第90話 妹、咲く

「――ということで、今日は心愛も一緒に魔法練習を行う」


「よ、よろしくお願いします」


 英雄の隣で、心愛が緊張した面持ちで一礼する。


「よろしくね、心愛ちゃん!」


「楽しみ~」


 絵麻や一花の言葉で、心愛の表情が柔らかくなる。そんな心愛を見て、英雄の表情も柔らかくなった。


 それから心愛は、絵麻たちとともに英雄の指導を受ける。


 絵麻たちと一緒にやってみて、彼女たちの魔法のうまさを実感した。


 と同時に、彼女たちの魔法が上手な理由がわかる。


 英雄だ。


 英雄の指導は、心愛にとっても革新的と思えるものが多く、心愛も自身の上達を実感することができた。


 そして、心愛も有益と思えるような時間があっという間に過ぎ、終了時間になった。


 更衣室で着替えていると、絵麻に言われる。


「心愛ちゃんは、水着を持ってきた?」


「水着? 何で?」


「あれ? あいつから何も聞いていないの?」


「う、うん」


「ひでっちがマッサージをしてくれるんだよ」と一花が補足する。


「マッサージ?」


 心愛は眉を顰める。そんな話は聞いていない。


(……お兄ちゃん?)


 もしかして、兄はヤバいことをしているのでないか。そんな不安に襲われる。


「持ってないなら、あたしのを貸してあげるよ。あたしのっていうか、絵麻のだけど」


「何で私のを一花が持ってるのよ」


「絵麻に着てもらおうと思ってたやつ」


「ああ、そういうこと」


「どうする?」


 一花に問われ、心愛はいくばくかの逡巡の後、頷く。


 兄が間違った道に進んでいたとしたら、それを諫めるのも妹の仕事だろう。


「貸して」


「了解」


 それから心愛は、絵麻、一花、菜々子からマッサージの概要について教えてもらいつつ、英雄が待つテントへと移動した。


 テントに入ってきた心愛を見て、英雄は「あっ」と何かを思い出したように言う。


「そういえば、マッサージのことを伝え忘れていたな」


「安心して、あたしが水着を貸したから」


 英雄は心愛を一瞥する。心愛の顔は真っ赤になっていた。


「全然、安心できないんだが」


「まぁまぁ、そう言わず。ほら、心愛ちゃん。お兄ちゃんに見せてあげなよ」


「……本当にあれを見せるの?」


「大丈夫だよ。ここにはあたしたちしかいないし」


「そういう問題じゃないんだけど……」と心愛は戸惑いつつ、服を脱いだ。


 健康的な肢体が露わになる。一花が貸した水着は布地の面積が少なく、事故が起きたら、簡単に中が見えそうだった。


 英雄はため息を吐く。


「なんちゅうもんを貸してんだよ」


「聞いてよ。一花ってば、これを私に着せようとしていたんだよ」


「えー。だって、絵麻に似合うと思って。それに、絵麻だってこういうきわどいの好きでしょ?」


「好きじゃない! そういうの土井ちゃんの担当でしょ」


「え、私!? 私もべつに……」


 と言いつつ、菜々子は満更でもない表情でもじもじする。


 そんな絵麻たちのやり取りを見て、心愛は唖然とする。


(……これが、お兄ちゃんのやりたいことなの?)


 だとしたら、『幻滅』の二文字しかない。


 心愛が問いかけるような視線を投げかけると、英雄は首を竦めた。


(え、どういう意味?)


 心愛が直接確認しようとしたら、先に英雄が口を開く。


「それじゃあ、まずは心愛からマッサージしようか」


「はいはーい。心愛ちゃんはこっちに座って」


 一花と絵麻に手を引かれ、心愛はベッドの端に座る。


 英雄がその前に立つと、白衣のポケットから瓶を取り出した。


「それは?」


「『スライム・ジェル』だよ」と絵麻。


「これを塗ってマッサージすると、めちゃくちゃ気持ちいいんだよ」と一花が補足する。


 心愛は、英雄が掬ったスライム・ジェルを見て、息を呑んだ。


 何だかいけないことをしている気分になる。


「それじゃあ、やっていくね」


 英雄が心愛の足にスライム・ジェルを垂らした。ひんやりとした感触に、心愛は「ひゃっ」と驚く。


「今の心愛ちゃん、可愛い~」


「ね。食べちゃいたい」


「も、もう馬鹿にしないで、ひょん♡」


 英雄が心愛の足にスライム・ジェルを塗り込み始めた。


「お兄ちゃん。急にやらないでよ」


「すまん。すまん。魔力を流すね」


「え」


 ――瞬間。形容しがたい快楽が右足に走り、心愛はビクンと腰が跳ねる。


(な、何、今の。ヤバいかも)


 第二波がやってきて、「あっ♡」と甘い声が漏れてしまった。


 心愛は、顔を真っ赤にしながら口を押え、迫りくる快楽の波を必死で耐える。


 想像以上に気持ちいいマッサージだった。このまま昇天しそうである。


 そのとき、絵麻と一花の視線に気づき、心愛は恥ずかしそうに顔を隠す。


「あんまり、今の私を見ないで」


 絵麻と一花はにやりと笑い、心愛の耳に顔を近づける。


「ねぇ、心愛ちゃん。何で、私たちが水着を着ているかわかる?」


「え、何で……?」


「ひでっちはさ、足だけしかしてくれないから、上はあたしたちがするためだよ」


「え、ひゃっ♡」


 肩にジェルの感触。いつの間にか、後ろに菜々子がいて、肩にスライム・ジェルを塗っていた。


「ま、待って♡ こんあぁ♡」


 心愛が言いかけていた言葉を、一花は耳に息を吹きかけることで遮る。


「ふふっ、大丈夫だよ、心愛ちゃん。あたしたちも上手だから」


 ――その後、めちゃくちゃマッサージされた。

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