ex1 女上司と

 ――木曜日。


 絵麻、一花、菜々子へのマッサージが終わり、彼女たちを見送った後、英雄はテント前で啓子と合流した。


「すみません。遅れてしまって」


「うんうん。大丈夫よ」


「それじゃあ、行きますか」


「うん」


 英雄は隣を歩く啓子を一瞥した。凛々しいその横顔からは、いつになく余裕のようなものを感じた。


「どうかしたの?」


 英雄の視線を感じたのか、啓子が微笑みかける。


「あ、いえ、何でもないです」


 英雄は笑って誤魔化した。


 テントに入る。啓子と二人きりである事に、多少の気まずさを覚え、英雄はさっさとマッサージをすることにした。


「それじゃあ、啓子さん。早速で申し訳ないんですけど、服を脱いでいただいてもいいですか?」


「ヒデ君が脱がせてくれないの?」


「え」


「なんて、冗談よ」


「ははっ」と英雄は渇いた笑みをこぼす。質の悪い冗談だ。


「それじゃあ、どうぞ。これを使って、体を隠してくただければなと思いますが」


 英雄がでかめのバスタオルを渡そうとすると、啓子は「ふっ」と笑う。


「その必要はないわ」


 そう言って、啓子はおもむろに服を脱ぎだした。


 英雄は困惑し、目のやり場に困るも、啓子が水着を着用していることに気づく。


「え、啓子さんって、普段から水着をつけているんですか?」


「そんなわけないじゃない。ヒデ君が絵麻たちの相手をしている間に、急いで準備したの」


「そうでしたか。すみません。わざわざ」


「いいの。気に入ったら、今後もしてもらうから」


 正直、面倒くさいと思ったが、その場は苦笑でやり過ごす。


(それにしても……)


 英雄の目は、ついつい啓子の胸に向かってしまう。いつもスーツを着ているから、気づかなかったが、その豊満さは、絵麻たちにはないものだった。コスプレのナース服が着れなかったみたいだが、これが理由か。


 啓子の手が動き、恥ずかしそうに胸を隠す。


「見すぎ」


「あ、すみません。それじゃあ、ベッドに寝ていただいて」


 啓子がベッドに仰向けで寝る。その二つのお山を意識しそうになるが、『賢者モード』を発動すれば、問題ない。心を無にして、マッサージの準備を進める。


 『スライムの体液』を取り出し、『スライム・ジェル』へ変える。


 ぬるぬるした粘性のある液体を見て、啓子は息を呑んだ。


「では、腕からやっていますね」


「うん」


 英雄はスライム・ジェルを啓子の右手に垂らし、塗り込んでいく。


「魔力を流しますね」


 魔力を流した瞬間。「んっ♡」と啓子から甘え声が漏れた。


「い、今、何をしたの?」


「魔力を流しただけですよ?」


「う、嘘。今のは、そんなんじゃ」


「嘘じゃないです。続けます」


「んぁ♡」


 英雄が揉み込んでいく度に、啓子から甘い声が漏れ続けた。


 そして、英雄が右の二の腕あたりをマッサージしているとき、手が滑って、お山の側面に触れてしまった。


「ひゃんっ♡」


「あ、すみません」


 賢者モードの英雄は淡々と謝罪する。


「も、もぅ。触りたいの?」


「いや、そういうわけではないんですけど」


「むっ、触りたくないの?」


「べつに」


 英雄の回答に、啓子はむっとする。積極的に触って欲しいわけではないが、自分の魅力を否定された気がして、少しだけ癪だった。


 それに、あまりにもマッサージが良かったから、少し気持ちが高ぶっていた。


「……ねぇ、ここのマッサージは無いの?」


「無いことは無いですけど」


「じゃあ、それをやって」


「え、でも」


「いいからやって」


 啓子の熱っぽい視線に困惑しながらも、英雄は「わかりました」と頷く。


 本人の希望なら、従ってあげたいところではある。


「それでは、少し失礼して」


 英雄の手が啓子のお山に向かって――。


♡♡♡


 ――すべてのマッサージが終わったとき、啓子は気絶していた。


 また一人、気絶させてしまったか。


 英雄は満足げに手を拭く。


 そのとき、啓子の水着の胸の部分がはだけていることに気づく。


 幸いなことに、中は見えていないが、このままだと啓子が起きたときに誤解されかねない。


 英雄は啓子が起きる前に直そうとしたのだが、啓子の体がかすかに動いて――見えてしまった。


 英雄の目に宿る青い炎が、荒々しく燃え盛った瞬間であった。

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