第64話 白衣の勇者、確認する①

 ――土曜日。


 英雄は『山八』の更衣室で、『薬師の基本セット』を装備した翔琉と遭遇したので、そのまま視診する。


 ・レベル : 17 (18)

 ・体力  : 1209/1210

 ・魔力  : 175/175

 ・物理  : 205 (223)

 ・魔法  : 170 (188)

 * ()は装備を加味した値


 一週間前。優月と一緒に来た時と似たようなステータスだ。体調面もとくに問題無いように見えるので、今日は問題なく、魔法の練習を行うことができるだろう。


 翔琉とともに集合場所のダンジョン前へ行くと、軽そうな銀色の鎧を装備した菜々子が待っていた。装備は『剣士の基本セット』だが、持っている武器は『魔法の棒』と呼ばれる長い木製の棒だった。


 英雄は挨拶しつつ、視診する。


 ・レベル : 12 (13)

 ・体力  : 1000/1002

 ・魔力  : 90/90

 ・物理  : 181 (211)

 ・魔法  : 112 (122)

 * ()は装備を加味した値


 以前までの状態についてはわからないが、翔琉と比較しても、全体的に低い。魔導系にトラブルがあったことが原因だろう。徐々に調子を戻しつつ、翔琉たちと同じくらいのレベルにしたいところだ。


「土井春さんは、役割としては前衛なんでしたっけ?」


「はい」


「『魔法の棒』を使っている理由はあるんですか?」


「え、あぁ……」


 菜々子は恥ずかしそうに棍を握って答える。


「まぁ、バットみたいだし、扱いやすいかなって。あと、お婆ちゃんが薙刀をやってて、小さい頃に教えてもらったことがあるので」


「なるほど。なら、扱いやすいですね」


 それから、絵麻と一花、啓子がやってきたので、まずは『魔法剣士の基本セット』を装備している絵麻から視診する。


 ・レベル : 18 (19)

 ・体力  : 1281/1282

 ・魔力  : 183/183

 ・物理  : 217 (237)

 ・魔法  : 175 (195)

 * ()は装備を加味した値


 次に『魔法使いの基本セット』を装備している一花。


 ・レベル : 17 (18)

 ・体力  : 991/993

 ・魔力  : 212/212

 ・物理  : 169 (179)

 ・魔法  : 199 (229)

 * ()は装備を加味した値


 二人とも前回とそれほど差が無いステータスに見える。体調面での心配もなさそうだし、今日も問題なくやれるだろう。


 啓子も万全の準備ができているようだったので、英雄は予定通りの練習を行うことにした。


 そして、ダンジョンに入り、入り口から少し離れたところで、英雄は今日の練習内容について話す。


「まずは、絵麻に渡すものがある」


「何?」と絵麻は目を輝かせる。


 英雄が渡したのは、ゴーグルとネックウォーマーめいたマスクだった。


「これから、練習中はこれを付けて」


「え、嫌なんだけど」


「これを装着して欲しい理由は、今後の戦闘について考えたとき、マスクを装着した状態での行動に慣れて欲しいからだ。マスクを装着して欲しい理由は二つあって、一つは顔を守るため。近接戦が多くなるから、ゴーグルやマスクでちゃんと顔を守って欲しい。あと、後々、翔琉には毒の粉を混ぜた風魔法とかを使えるようになって欲しいと思っていて、そのときに、予防のため、ゴーグルとマスクをつけてもらおうと思っているから、今からマスクを着けた状態での行動に慣れて欲しいんだよね」


 英雄がじっと見つめると、絵麻は渋い顔で受け取る。


「わかったわよ」


「ありがとう」


 絵麻とマスクとゴーグルを装着する。


「絵麻、カッコいい。忍者みたい」と一花。


「本当?」と絵麻はくぐもった返事をする。


「うん。後で写真撮ろう!」


「うん! ってか、これ、めちゃくちゃ息がしにくいんだけど」


「ああ。だから慣れて欲しいんだよ」


「うぅ~」


「あの、八源さん」と菜々子。


「私も装着した方が良いでしょうか?」


「うん。けど、今日のところはいいや。まずは魔法の使い方を覚えることなどに集中しよう」


「……はい!」


「じゃあ、次に今日の練習内容について話すんだけど、個別に用意したから、まずは絵麻」


「はい」


「絵麻には、魔力量を調整するための感覚を身に着けて欲しいから、魔力量と電圧の関係を感覚で理解するための練習をこなしてもらう。ということで、これを用意した」


 英雄が白衣のポケットから取り出したのは、黒い鳥の羽だった。


「これは、この間、フジダンに行ったときにゲットしたアイテムなんだけど、『メガ・サンダー・バード』の羽だ。この羽には、電気を流すと、その電圧によって発光時の色が変わるという面白い特性がある。だから、これを魔法剣にくっつけた状態で魔力を流し、羽の色の変化を見ることで、魔力量と電圧の関係について理解してほしい。それがわかるようになると、魔力量を調整することで、魔法、とくに雷系統の魔法の威力調整ができるようになるので。OK?」


「OK」


「ん。じゃあ、これが羽と、発光パターンに関するメモ書きね。羽については予備があるから、必要になったら言って」


 英雄はメガ・サンダー・バードの羽とその発光パターンに関するメモ書きを絵麻に渡した。


「次に翔琉だけど、翔琉にも同じことをしてもらう。翔琉の場合は、魔力量と風速の関係だね。ということで、こんなもんを用意してみた」


 英雄が足元に置いていたアタッシュケースを開く。そこには、プロペラ付きの風速計があった。


「まず、風のブレスレットに魔力を流して、風の塊を作ったら、その塊の中に、このプロペラを入れて、風速を測る。風速については、ここのディスプレイのところに表示されるから、それで、魔力量と風速の関係について理解してもらいたい。OK?」


「わかりました」


 英雄はアタッシュケースごと、翔琉に風速計を渡す。


「脅すわけじゃないけど、それ、高いから、気を付けてね」


「え、あ、はい。大切に使います」


 翔琉の顔が強張った。


「ん。それじゃあ、次に一花。一花は、魔力量の調整とかすぐにできると思うから、魔力の属性を切り替える感覚を鍛えていきたいと思う。ということで、一花には――」


 英雄が白衣のポケットから取り出したアイテムは、『スライムの体液』だった。


「この『スライムの体液』を使って練習してもらう」


「スライムの体液」


 一花の目がきらりと光り、絵麻もごくりと息を呑む。


 英雄は呆れ顔になる。二人とも、優月の記事を読んだらしく、スライムの体液を使ったマッサージの方に関心があるようだった。


「わかってると思うけど、これは魔法の練習に使うんだからな?」


「わかっているよ」と一花は苦笑する。


「なら、いいけど。スライムの体液は流した魔力の属性によって特性が変わる。つまり、体液の状態を見れば、目的の属性の魔力を流せたかわかる。それで、属性の切り替える感覚を鍛えていこうってわけだ。OK?」


 一花は頷く。


「じゃあ、諸々の細かい説明や測定機については、このアタッシュケースの中に入っているから、それを見て、とりあえず、やってみて」


「うん」


 一花はアタッシュケースとスライムの体液を受け取り、興味深そうにスライムの体液を眺めた。


(大丈夫か?)


 英雄は一抹の不安を抱きつつ、一花を信じることにした。


「んじゃ、準備運動をしてから、三人は啓子さんの目が届くところで俺が言ったことをやって。で、土井春さんについては、俺と一緒に魔法の使い方から始めよう」


「はい!」


 こうして、魔法の練習が始まった――。

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