白衣の勇者とアイドル系ディーバー

第62話 白衣の勇者、話し合う①

 ――木曜日。


 談笑用のスペースには、Elementsの4人が揃っていた。さらに、啓子と英雄もいて、二人はホワイトボードの前に立っていた。


 啓子が4人を見て、口を開く。


「それじゃあ今日は、今後の活動方針について話し合いたいと思います。まず、土井ちゃんについてだけど、お医者様からも許可をいただいたので、復帰してもらいたいと思います」


 絵麻たちが拍手すると、菜々子は照れながらペコペコ頭を下げた。


「とはいえ、ブランクがあると思うので、土井ちゃんについては、ブランクを埋めていくところからやっていこうかなと思っています。なので、復帰の公表については、目途が立ってからにします。土井ちゃんもそれで良いよね?」


「はい」と菜々子は頷く。


「お手数をお掛けします」


「お手数だなんてとんでもない。焦ってまた休養することになる方がことだし、慎重にやっていきましょう」


「はい」


「で、今後の時間の使い方についてだけど、これはヒデ君から説明してもらってもいい?」


「はい」と英雄は頷き、四人に目を向ける。


「まずは平日の時間の使い方についてだけど、今は事務所に来て、駄弁っていることが多いけど、今後は体力強化の時間として使っていこうと思います」


「えっ」と嫌な顔をしたのは一花である。


「具体的に何をするの?」


「走り込んだり、筋トレをしたり、あとは模擬戦とかもできたらやりたいな」


「うげぇ。そんなのをしたら、死んじゃうよ」


「大丈夫。ちゃんと調整するから。それに、慣れてるでしょ?」


「慣れてはいるけど、やりたいかは別の話だよ。絵麻もそう思うよね?」


「私はべつに良いけど」


「え~」


「他の二人はどう?」


「僕も大丈夫ですよ」


「私も」


「うへぇ。これだから体育会系は~」


「一花も、どちらかと言えば、体育会系だろ。まぁ、無理にとは言わないから、できる範囲で一緒にやろう」


「うぅ~。まぁ、しゃーない。付き合ってやるか」


 英雄は苦笑する。一花は、何だかんだんでちゃんとやってくれると思うので、そこまで心配していない。


「よろしく。あと、土曜日は撮影の有無に関わらず、ダンジョンへ行こうと思う。魔法の練習はダンジョンじゃないとできないし。だから、土曜日は基本的に予定を開けておいて欲しいんだけど、どう?」


 本音を言えば、ダンジョン外でも魔法の練習をしたいところではある。しかし、法律で禁じられている以上、彼女たちにリスクを背負わせるわけにもいかないから、法律に従って、ダンジョン内で魔法の練習をすることにした。


 この提案に対しては、とくにネガティブな反応は無かった。全員、納得した様子で頷く。


「ありがとう。その分、月曜日は休みにする予定。まぁ、皆は学校があるだろうけど。その辺は大丈夫?」


 四人は顔を見合わせ、目配せする。


「やってみないことにはわかりませんが――」と菜々子が代表して言う。


「部活をしていた時は、土日が潰れることなんてよくあったんで、大丈夫ですよ」


「だね」と一花。


「むしろ、土曜日だけなのは良心的」


「そうなんだ」


 ゆるゆるの環境で部活をしていた英雄には、わからない感覚だった。


「とりあえず、時間の使い方についてはそんなところかな」


 英雄は啓子に目配せする。英雄の話したいことは話し終わった。


「OK。んじゃ、今度はこのチームの今後のプロデュースの仕方についてなんだけど、皆は、今のアイドル路線について、どう思う? 実は嫌だったりする?」


「どう思う?」と絵麻は小首を傾げる。


「うーん。私は楽しめていますけど」


「あたしも」


「僕も嫌というほどではないですかね」


「私は、正直、少し恥ずかしいです」と菜々子。


「でも、休養中に外から皆のことを見て、楽しそうだなと思ったし、やっているときも実際楽しかったので、嫌では無いですね」


「そっか」


 啓子の目配せを受け、英雄は渋い顔になる。英雄としてはアイドル路線は止めてもいいのではないかと思うのだが、実際にやっている本人たちが、そこまで嫌じゃないなら、続けてもいいのかなとは思う。


「……ちなみになんだけど、歌って踊る時間があったら、その時間を冒険者としてのスキルアップに使いたいと思ったりはする?」


「それは、ちょっとあるかも」と絵麻。


「どっちがきついかによる」と一花は冗談っぽく答える。


「まぁ、僕もどちらかと言えば、冒険者としてのスキルアップに興味がありますね」と翔琉。


「私は……ごめんなさい。ちょっとすぐには決められないです」と菜々子。


「わかった。ありがとう。参考にさせてもらう」


 英雄は啓子に視線を返す。聞きたいことは聞けた。


「皆の本音はわかったわ。ありがとう。あと、プロデュースに関してなんだけど、これからはヒデ君との絡みも増やしていこうかなと思っている。とくに、翔琉との組み合わせを増やしていきたい」


「えっ」と絵麻。


「何でその組み合わせ?」


「そっちの方が、若い女性ファンを獲得できるからと判断しからよ」


「えーそうかな? わ、私との方がいいんじゃない?」


「駄目だろ」と英雄。


「男性ファンが発狂する」


「しないよ。むしろ、温かく応援してくれるわ」


「……ファンに対してピュアすぎんだろ。俺はそう思わないけど」


「翔琉君はいいの?」と一花。


「グループのためだし。それに、あ、『兄貴』も良いって言ってくれたからね」


「……兄貴?」


「うん。僕とマネージャーの関係性に特色を持たせることで、より多くのファンに興味関心を抱いて貰えるんじゃないかなと思って、僕はマネージャーの子分になることにしたんだ。だから、兄貴」


「……ふーん。なら、あたしは『お兄ちゃん』と呼ぼうかな」


 その瞬間、英雄は困り顔になった。

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