第56話 白衣の勇者、説明する
「魔導系にトラブル?」
「はい。あ、ちゃんと説明します。まずは――」と英雄が言いかけたところで、絵麻から「ちょっと待った!」が掛かる。
「何?」と英雄は怪訝な表情を返した。
「今から、土井ちゃんにトラブルの説明をするんだよね?」
「そうだけど」
絵麻と一花は目配せして、頷く。嫌な予感がした。
「ちょっと目を瞑ってて」と絵麻。
「翔琉君はさ、外で誰か人が来ないか見張っててよ」
「え? うん」
戸惑いながら外に出て行く翔琉を見送り、英雄は呆れ顔を二人に向ける。
「遊んでいる場合じゃないんだけど」
「数分だけ、数分だけでいいから!」
英雄は渋い顔で目を瞑る。余計な押問答をしている時間が惜しかった。
英雄が目を瞑ると、布のこすれる音がした。
「な、何をしているの?」と菜々子も困惑している様子。
数分後、「目を開けて良いよ」と絵麻に言われたので、英雄は目を開ける。
そこにはナース姿の絵麻と一花が立っていた。どちらもコスプレ用のミニスカート型のナース服を着ている。絵麻が白いタイツを履いているのに対し、一花は長いソックスを履いて、スカートとソックスの間に健康的な肌が見えている。
「じゃじゃーん。どう? 可愛いでしょう?」
「いや、何その格好? まぁ、可愛いけど」
「にしし、あたしたちに感謝してよね。雰囲気づくりに協力してあげているんだから」
「いらないんだが」
「まぁ、そう言わず、ささっ、先生。患者様がお待ちですよ~」
絵麻に白衣を渡され、英雄は渋い顔で白衣を羽織る。
「土井ちゃんも座って!」
一花は菜々子をソファーに座らせ、絵麻が英雄をその隣に座らせる。二人はそのままニコニコした顔でソファーの後ろに立った。
英雄は呆れつつ、菜々子へ向きなおる。
「すみませんねぇ、何か」
「いえ、大丈夫です。むしろ、仲が良さそうで羨ましいです」
英雄は苦笑を浮かべてから、説明に入る。
「まず、魔導系についてはご存じですか?」
「はい」
「良かったです。なら、その魔導系について、もう少し詳しい説明なんですけど、魔導系というのは――」
英雄は、それから魔導系を構成する、魔導管、魔素、不純物について簡単に説明した。
「――というわけなんですけど、ここまでは良いですか?」
「はい。ただ、一つ質問があるのですが、八源さんはどうしてそのようなことをご存じなんですか?」
「俺には10年間の記憶が無いんですけど、そのときに、魔導系の専門医みたいなことをやっていたみたいです」
「魔導系の専門医。なるほど……」
困惑した表情の菜々子を諭すように、一花は肩を揉んだ。
「大丈夫だよ、土井ちゃん。マネージャーの言っていることは多分、本当だから。あたしも絵麻も、マネージャーに診てもらってから、調子が良くなったし」
「……そうなんだ」
菜々子が納得してくれたようなので、この二人がいて良かったと少しだけ、少しだけ思った。
「それで、魔素についてなんですが、魔素というのは、属性によってその性質が異なります。体感的にピリピリしやすいとかひんやりしやすいとかってこともあるんですけど、例えば闇の魔素なら、神経系に誘引されて、魔力栓になりやすいといった負の性質もあります。そして土井春さんの場合は、この負の性質が悪さをしている。土井春さんは、おそらく土魔法が得意ですよね?」
「そう、ですね。そこまでわかるんですか?」
「ええ。魔素の含有比率を見ると、土の魔素が80%を占めています。そして、土の魔素には結晶化しやすいという性質があります。今回は、その性質のせいで、土井春さんの魔力胆内で結晶化した土の魔素が結石になってしまい、その結石のせいで腹部に痛みが走ってしまう。まぁ、厳密に言うと、魔力胆で発生した痛みを腹部の痛みと勘違いしている状態ですが」
「……勘違いって、どういうことですか?」
「次元の話になってしまうので、かなり簡潔に話しますが――」
英雄は、魔導系が高次元の存在であり、現代の科学では未だに観測できず、感覚でしか認識できないことを説明する。
「――ということで、感覚でしか魔導系などは認識でないため、腹部付近で起きる魔力胆の痛みを腹部の痛みと錯覚しているんです」
「なるほど。そういうことですか。だから、病院の先生にもわからないんですね」
「はい。そうです」
「そっか……。あの、私はどうすればいいのでしょうか? これは治るんですか?」
「適切な治療をすれば治ります。そして、俺はその方法を知っているので、俺に治療をさせていただけませんか?」
「八源さんに?」
菜々子は英雄の顔をじっと眺めた後、絵麻と一花に視線を移す。
「二人も治療をしてもらったの?」
「私はしてもらった!」
「あたしも近い感じのことはしてもらった」
「それで、強くなれたの?」
「まぁ、強くなれた理由は、それだけじゃないけど、要因の一つだとは思う」
「だね」
「そうなんだ」
菜々子は英雄に視線を戻す。
「あの、具体的にどんな治療をされるんですか?」
「魔力胆に俺の魔力を送って石を包んだ後、徐々に衝撃を与え、石を破壊します。そしたら、破壊した石を含んだ魔力をそのまま外に排出してもらいます。それで、治療は完了です」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「わかりました。ありがとうございます」
英雄は絵麻と一花に微笑みかける。これだけスムーズに話が進んだのも二人のおかげではある。
「二人もありがとう。それじゃあ、外で待ってて」
「嫌よ」
「そうだよ。あたしたちは最後まで手伝うんだから」
「いや、いらないんだけど」
「いる!」
「そうだ! そうだ!」
二人がこうなったら面倒なことになることを英雄はすでに学んでいた。だから無理に押すのではなく、自然な形で外に出すことにした。
「わかった。それじゃあさ、給湯室でバケツにぬるめのお湯を入れてきて。あ、二つ欲しいから、二人で行ってきて」
「わかった」
「でも、あたしたちが戻ってくるまで、治療を始めちゃ駄目だからね!」
「ああ」
英雄が頷いたのを見て、二人は足早に出て行く。
「あの恰好のまま行くのかよ」
英雄は呆れつつ、闇魔法の【念力】を使って、鍵を閉めた。そして、菜々子に向きなおる。
「それじゃあ、土井春さん。治療を始めましょうか」
「あの二人は?」
「邪魔なんで、あの二人が戻ってくる前にさっさと終わらせちゃいましょう」
「わかりました」
「本当はベッドの方がやりやすいんですけど、無いので、ちょっと立ってもらってもいいですか?」
「はい」
菜々子は立ち上がって、英雄と向かい合う。
「それじゃあ、手を出してもらってもいい?」
菜々子が差し出した両手を、英雄はその目に青い炎を灯して握った。
「それじゃあ、今から治療を開始しますね」
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