ex1 さわやかな夕食
フジダンの探索終了後、英雄と啓子はレンタカーで駅に向かっていた。
「そういえば、折角、静岡に来たんだし。ハンバーグを食べて帰ろうよ」
「ハンバーグ、ですか?」
「うん。あれ? 知らない? 有名なところがあるんだよ」
「……あぁ、聞いたことがあります。でも、整理券が無いと入れないとか」
「それなら問題ない」と言って啓子はサンバイザーにはさんでいた整理券を英雄に見せる。
「いつの間に」
「まぁ、英雄君を待っている間、やることなかったし、ついでにね」
「へぇ、いいですね。でも、出入口の所で不審に思われたりしなかったんですか? 一応、相方が迷子になったのに」
「とくには。でも、言われてみたら、そうね。今度からは気を付けるわ。で、どうする?」
「行きましょう。折角ですし」
「そうこなくちゃ!」
思わず仕事をしてしまったが、本来、今日は休日。静岡まで来ているし、チャンスがあるなら満喫したいところではある。
(まぁ、そう考えると、良い休日になったのかもな)
静岡で美味しいご飯が食べられるし、夜美彩羽と出会うことができた。
彩羽は動画じゃわからないほどのオーラがあって、輝いて見えた。とはいえ、絵麻たちが目指せない人間ではないと思ったから、彼女たちには頑張って欲しい。
また、彩羽の実力についても、今回の件でわかった。彩羽のレベルは35で、彼女の仲間たちのレベルも30前半だった。だから、危険度Aのダンジョンを探索するとなったら、それくらいのレベルは必要みたいだ。そのレベルなら、絵麻たちも十分に到達できるので、しばらくはレベル30を目標に、彼女たちへ指導していきたい。
レストランに到着。タイミングが丁度よく、少し待つだけで入ることができた。
席に案内され、啓子が嬉々とした表情でメニューを開く。
「何にしようかな」
「ここは俺が出すんで、好きなものを食べてください」
「え? いいの?」
「はい。付き合ってもらいましたし」
「気にしなくていいのに。私たちのためでもあったんだから。まぁ、でも、ヒデ君がそう言うなら、その言葉に甘えちゃおう。とりあえず、ワインを飲もうかな」
「いや、帰りは誰が運転するんですか」
「ヒデ君」
「免許持ってないですけど」
「ヒデ君ならできるでしょ」
「できるできないの問題ではなく、そういう決まりなんですよ」
「もう。けち臭いな」
「文句なら警察に言ってくださいよ」
それから二人はそれぞれ食べたいものを注文し、ほどなくして運ばれてきたハンバーグに舌鼓を打つ。
英雄は言った。
「美味しいですね。このハンバーグ」
「でしょ!」
「これは、明日もハンバーグを食べなきゃですね」
「いや、何でよ」
「ここが本当に美味しいのか、比較して確認したいじゃないですか」
「なるほど。ヒデ君は真面目だねぇ」
二人は談笑しつつ、ハンバーグを食べ進める。
そして、思い出したように英雄が言う。
「そういえば、例の件どうなっていますか? アイドル路線止めるやつ」
「あぁ。あれは社長が悩んでいる。とりあえず、一つそれで仕事をとってきたらしいから、それまでは保留だって」
「そうですか」
英雄は、啓子と社長の太郎に、Elementsのアイドル路線を止めることを提案している。歌って踊る時間があるなら、その時間をダンジョン探索に向けた時間に当てたいからだ。
実際、彼女たちの登録者が伸びたのも、彼女たちのアイドル的活動というより、ゴブリン・バーサーカーを倒した実力が評価されたことが理由だし、それなら真面目にダンジョン探索に打ち込んだ方が良いと考えている。
「社長も悩んでいるみたい。確かに探索者としての実力をアピールした方が良いんだろうけど、それだと、先人と同じ道を歩むことになるから、結局、若い女性の層に見てもらえなくなる」
「それじゃあ駄目なんですか?」
「うん、まぁ。社長的には、より多くの人に楽しんでもらいたいコンテンツにしたいらしいよ」
「……なるほど。でもなぁ」
「あ、今のは内緒ね。べつに口止めされたわけじゃないけど、私と2人のときに話したことだから」
「了解です」
「あと、土井ちゃんがいないときに、グループの重大な方針を決めることにも否定的みたいだよ」
「確かにそれはそうですね。そういえば、土井さんは病気で療養中なんでしたっけ?」
「うん」
「病名とかはわかっていない感じなんですよね?」
前に啓子に話を聞いた時は、医師もよくわかっていない状態だと言っていた気がする。
「うん。そう」
「そうですか。土井さんも魔法は使っていたんですよね?」
「うん。あ、もしかして」
英雄は頷く。マネージャーになって約一か月。新米だから、療養中のタレントに負担を掛けるようなことはしたくないと思っていたが、そろそろそんなことも言っていられないだろう。
「まぁ、実際に会ってみないとわかりませんが、その可能性はあるんじゃないかな、と。だから――彼女に会うことってできますか?」
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