第58話 白衣の勇者、促す
*食事中の方は不快に感じるかもしれない描写があります。
「魔力を外に出す?」
「はい。俺が今から、魔力を流すので、そのまま外に出します。まぁ、俺に任せてもらえば、大丈夫ですよ」
「わかりました」
英雄は菜々子の右手を掴んで、水の魔素を多く含んだ魔力を流した。
英雄の魔力は菜々子の右手から下腹部辺りまで流れ、魔力胆にある結石交じりの魔力にぶつかり、そのまま魔力を体外へ押し出そうとする。
下腹部からさらに下へと魔力が動いていく感覚に、菜々子の顔が熱くなる。菜々子は左手で慌てて英雄の手を掴んだ。
「だ、駄目です!」
「え、どうして?」
「こ、このままじゃ、その、あの」
「何ですか?」
「……れちゃいます」
「はい?」
「だから、……も、漏れちゃいます」
「大丈夫ですよ。腰辺りに回収管を接続したんで、そこに出すだけです」
「え、いつの間に」
菜々子は腰のあたりを触る。しかし、それらしいものは無かった。
「回収管は魔力と同じようなものなんで、感覚でしか存在を認知できません。そして、その認知ができるのは俺しかいないんで、安心してください」
「そうでしたか。って、そういう問題では無くて!」
「じゃあ、何ですか?」
「それは、その……」
菜々子がごにょごにょと口ごもるので、英雄は戸惑う。しかし、そうしている間にも、結石を含んだ魔力は下へと流れている。菜々子は、「だ、だめぇ!」と体を屈め、魔力の流れを必死に止める。
「あ、ちょっと。土井春さん、体の力を抜いて、魔力を外に出してください」
「だ、だめぇ。だって、ここは皆が使う場所だし、そんなところで漏らしたら、私、私、どんな顔をすれば」
菜々子は漏らした時のことを想像し、顔が羞恥心で真っ赤になる。
「いや、漏らすって」
そこで英雄は異世界でのことを思い出した。異世界でも、今回のような処置を行ったことがある。そのとき、体外へ魔力を排出する感覚が排泄のそれに似ていると言っていた人がいた。もしかしたら、菜々子も同じような感覚を覚えているのかもしれない。
(……どうしようかな)
結石が混じった魔力は、できれば英雄も自分の体に取り込みたくない。生理的嫌悪感を覚えるからだ。だからといって、体の上部の方から排出しようとしたら、無いとは思うが、その移動中に結石の破片で魔導管を傷つけてしまうかもしれない。
英雄が難しい顔で悩んでいると、絵麻たちが帰ってきて、部屋の外がにわかに騒がしくなる。
ガチャガチャと扉を開けようとするも、開かない。
「あれ? 開かないんだけど」
「うそ、鍵しまってる? あ! もしかして、やってるんだろ! 開けろ!」
「え、最悪! 私たちを騙したな!」
「ちょっとどうしたのさ、二人とも。落ちついて」
そばで翔琉が諫めようとするも、ドンドンと扉を叩く音が大きくなって、絵麻と一花の声が大きくなる。
「土井春さん。早く!」
「む、無理ですぅ。こ、こんな場所で」
絵麻たちの存在を認識したことで、菜々子の羞恥心は増し、腹にこめる力も強くなった。このままでは、魔力を外に出すことができない。英雄は戸惑う。出してくれれば、それでいいのだが、無理やり出すわけにはいかないし、どうしたものか。
「土井春さん」と英雄は菜々子の両手を握って、真剣な目で菜々子の目を見据える。「大丈夫。俺を信じて」
「うぅぅ、でもぉ」
「ちょっと、絵麻! 一花! 何、その格好は!?」
部屋の外で啓子の声がした。面倒な輩の登場に、英雄は舌打ちする。
「啓子さん。それより、早くここを開けて!」
「はぁ? 何で? 開ければいいじゃない」
「あいつが鍵を閉めたの!」
「中で土井ちゃんが襲われてる!」
「……や、野郎! ついに正体を現したな! あのロリコンが!」
いろいろ言いたいことはあるが、このままでは誤解されかねない。英雄は菜々子に視線を戻すも、菜々子は強く目を瞑って、出しそうにない。
(――仕方ない)
英雄は覚悟を決めた。本当はやりたくない方法だったが、やらざるを得ないだろう。
「ごめん。土井春さん。ちょっと、お腹を触るね!」
英雄は素早く菜々子の腹部に手を当てた。
瞬間――。
「あっ――」
菜々子から声が漏れた。
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