ex1 少女、いちゃつく

 ――絵麻の足のマッサージが終わった後のこと。


 絵麻は、ベッドに仰向けに倒れたまま、息を整えていた。気絶する――ほどではなかったが、かなり満足度の高い足のマッサージだった。


 一花は、マッサージの余韻に浸る絵麻から、英雄へ視線を移す。


「ねぇ、マネージャー。『スライムの体液』まだある?」


「あるけど」


「『スライム・ジェル』を作ってみたくて」


「いいね」


 英雄は白衣のポケットから『スライムの体液』を取り出し、一花に渡す。


 一花は、人差し指と中指を突っ込み、魔力を流した。


 その横顔を英雄は観察する。『スライムの体液』に向けられる真剣な眼差しから、一花の試行錯誤が見て取れた。


 そして、一花は納得した面持ちで、英雄にできた『スライム・ジェル』を渡す。


 英雄はそれを受け取って、確認する。


「ん。改善されてる。流石だな」


「まぁね」と一花は自慢そうに胸を張る。


「そうだ。これを使って、一花にもマッサージをしてあげるよ」


「え、いいの?」


「当然だろ」


「ありがとう」


 一花がベッドの端に座ろうとすると、絵麻が起き上がって、場所を開ける。一花がベッドの端に座り、絵麻はその隣で一花を眺める。


「マジですごかったよ」


「うん。絵麻、とっても気持ちよさそうだったし」


 絵麻は照れくさそうに頬を染めた。


 一花は靴と靴下を脱ぐと膝下までジャージをめくって、健康的な足を英雄に見せつけた。


「ほら、早く」


「わかってるよ」


 英雄はしゃがんで、一花の左足にスライム・ジェルを垂らし、揉み込んでいく。


「んっ。気持ちいい」


 まだ魔力は流していなかったが、それでも一花は満足そうに目を細める。


「それじゃあ、魔力を流すよ」


「ん」


 英雄が魔力を流す。


 ――瞬間。一花の背筋が伸びて、顔が赤くなった。


「これ、ヤバいね」


「でしょ」


 絵麻が嬉しそうに笑う。


 そして、英雄が本格的にマッサージを始めると、一花から甘い吐息が漏れて、顔がとろけ始める。


 そばでその様を見ていた絵麻は、おもむろに一花の耳元に顔を近づけると、「ふっ」と息を吐いた。


「ひゃっ♡」と一花の肩が震える。


「もう、ビックリするじゃん」


「ごめん、ごめん。一花が可愛くてさ」


「もう」


 一花が頬を膨らませると、絵麻はその頬をつんつんと突いて、いたずらっぽく笑う。


 それからおもむろに立ち上がると、一花を後ろから抱きしめる。


 絵麻が一花のお腹のあたりで手を組むと、一花は左手を絵麻の手に重ねた。


 絵麻は一花の肩に顎を置き、肩越しに英雄を眺める。


 すると、一花が言った。


「え、絵麻。髪がちょっとくすぐったい」


「そう?」


 絵麻がわざとらしく、頬を摺り寄せると、「だから、くすぐったいってばぁ」と一花はまんざらでもない表情で言う。


 ベッドの上で、女子高生二人がイチャイチャしていたが、英雄は無心で足を揉み続けた。


「あ、そうだ。私も一花にマッサージしてあげるよ」


「マジ? よろしく!」


「うん!」


 絵麻はベッドから下りて、英雄のそばに立った。


「ねぇ、私もマッサージしてみたいんだけど」


「なら、このジェルを使って――」


「『スライム・ジェル』を作るところからやってみたい!」


「――難しいと思うよ?」


「いいから」


「まぁ、いいけど。なら、これに水魔法を発動するときの感覚で魔力を流してみて」


「うん!」


 絵麻は、英雄から新しいスライムの体液を受け取り、英雄や一花がやっていたことを真似て、魔力を流してみる。


 が、思うようにいかず、スライムの体液が思うように変化しない。


 渋い顔をしていると、英雄と目が合った。英雄が苦笑を浮かべて言う。


「まぁ、俺もちゃんと教えていないし、とりあえず、今日はすでにできる『スライム・ジェル』を使おう」


 絵麻が不服そうに頷く。


「よし。じゃあ、とりあえず、俺に一回魔力を流してみて。そうだな。今日、電圧と魔力量の関係を確認してもらったと思うけど、とりあえず、100ボルトくらいの魔力量を流してみて」


 英雄はスライム・ジェルを塗った左手を差し出し、絵麻が流した魔力を確認する。


「――OK。今の量でいこう」


「うん!」


 絵麻はスライム・ジェルを一花の右足に垂らし、英雄に倣ってマッサージを始めた。


「一花、どう? 気持ちいいでしょ?」


「うん。うまいじゃん、絵麻」


「えへへ」


 仲睦まじい二人を見て、英雄は穏やかに微笑んだ。

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