である魔王・ボロス=ディアだからである。

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