第84話 妹、知る

 ――2月初旬。アメリカにある某ダンジョン前。


 ダンジョンの入り口から十人の若い冒険者が現れる。男女の構成比は6:4。


 彼ら彼女らは、アメリカの冒険者育成プロジェクトに参加している冒険者であり、長期ダンジョン探索を見据えた訓練として、ダンジョン内で三ヶ月ほど生活していた。


 そして今、その訓練が終了し、十人は無事に外の世界へ戻ってきたのだった。


「戻ってきたら、クリスマスも正月も終わってやがる」


 そう嘆いたのは、ボブだ。ちなみに、英語で話しているが、表記上、日本語になっている。


「それも含めての訓練よ。諦めなさい」


 キャサリンがボブの肩を慰めるように叩く。


「やれやれ」


 首を竦めるボブにマイクは言う。


「その分、今日のパーティーを楽しまそうぜ」


「そうだな!」


 集団の後ろの方を歩いていた、赤い長髪のアジア系少女に、キャサリンが話しかける。


「ココアも行くよね?」


「う、うん」


 少女――火野心愛は頷いて微笑む。本音を言えば、騒がしいところは苦手なのだが、今日くらいは皆と楽しもうと思った。


「そうこなくっちゃ」


「それじゃあ、皆!」とボブが仕切る。


「19時に会場に集合だ」


 いったんはその場で解散し、心愛は普段着に着替え終え、キャサリンの母親が運転する車に乗り込む。


「すみません。お願いします」


「任せて!」


 普段は自分で運転するのだが、今日は訓練後の疲労も考えて、キャサリンに同乗させてもらうことにした。


 心愛は後部座席に座って、流れる外の風景をぼんやりと眺めていた。


 冒険者育成プロジェクトに参加して、約二年半。


 このままいけば、問題なくプラチナの称号が貰えそうだし、プラチナの称号があれば、難易度の高いダンジョンにも挑戦できるようになる。


 心愛の脳裏に一人の男の顔が過る。


(待ってて。もうすぐ会いに行くから)


 そのとき、心愛は思い出した。


(そういえば、最近、日本のニュースを確認していなかったな)


 ダンジョンの長期滞在前は、バタバタしてて、それどころじゃなかったし、ダンジョンに滞在中は、外部の情報がほぼ遮断されるので、知る機会が無かった。


 心愛はスマホを取り出し、SNSを開く。


 すると、いろいろな情報が流れくるので、適当に流し見していく。


 そして、Elementsというディーバーグループに関する記事を見つけ、手が止まる。


 心愛はいずれ日本に戻って冒険者をやりたいと思っていた。


 だから、冒険者関連の情報はそれなりにチェックしている。


(……急成長中のグループねぇ。私と同じくらいの子たちだ)


 何気なく彼女たちの動画を見て、「へぇ」と目を細める。


 彼女たちの魔法の使い方がプロのそれだった。


 今まで見てきた日本のディーバーでもトップクラスに上手い。


 しかも、それを自分と同じくらいの年齢でできていることに驚く。


(日本にも、優秀な冒険者はいるようね)


 アメリカは冒険者の技術に関しても一番だと言われている。だから、自然と上に見ていたが、侮ってはいけないようだ。


 Elementsに興味を持った心愛は、彼女たちの動画をいくつかピックアップして確認していく。


 そして――ある動画を視聴し、「ファッ!?」と驚愕する。


「どうしたの!?」


「大丈夫!?」


 キャサリンとキャサリンの母親が驚いて振り返る。


「あ、うん。ごめん。何でもない」


 心愛は笑って誤魔化すも、内心穏やかではなかった。


 Elementsの動画に、自分が探しているはずの人物――八源英雄が映っていたからだ。

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