第59話 グループリーダー、続く
啓子たちが部屋に飛び込むと、ソファーで赤い顔をしている菜々子とソファーの体面に立つ英雄の姿があった。
英雄は不味いものでも食べたかのような表情で左手を振っている。
啓子は英雄と菜々子を交互に見やり、英雄に歩み寄って、その右手首を掴む。
「……ヒデ君。私は悲しい。まさか、こんな形であなたとさよならすることになるなんて」
「いや、何を勘違いされているのかわかりませんが、ただ、治療していただけです」
「治療?」
「はい。土井春さんを診たところ、魔導系にトラブルを抱えていたようだったので」
「ああ、そうだったの」
啓子は菜々子を見た後、怪訝な表情を英雄に返す。
「でも、なら、何で鍵を閉めたの?」
「そりゃあ、あの二人がいると、俺も集中できないし、菜々子さんもリラックスして治療を受けることができないだろうと判断したので」
英雄の視線の先には、ナース服の絵麻と一花がいた。二人は鼻息を荒くして、菜々子の隣に座る。
「土井ちゃん、大丈夫?」と絵麻。
「う、うん」
「マネージャーに変なことをされていない?」と一花。
「変なこと……」
菜々子は数秒前までの痴態を思い出し、かぁと顔が赤みを増す。
「あ、やっぱり」と一花が食いつく。「マネージャーに変なことをされちゃったんだね!?」
「どんなことをされたの!?」
「どんなことって、それは、その……」
ごにょごにょと口ごもる菜々子に、一花と絵麻は耳を近づける。
「え、ごめん。よく聞こえなかった」
「ごめんね、土井ちゃん。これも土井ちゃんのためなの」
「うぅ……」
菜々子は狼狽する。気遣いつつも、興味津々な二人の様相に、菜々子は困惑する。
「ふ、二人もやってもらったんでしょ? なら、わかるじゃん」
「うん」
「だけど、あたしと同じとは限らないじゃん。絵麻もあたしとは違うことをやってもらったみたいだし。だから、教えて欲しいの」
「そうなの? でもぉ」
菜々子が話したくなさそうなので、絵麻と一花は目配し、頷く。
「そうだよね。話したくないよね」
「でも、大丈夫。あたしたちが、ちゃんとマネージャーをとっちめてあげるんだから!」
「え、あ、ちょっと」
二人は素早い動きで英雄に詰め寄る。
「ちょっと、マネージャー! 土井ちゃんに何をしたの!?」
「そうだよ! 土井ちゃんは、あたしたちの大事な仲間なんだよ!?」
「何、って治療だけど。それは絵麻たちも知るところだろう」
「だから、その治療について具体的に教えてよ」
「いや、説明した時に聞いてたでしょ。結石を破壊したんだよ」
「そこのところをもうちょっと詳しく」
「それ以上詳しく話すことなんて無いよ」
英雄が冷ややかな視線を送ると、「うっ」と絵麻はたじろぐ。すると、一花が言った。
「それとマネージャー。あたしたちとの約束を破ったでしょ!」
「そ、そうよ!」
「約束?」と啓子に疑問の目を向けられ、英雄は答える。
「彼女たちにお湯を持ってくるよう頼んだんです。そのとき、自分たちが戻ってくるまで治療を開始しないように言われたんでした」
「何でその約束を守らないの?」
「そうだ! そうだ!」
「うーん。まぁ、オブラートに包んだ言い方をすると、二人が邪魔だったからかな」
「オブラートに包んでないでしょ、それ!」
「ひどいよ、マネージャー。マネージャーのために、あたしたち、こんな格好までしたのに」
「え、これはヒデ君の指示だったの?」
「違います。このドスケベ二人が勝手にやったんです」
「わ、私はドスケベじゃないもん!」
「そうだよ。あたしたちは破廉恥なんだから!」
「破廉恥でもない!」
わいわいと騒がしい絵麻たちを遠目に眺め、菜々子は目を細める。
(いいなぁ。楽しそう)
気配がしたので、目を向けると、翔琉が心配そうな顔つきで立っていた。
「土井ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫。ありがとう。……翔琉君は、八源さんの治療を受けたことあるの?」
「治療は無いかな。だから、実のところ、興味はあるんだよね。土井ちゃんが嫌じゃなかったら、教えてよ」
「それは……ごめん、言えない」
「そっか。残念」
そのとき、菜々子の脳内で声がした。
”土井春さん。聞こえますか”
菜々子は驚いて顔を上げる。絵麻たちに囲まれている英雄と目が合った。
”闇魔法の【念話】で話しかけています。もしも、応答できそうでしたら、俺に向けて、返事の言葉を念じてみてください”
菜々子は驚きつつ、やってみる。
”……こんな感じでしょうか?”
”おぉ、すごい。一発でできましたね。流石です”
”恐縮です”
”それで、今、話しかけた理由についてなんですが、実はまだ治療が完了してません”
”そうなんですか?”
”はい。と言っても、最終確認だけなんで、そんなに時間は掛かりません。俺が絵麻たちを引きつけている間に終わらせちゃおうと思います”
”……わ、わかりました”
一瞬、この場でやることに抵抗を覚えたが、拒否するのも申し訳ないという思いが先行してしまい、了承してしまう。
”ありがとうございます。それじゃあ――今から菜々子さんの体内に残っている俺の魔力を動かしますね。何か気になることがあったら、すぐに言ってください”
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