第67話 少女、揉む

「え、あのマッサージを、一花がやってくれるの?」


 絵麻は頬を赤らめて言った。


「うん!」


「できるの?」


「うん。午前中の練習で『スライムの体液』の使い方はだいたいわかった。安心して、マネージャーにも褒められたから」


「ふーん。で、でも、ここで?」


 絵麻は辺りを見回す。今は人がいないとは言え、来ないとも限らない場所だ。そんな場所で気絶するほど気持ちいと言われるマッサージを受けてしまったら……。


 絵麻は想像だけで、顔が赤くなった。


「そうだね。あたしたちだけじゃダンジョンに行けないし、『スライムの体液』は外に持ち出せないから、ここでやるしかない」


「あ、それもそうだね。ただ、それだけじゃなくて、その、気絶するほど気持ち良いらしいじゃん。それをこんな場所で」


「大丈夫。足だけにするから。足だけなら、そこまでじゃないんじゃないかな」


「確かに」


「駄目かな?」


「……どうして、一花は私にマッサージをしてくれるの?」


「絵麻も興味あるでしょ? だから、絵麻に体験してもらいたいなと思って。これで絵麻が喜んでくれたら、あたしも嬉しいし」


 絵麻と一花は見つめ合う。そして、絵麻は恥ずかしそうに頷いた。


「わかった。それじゃあ、お願いしようかな」


「流石、絵麻。そうこなくっちゃ。それじゃあ、右足だけ脱いでもらってもいい?」


 絵麻は頷き、ブーツを脱いだ。さらに、靴下も脱ぐ。絵麻はロングパンツ型のAUウェアを履いていたので、一花は膝下あたりまでAUウェアをまくり、絵麻の瑞々しい肌をさらした。


「絵麻の足、ちっちゃくて可愛いね」


「もう、馬鹿にしないでよ」


「ごめん、ごめん。始めるね」


 一花は『スライムの体液』が入った瓶を取り出し、瓶の中に人差し指と中指を突っ込んで、水の魔素を含んだ魔力を流した。


 すると、『スライムの体液』が『スライム・ジェル』へと変化し、一花が指で掬いあげると、粘性のある液体が糸を引くように伸びた。


 絵麻はごくりと息を呑む。


「それじゃあ、垂らすよ」


「う、うん」


 スライム・ジェルが絵麻の右足に垂らされ、右足に触れた瞬間、「んっ」と絵麻から声が漏れる。


 ひんやりぬるぬるな感触は、絵麻にとって初めての感覚だった。


 一花はそんな絵麻の反応を頼みつつ、ジェルを足全体に広げていく。


「んんっ。ちょっとくすぐったい」


「我慢我慢。ここから気持ちよくなるんだから。雷の魔力を流すね」


「うん」


 一花が雷の魔素を含んだ魔力を流すと、ビクッと絵麻の体が震えた。


「なんか、チクチクする」


「え、そう? おかしいな。雷の魔素を増やしているはずだけど」


「……でも、ちょっと気持ちいいよ」


「良かった」


 不安そうにしていた一花だったが、赤みを帯びた絵麻の表情で、笑みが戻る。


「それじゃあ、このまま、揉んであげるね!」


「うん!」


 それから一花は不慣れな手つきで絵麻の足を揉んでいく。絵麻はその様子を微笑ましく眺め、たまに訪れる快感に、ぶるっと体が震えた。


「――こんな感じでどうかな?」


 一花が右手から手を放すと、絵麻は右足をぷるぷる振って、感覚を確かめる。


「ありがとう。なんか軽くなった気がする」


「良かった」


「せっかくだし、今度は私が一花にしてあげるよ!」


「え、本当! あ、でも、その前に、もう一個やっておきたいことがあるんだよね」


「何?」


 一花は不敵な笑みを浮かべ、絵麻の耳元で囁く。


「これをさ、――に塗ったら、最高に気持ち良いんじゃないかなって」


「えっ」と絵麻の顔が耳まで真っ赤になる。


「馬鹿じゃないの!?」


「でも、絵麻もそう思うでしょ?」


「それはちょっと思うけど」


「なら、試してみようよ」


「え、ここで? さすがにここでは、ちょっと」


「大丈夫」と言って、一花は絵麻の隣に座り、自分の股の間に座るよう絵麻を促す。


 絵麻は戸惑いながら、一花の股の間に座る。すると、一花はマントを広げて、絵麻の体ごと包み込んだ。


「こうすれば、女子高生がいちゃついているようにしか見えないよ」


「え、そうかな……」


「まぁ、嫌なら拒否してよ」


 一花はマントの下で『スライム・ジェル』を練り直す。


「え、えぇ」


 絵麻は困惑するも、興味を隠すこともできず、顔を真っ赤にしながら狼狽えることしかできなかった。


「それじゃあ、やるよ」


 一花が耳元で囁く。


 絵麻は覚悟を決めて、目を強く瞑った。


 そして、一花の手が動いた瞬間――。


「何してんの?」


 男の声がして、「ぎゃぁっ!」と二人はベンチからずり落ちそうになった。


 声を掛けてきたのは――白衣を羽織った英雄である。

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