第48話 白衣の勇者、説明する
「……どうして、私が夜美彩羽だとわかったの?」
「その特徴的な装備と夜美さんがダンジョンに入って行くところを見たので」
「なるほど。それで、何で頭痛について知っているの?」
「すみません。勝手にですけど、あなたの魔導系について調べさせてもらいました。その結果、脳の付近にある魔導管に問題が見つかったからですね」
「魔導系……って、あの魔力に関わっているやつ?」
「はい」
「どうしてあなたにはそれがわかるの?」
「俺にはそういったことに関する知見があるみたいなので」
「どういうこと? あなたは何者なの?」
「10年間行方不明になっていたでお馴染みの八源英雄です」
「……あぁ、そんな人がいた気がするけど、あなたがその人なの?」
「はい」
「……仮にあなたが本物だったとして、どうしてあなたには、私の魔導系にトラブルがあるなんてことがわかるの?」
「俺が10年間、行方不明だったことはご存知でしょうか? どうやら、その間に、魔導系の専門医みたいなことをしていたみたいです。おぼろげな記憶でちゃんと思い出せないのですが。それで、あなたの抱えているトラブルがわかった感じです」
「その話は本当?」
「はい」
「嘘はついていない?」
「はい」
彩羽は口を閉ざし、考え始めた。英雄が言ったことの真偽を判断しているように見える。
英雄は彼女の判断を待つが、彼女は最終的に信じると思った。彼女が自分の力に自信を持っているように見えるからだ。つまり、彩羽の洗脳状態にある英雄が、自分に嘘を吐くわけがないと彼女は考える。
「……わかったわ。仮にあなたの言っていることが本当だとして、私はどんなトラブルを抱えているの?」
英雄はにやりと笑って、話を続ける。
「簡単に言うと、脳の付近にある魔導管が膨らむせいで、神経が圧迫され、頭痛が生じています。
どういうことか。まず、魔導管を流れる魔力は、大きく分けて、魔素、魔液、不純物の三つで構成されています。
魔素というのは、いわゆる属性ってやつですね。この魔素の含有比率によって、魔力や魔法の属性が決まります。そして、夜美さんの魔力は闇の魔素が多い。
これが意味することは、夜美さんが闇魔法が得意で普段から使っているということです。そうでしょう?」
彩羽は答えない。しかし、それも想定の範囲内ではある。彩羽は光魔法の【魅了】を使って、モンスターを従えていることになっているため、プロモーション的な理由から、迂闊なことが言えないのだろう。
別にそのことで彩羽を非難するつもりはない。魔法に関する知見がまだまだ浅いこの世界で、彩羽の魔法、しかも精神系という視覚的にわかりにくい魔法を分類することは、現状、難しい。
いずれにせよ、彼女に語る気が無いのであれば、沈黙を是として話を進める。
「……それで、闇の魔素には、脳付近で魔力栓になりやすいという特徴があります。闇の魔素が神経系に反応しやすいからです。
もう少し詳しく話すと、魔素はさらに細かく分けることができて、闇の魔素の場合は、主に物理系と精神系に分けることができます。そして、精神系の魔素は精神に作用する、つまり、神経系に作用するため、神経系がある方向へ移動しやすい、別の言い方をすると、神経系に誘引されやすい性質があります。
この神経系には自分の神経系も含まれているので、神経系の塊である脳付近の魔導管に魔力を送ってしまうと、魔力内に含まれる闇の魔素が神経系に誘引された結果、その場に留まるようになり、この留まる魔素が増えていった結果、魔力栓という塊となります。
で、その魔素の塊は、魔導管を流れる魔力の勢いによって、外側へと押し出され、これが原因で魔導管の一部が膨らむ、というか突き出してしまい、それで神経系が圧迫されて、頭痛が起きる――というメカニズムです。
このままこれを放置していると、そのうち瘤になって、今以上の慢性的な頭痛に悩まされることになります。また、魔力の流れが悪くなって、魔法が発動できなくなる危険性もありますね」
「……そんな話、お医者さんから言われたことないわ」
「魔力や魔導系というのは、現代の技術をもってしても、未だに観測できていませんからね。医師がわからなくても仕方がないです。ただ、俺が言った現象が起きそうなことに心当たりはあるんじゃないですか? つまり、精神操作をするような魔法を発動するために、脳付近に魔力を送っている」
「……あなたの言うことが本当だったとして、私はどうすればいいの?」
話をそらされた。が、彩羽が話したくないことをしつこく言及するのも悪いので、彩羽の質問に答える。
「まずは、精神操作系の魔法を発動するために、脳付近へ魔力を送るのを止めた方がいいです。すでにできている魔力栓については、今から俺が治療して、取り除きたいと思います。ということで、治療してもいいですか?」
「治療って何をするの?」
「俺の魔力を送って、もう少し具体的に言うと、浄化作用のある光の魔素を送って、徐々に魔力栓を削りたいと思います」
「光の魔素がよくわかんないけど、それって、痛いの?」
「痛くはないです。が、必要なら、睡眠魔法を使って、夜美さんを眠らせた状態で治療することもできますよ」
「いや、睡眠魔法は使わなくていい」
「わかりました」
英雄もそれが賢明な判断と思った。睡眠状態になると、洗脳が解かれかねない。そうなると、状況的に英雄に襲われてしまう。英雄に襲う意思はないが、防犯という意味で、そういった意識を普段から持つのは大事なことだと思う。
「一つ確認なんだけど、あなたは私に嘘を吐いていないよね?」
「はい」
彩羽の支配下にあるはずの自分が嘘を吐くわけがない。
「……そう。なら、治療をお願いするわ。でも、その前にこの拘束を解いて」
「それは治療の後にします」
「なっ、どうして!」
「だって、夜美さんが逃げるかもしれないじゃないですか」
それに、今回は脳付近の魔導管で治療を行うから、万全を期したい。もしも拘束を解いて、彼女が治療中に暴れ出したら、事故が起きかねない。
「逃げないわ。だから、この拘束を解いて」
「嫌です。わかってください、夜美さん。俺は夜美さんを助けたいんです。そうしなきゃいけない気がするんです!」
英雄は熱を込めて言った。英雄なりの迫真の演技。これで、彼女が理解してくれればいいが……。
「……はぁ」と大きなため息が聞こえた。「わかったわ。でも、その前に確認させて。三回回ってワンと鳴きなさい」
自分の魔法がちゃんと効いているのかを確認したいのだろう。英雄はその場で三回回って、「ワン!」と鳴いた。
「よろしい。なら、早くその治療とやらを終わらせてね」
「はい。それじゃあ、いきますよ」
英雄は『賢者モード』を発動し、治療を開始した。
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