ex1 コスプレ
菜々子の治療後。英雄は啓子も交えて、菜々子の治療と今後の過ごし方について説明していた。
「――ということで、土井春さんの魔導胆に結石ができてしまったのも、普段から土の魔素が多いことが原因です。なので、今後は水の魔素を増やすようにして、結石ができにくい魔力生成を目指しましょう」
「はい」
「良かった。これで、土井ちゃんも復帰できるのね!」
「そうですね。ただ、一応、掛かりつけの医者から許可を貰った方がいいとは思いますが」
「そうね」
そこで英雄は気づく。先ほどまで騒がしかったはずの絵麻たちの姿が無い。
「あれ? 絵麻たちはどこに行ったんですかね?」
「そういえば、そうね」
「翔琉もいないし、珍しいな」
英雄が三人の気配を探ろうとしたところで、部屋の外で声がした。絵麻と一花がニヤニヤした顔で入ってきて、二人の後ろに翔琉がいた。翔琉は黒い布を羽織り、恥ずかしそうにしていた。
英雄は、呆れ顔で言う。
「ろくでもないことを考えているな」
「そんなことないわ」と絵麻。
「そうだよ。ろくでもないかどうかは、これを見てから判断して。それじゃあ、翔琉君。お願い!」
「う、うん」
翔琉は布を脱ぐ。翔琉は――ミニスカートのナース服を着て、スカートから筋肉質な長い足が伸びていた。翔琉は頬を染めながら、スカートの裾を伸ばした。
ナース姿の一花と絵麻が誇らしげに胸を張る。
「翔琉君のもちゃんと準備していたんだ!」
英雄は呆れたが、菜々子は感心した表情で言う。
「すごいね。似合ってるよ、翔琉君」
「あ、ありがとう。なのかな?」
「そうね」と啓子も微笑む。「これはこれでありだわ」
「そうですかね?」と懐疑的なのは英雄だけである。
「そうだよ、マネージャー。これの良さがわからないなんて、マネージャー失格だわ」
「だね。あたしたちのプロデュースを安心して任せることができないよ」
「そこまで言われることか?」
しかし、菜々子や啓子が好意的に捉えているのを見るに、間違っているのは自分の気がしないでもない。
(難しいな。この世界は)
そんなことを思いつつ、英雄はスマホを取り出して、翔琉にカメラを向けた。
「え、撮るんですか?」
「ああ。駄目?」
「いや、駄目じゃないですけど」
「何だ、気に入ってるじゃん」
「べつにそういうわけじゃない」
ふと、この姿を優月に見せたら喜んでもらえるんじゃないか――そんな風に思ったのだ。
英雄がカメラを向けると、翔琉がはにかみながらピースする。
その姿を見て、英雄は少しだけ翔琉のナース姿の良さが分かった気がした。
そして、シャッターを切ろうとしたら、絵麻と一花もフレームに入ってきて、一緒に映ろうとする。
「うーん。二人は邪魔かな」
「邪魔って何さ!」
「そうよ! 私たちも撮りなさいよ!」
「それはまた後で撮るから、まずは翔琉だけ」
「仕方ないなぁ」
「ちゃんと私たちのことも撮ってね!」
「ああ」
それから翔琉の写真を撮り、絵麻や一花の映った写真も撮る。撮っている途中で、英雄はあることに気づいて、手を止める。
「土井春さんも映ったら?」
「え、私も」
「そうだよ、土井ちゃん! 一緒に映ろう!」
「だね!」
「う、うん」
「土井春さんのナース服は無いの?」
「え、土井ちゃんのナース姿も見たいの?」
「……えっち」と菜々子は頬を染める。
「違うわ。用意してないのかなと思って、聞いただけ」
「ごめんね、土井ちゃん。それは、ちょっと、準備できていなかった」と一花が申し訳なさそうに眉尻を下げる。「あたしか絵麻の着る?」
「いいよ。また今度」
「それじゃあ、撮るよ」
菜々子を中心とした四人の集合写真を撮り、英雄はその写真を見て、微笑む。ようやく四人が揃った瞬間である。
「ねぇ、写真を見せて!」
絵麻に写真をスマホを渡したところ、微妙な顔が返ってきた。
「え、駄目だった?」
「駄目じゃないけど、なんか違う」
一花が後ろから覗き込み、「確かに」と頷く。
「あたしのスマホで撮ろう!」
「うん!」
英雄は渋い顔で啓子の隣に座り、スマホの写真を見せた。
「これ、微妙ですかね?」
「そんなことないと思うわ。でも、今は加工アプリとかいろいろあるから、物足りないんじゃないかな」
「……なるほど」
勉強しなければいけないことは、まだまだたくさんありそうだ。
英雄は絵麻たちに視線を移す。四人は自撮りを楽しんでいた。
「いいなぁ、楽しそう」
「ですね」
「……私もナース服着てみようかな」
「……」
英雄は何も聞かなかったことにした。
「ねぇ、何で何も言わないの?」
啓子に詰め寄られ、英雄は苦笑する。
「え、あ、何のことですか?」
「私がナース服を着ることについてよ」
「ははっ、まぁ、いいんじゃないですか」
むっと啓子は眉を顰める。
「似合わないと思っているでしょ」
「そんなことは無いですけど」
「失礼しちゃうわ。こう見えても、大学時代、モデルにスカウトされたこともあるんだから! 見てなさい!」
啓子が絵麻たちのもとへ行き、話しかける。絵麻たちは困惑しながらも了承し、絵麻と一花、啓子の三人は部屋から出て行った。
そして、十数分後。三人が戻ってきたとき、誰もナース服を着ていなかった。
英雄が疑問の目を向けると、啓子は髪をかき上げ、「まぁ、そういうときもあるわ」と言う。
英雄は絵麻と一花に視線を向ける。二人からは苦笑しか返ってこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます