第68話 白衣の勇者、乱入する
「ちょ、急に声を掛けないでよ! ビックリするじゃん」と一花は口を尖らせる。
「そ、そうよ!」と絵麻も頬を染めた。
「すまんすまん。で、何をしているの?」
「絵麻といちゃついてるんだけど。ね?」
「うん!」
「まぁ、べつにいちゃつくのは良いんだけど、場所は考えなよ。ここは一応、公の場所なんだから。動画とか撮られたら大変だよ」
絵麻と一花は顔を見合わせ、渋い顔で首をすくめる。
「はーい」
「気を付けまーす」
「……本当に理解しているんだろうな」
「っていうか、マネージャーこそ、こんなところで何をしているのさ。もしかして、あたしたちをこそこそ監視していたの?」
「えー何それ最悪。ストーカーじゃん」
「べつに監視はしてないが、気を掛けてはいた。それが俺の仕事なんでね」
英雄は、絵麻の右の足を見て、思案顔になる。
「もしかしてだけど……『スライム・ジェル』を使ったマッサージでもしてた?」
「え、見ただけで分かるの?」と一花。
「キモっ」と絵麻。
「キモい言うな。まぁ、二人が興味津々なことは知っていたから」
英雄はしゃがんで絵麻の右足を眺める。絵麻は恥ずかしそうに右足をさすった。
「あまりじろじろ見ないで」
「あ、ごめん。ちょっとだけ触って良い?」
「え」
「少し確認したいことがあるからさ。お願い」
「……少しだけだからね」
「ありがとう」
英雄は絵麻の右足首付近に軽く触れ、「なるほどねぇ」とつぶやく。
「何がなるほどなの?」
「これをやったのは一花だよね?」
「うん」
「ちょっと土の魔素が多いかな。雷の魔素を使ったマッサージをしたいなら、土の魔素を減らした方が良い」
「わかるの?」
「ああ。もちろん。あと、『スライム・ジェル』はまだある?」
一花はマントの下から瓶を差し出す。英雄はそれを受け取り、瓶を振って、ジェルの動きを確かめた。さらに、指を突っ込んで調べる。
「悪くないけど、水の魔素が多いね」
一花は眉を顰める。
「午前中は褒めてくれたじゃん」
「それはあくまでも、初めてやった割にはうまくできていることに対するものだ。マッサージに使いたいなら、もう少し調整した方が良い」
「むぅ。ってか、何でマネージャーはそんなにジェルに詳しいの? あ、もしかして、あの記事に出ていた『ダンジョン博士』って」
「さぁ、どうだろうね?」
英雄は涼しい顔で答える。翔琉が姉のことを絵麻たちには喋っていないみたいなので、今は誤魔化すことにした。翔琉に話さない理由があるのかもしれないし。
しかし、一花は確信した様子で言う。
「そんなに詳しいなら、教えてよ」
英雄は一花を一瞥し、瓶に視線を移す。そして、口元に笑みをこぼしながら答えた。
「いいよ。教えてあげる」
「え、いいの?」と驚いたのは絵麻である。絵麻は怪訝な表情で続けた。
「昨日は嫌だって言ってたじゃん」
「昨日は俺がやるだけになりそうだったから、嫌だったんだ。でも、興味があることを自分で確かめてみようとするその姿勢は素直に感心したし、そこからさらに知見を深めようとしているから、協力する気になったのさ。
それに、一花が『スライム・ジェル』を使ったマッサージができるようになったら、ボディケア的なところも自分たちでできるようになるだろうし、それはグループにとってプラスになる気がする」
「ふーん」
翔琉にもジェルを使ったマッサージは教える予定だが、女性が多いこのグループでは、一花ができることに越したことは無いだろう。将来的には、絵麻や菜々子にもできるようになって欲しいが、とりあえず、一花がどれくらいできるかを見てから、判断したい。
「ということで、一花はこれから時間ある? あるなら、教えるけど」
「あたぼうよ!」
「何で江戸っ子? まぁ、いいけど。絵麻は?」
「私も?」
「うん。嫌じゃなければ、マッサージしてあげるけど」
「え、あんたが私に? ……仕方ない。させてやるか」
「どーもありがとうございます。それじゃあ、レンタル品とか返した後に、テント前に集合で」
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