第65話 白衣の勇者、確認する②

 英雄と菜々子は、絵麻たちとは少し離れた場所で二人きりになった。


「それじゃあ、魔法の練習を始めましょうか」


「はい。お願いします。あ、あの」と菜々子は頬を赤らめて言う。


「やっと二人きりになれましたね」


「そうですね」


 英雄は苦笑で返す。菜々子なりの場を和ませるための冗談だろう。しかし、求めていた返しとは異なるのか、菜々子は少しだけ頬を膨らませた。


(難しいな)


 英雄は「こほん」と咳払いして、気を取り直す。


「とりあえず、魔法を使って欲しいんですけど、何かできますか?」


「はい。【ストーン】ならできます」


「それじゃあ、何回か発動してもらってもいいですか?」


 菜々子が棒を構えて、【ストーン】を発動する。


 すると棒先が石化し、棒先を覆うように丸石ができて、菜々子は「ふぅ」と息を吐く。


「……あの、土井春さん。その棒先にある石を飛ばすことってできます」


「はい。でも、ちょっと苦手でして」


「いいですよ。見せてください」


 菜々子は、バッターのように構えると、遠心力で棒先にある石を飛ばした。石は反れた軌道で飛び、木に当たる。


「……なるほど。力技で飛ばしている感じですね」


「……すみません」


「謝るようなことじゃないですよ。大丈夫です。俺の言うとおりにやれば、うまく使えるようになりますから。とりあえず、その棒を貸してもらえませんか? 俺が今からやって見せることをできるようになって欲しいと思っていますので、よく見ていてください」


「はい」


 英雄は『魔法の棒』を受け取ると、菜々子のように棒先を人がいない方向に向ける。そして、棒の魔導管と自分の魔導管を接続し、菜々子の魔力と同じ魔素構成比の魔力を流す。


 棒先が石化し、サッカーボールくらいの大きさの石を作り出すと、前方の木に向かって、その石を放った。石は放物線を描いて木に当たり、木が大きく揺れた。


「すごい」と菜々子。


「そんな風に使えるんですね」


「はい。あとは出力の速度なんかを調整すれば、銃のように扱うこともできます。こんな感じに」


 英雄は再び棒を構え、魔力を流した。棒先に野球ボールくらいの石ができて、英雄はその石を放つ。石は目で追えない速さで飛び、木に衝突して、木をへし折った。


 息を呑む菜々子。


「す、すごい」


「まぁ、これは追々できるようになればいいです。とりあえず今は、力に頼らないやり方で、石を飛ばせるようになることを目指しましょう。あと、土井春さんの場合は、近接で戦うことが多くなると思うので、石化した際の形を自由に操作できるようにしたいですね。例えば――」


 と言って、英雄は棒先に石の刃を作り出す。


「こんな感じで刃を作れば、棒が薙刀に変わります。さらにこんな感じで石化させたら――」


 今度は直方体の石を作りだす。


「棒がハンマーに変わります。なので、相手に応じて、打撃や斬撃を使い分けることができるようになります」


「なるほど」


「あとは、棒を覆う石の数を多くして、金棒にしてみたり、棘を多くしてモーニングスターにしてみたりと、状況に応じていろいろな使い方ができますね」


「……私にできますかね?」


 菜々子は不安そうな顔で言った。だから英雄は励ますような声音で言う。


「できるようになりますよ。そのために俺がいる。だから、一緒に頑張りましょう」


「……はい!」


「それじゃあ、まずは『魔法の棒』と菜々子さんの魔導管を接続するところから始めましょうか――」


 それから英雄は、菜々子に魔法の使い方を教えつつ、絵麻や一花、翔琉の様子なども見ながら過ごした。


 ――そして、数時間後。


 英雄たちは最初に集まった場所に集合した。


「それじゃあ、午前中の練習はここまでかな。午後は、実際にモンスターと戦う実践的なトレーニングをやろうか。んじゃ、13時までお昼休憩ってことで、それまで解散」


 英雄はアタッシュケースを持って、更衣室へ戻ろうとした。


 すると、「あ、あの」と菜々子。


 見ると、菜々子が少し照れながら、その後ろで絵麻と一花がニヤニヤしていた。


 英雄は訝しく思いながらも、菜々子に聞き返す。


「……どうしたの?」


「私と絵麻と一花で、お弁当作ってきたんで、良かったら一緒にどうですか? 啓子さんと翔琉君も」


「え、本当? ありがとう!」と啓子。


「ありがとう。でも、言ってくれたら、僕も手伝ったのに」と翔琉は申し訳なさそうに言う。


「……八源さんは?」


「もちろん、いただくよ。ありがとう」


「べつに、あんただけに作ったわけじゃないからね!」


「あたしたちに感謝してよね。マネージャー」


「はいはい。ありがとうありがとう」


 英雄は冗談ぽっく返すが、菜々子たちの気遣いを心から嬉しく思った。


 そして六人は、楽しくランチを食べた――。

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