白衣の勇者とグループリーダー
第53話 白衣の勇者、聞く
――月曜日。
英雄は事務所で菜々子(土井ちゃん)の資料を見ていた。
菜々子の本名は、『土井春菜々子』。苗字は『土井春』だが、春をとって、『土井ちゃん』と呼ばれている。
菜々子は、絵麻たちの一個上の高校三年生で、事務所に入った時期も一期上だ。元々は、別のグループに所属していたが、そのグループが解散したのを機に、Elementsに入った。
それからはElementsとして活動するも、英雄がマネージャーになる3週間前くらいから体調不良を訴え始める。病名の特定には至っていないみたいだが、本人が日常生活に困らない程度の元気はあると言っていたらしいので、現在は活動を休んで療養している。
「……腹部の痛みねぇ」
英雄は彼女が訴えた症状を基に、魔導系の観点から彼女の不調について考えてみる。
いくつか思い当たる節はある。が、結局のところ、彼女に会ってみないと何もわからない。
(まぁ、啓子さんが連絡してくれたみたいだし、彼女を待とう)
英雄が直接家に訪問することも考えたが、皆にも会いたいということで、菜々子が来ることになった。
具体的な日にちは決まっていないが、今週の月火金の中で体調と都合が合う日に来てくれるらしい。できるだけ、早く会いたいところではあるが、彼女に合わせるのも大事なことだろう。
(今週が無理そうだったら、そのときは直接行こうかな)
そんなことを考えていると、部屋の外で賑やかな声が聞こえた。
「「お疲れ!」」
元気よく扉を開けたのは、絵麻と一花である。どこかで合流したのか、二人は肩を組んで現れた。その姿は新橋で見かける酔っぱらいのようにも見えた。
「お疲れ。二人ともご機嫌だね」
「まぁね」と一花。
「あ」と絵麻が談笑用スペースのローテーブルの上にある静岡土産に気づいた。「これ、誰が静岡に行ったの?」
「俺……と啓子さん」
「はぁ?」と絵麻に睨まれる。「何で啓子さんと静岡に?」
「デート?」
「何それ最悪なんだけど。もしかして、私たちがいない間に愛を育んでいたの?」
「うわぁ、えっち」
「何でそうなる。フジダンを見ておきたかったから、ついてきてもらったの」
「なら、私たちも誘ってくれればよかったのに」
「絵麻たちにはまだ早い」
「やっぱり、えっちなことなんだ」
「人の話聞いてた? どこにえっちな要素があるの?」
「まぁ、いいや。それより、お茶淹れてよ。このお菓子を食べるからさ」
「何で俺が」
「あたしたちをおいていった罰。ここでお茶を淹れるか、今度、あたしたちも静岡に連れていくか、好きな方を選んでよ」
「……んじゃ、お茶淹れるわ」
英雄が急須と紙コップを持って二人の元を訪れると、当たり前のように二人の間に座らされ、二人とお茶する。
「マネージャー、お茶、美味しいよ」と一花。
「マジ? とくに工夫してないけど」
「うん。でも、もっと美味しいお茶を飲みたいから、今度、静岡に連れて行ってよ」
「そっちが本音か。まぁ、フジダンに行けるようになったら、考えるわ」
「今すぐ連れてってよ、富士急とか行きたい~」
一花が英雄の腕を掴んで、ぶらぶらすると、絵麻も英雄の腕を掴んで、ぶらぶらする。
「私も行きたい~」
「行きません。ってか、富士急は山梨だろ」
「なら、山梨に行きたい~」
「私も~」
「行きません。ってか、いつもダラダラしてるけど、ここに来て、他にやることないの?」
「ない」
「ないわ」
「即答かよ」
「まぁ、打ち合わせとか無いときは、基本的にやることないしね」
「歌や踊りのレッスンとかもあるけど、その場合は直接スタジオに行っちゃうし。ここでやることと言えば、あんたの暇つぶしに付きあうくらいかな」
「べつに暇ではないんだが。ならさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「何?」
「土井春さんについて教えてよ」
「土井ちゃん? 何で?」
「狙ってるの?」
「何それ最悪なんだけど。担当を狙うとか、野獣じゃん」
「一言もそんなこと言ってないけど。まぁ、今週中にできたら会う予定だから、絵麻や一花から見た土井春さんの印象を知っておきたくてさ」
「ああ、そうなんだ。土井ちゃんねぇ」
二人は思案顔になり、一花が神妙な顔で語る。
「土井ちゃんは――クラスに一人はいるような変わった子かな」
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