第66話 少女、準備する

 ――昼食後。


 六人は再び山八に入り、入口から少し離れた所で英雄は言う。


「それじゃあ、午後からはモンスターを相手に実戦を行う。今日は、連携面の強化というよりは、個々の戦闘能力を上げていきたいと思う。

 で、モンスターと戦う時なんだけど、午前中にやった魔力量と威力の関係を意識しながら魔法を発動し、魔力量に応じて実際のモンスターにどれだけのダメージを与えられるかっていうのを感覚で理解して欲しい。

 それがわかるようになると、魔力の浪費が防げるようになるので。

 もちろん、モンスターによって同じ魔力量でもダメージが変わったりはするんだけど、そういうのも含めて今日は勉強するつもりで、よろしく。OK?」


「私と土井ちゃんも、今日は魔法だけでモンスターと戦うってこと?」と絵麻。


「そうだ」


「了解!」


「土井春さんも魔法だけで大丈夫?」


「……はい!」


「よし。なら、とりあえず、危険度Dの場所に出現するモンスターを相手に魔法を使ってみようか。六人で移動すると、手持ち無沙汰になる人が出てくるから、俺、土井春さん、一花の班と啓子さん、絵麻、翔琉の班に分かれてやろう。OK?」


 絵麻から不服そうな視線を感じたので苦笑する。


「大丈夫。班に分かれて行動すると言っても、常にお互いを目視できる状態で進むつもりだから、絵麻と翔琉のこともちゃんと見ているよ」


 それでも絵麻は不満げであったが、他に反対意見などは出なかったので、英雄はこのままの班分けで行くことにした。


「んじゃ、はじめて」


 英雄が手を叩き、それぞれが移動を開始する。


 英雄の元には、一花と菜々子が集まった。


「土井春さんに関しては、午前中に教えた【ストーン】を使って、モンスターを倒しましょう。あんまり、魔力量とかは意識しなくても大丈夫です。まずは、魔法を発動するときの感覚を掴んでほしいので」


「はい」


「一花に関しては、前回と同様、属性をローテーションしながら魔法を発動してみよう。午前中に、切り替えの反復練習をやったと思うから、前回よりもスムーズにできると思う」


「わかった。魔力量の調整とかは?」


「一花に任せる。一花なら、やりながら魔力量の調整ができるようになるでしょ」


「わかってるじゃん」


 一花に肘で小突かれ、英雄は呆れ顔になる。


「すぐ調子に乗るのが、一花の悪いところだぞ」


「はーい。気を付けます」


「本当だろうな……」


 英雄が啓子に目配せすると、啓子は頷いた。準備ができたようである。


「それじゃあ、モンスターを探しながら、移動しよう」


 そして英雄は、菜々子と一花に魔法の指導や魔力を供給しつつ、絵麻と翔琉にも気を配り、魔力を供給する際にアドバイスを送った。


 それから一時間ほど、モンスター相手に魔法を使い、英雄の前に再び全員が集まる。


 英雄は感心した様子で言う。


「やっぱ、皆、物覚えが早いから、魔力量の調整も問題なくできそうだね」


「まぁ、あたしたちは天才だから」


「そうよ。感謝しなさいよね!」


「はいはい。ありがとう」


 冗談っぽく返すが、吸収力の高さには素直に感心している。


「それじゃあ、今度は危険度Cのモンスターを相手にしてみようか。ただ、危険度Cのモンスターに関しては、一発で倒すのが難しく、反撃とかしてくると思うので、基本的に二人のペアで一体を相手するようにしよう。そして、同時にというよりは、交互に魔法を撃ち込むことで、相手に反撃の隙を与えないようなやり方で戦すことを心掛けて。OK?」


 全員から返事があったので、英雄は続ける。


「んじゃ、ペアなんだけど、土井春さんと一花のペア、絵麻と翔琉のペアでいく。そして、危険度Cに関しては、念のため、全員で行動しよう。質問とかある?」


 とくに無かったので、英雄はその組み合わせで、危険度Cのエリアを進んだ。するとすぐに、角の生えた黒いウサギ『メイキュウツノクロウサギ』が二体現れた。


「左のウサギを土井春・一花ペア、右のウサギを絵麻・翔琉ペアで倒して」


 そんな感じで、指示やアドバイスを送り、英雄は四人の戦いぶりを見守った――。


 ――16時30分。


 六人はダンジョンの入口へ戻っていた。絵麻たちに大きな怪我などは無かったが、少しお疲れの様子である。


「はい。皆、お疲れ様。今日の練習はここまでにしようかな。後はクールダウンをやって、解散にしよう」


 絵麻たちの顔に安どの色が広がる。


 クールダウンをした後、六人はダンジョンから出る。


 更衣室へ移動する途中で、絵麻は一花に手を引かれる。


「どうしたの?」


「ちょっと、面白いものを手に入れたんだけど」


「何?」


 一花は不敵な笑みを浮かべ、ダンジョン前の人気のないベンチへ絵麻を連れていく。


 そして、マントの下から瓶に入った液体を絵麻に見せた。


 絵麻は息を呑む。


「それって、もしかして」


「その通り。これは『スライムの体液』だよ」


「いつの間に」


「さっきスライムを倒した時に手に入れておいたんだよね。それでさ――これで絵麻にマッサージをしてあげるよ」

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