第41話 悩める美少年、揺れる

*ただのマッサージですが、人によってはNTRにも感じるような描写があるので、苦手な方はご注意ください。



 英雄は瓶に人差し指と中指を入れ、多量のスライム・ジェルを掬って、翔琉に見せた。


「いいか、翔琉。まずは、これくらいのジェルを掬う。そしたら、いったん、このジェルを自分の手に揉みこんでから、相手の体に塗る」


 英雄が粘性の液体をまとった両手を優月の腰に置いた。


 瞬間――。


「ひゃっ」と優月から声が漏れる。優月は、英雄がジェルを広げていく間、唇を固く結んで、声が漏れるのを堪えた。


「それじゃあ、ある程度、ジェルが塗れたら、微量の雷属性の魔力を流してあげる。すると――」


「んあっ♡」と優月の体が震える。優月は耳まで赤くして、慌てて自分の口を押えた。


「今の反応を見てわかったと思うけど、こんな感じで微弱な電気刺激を感じるようになる。そしたら、この状態でマッサージをする」


 そう言って、英雄は優月の腰をさすり始めた。それだけでも効果があるのか、優月は両手で口を押えて、必死に声を抑える。痛みというより快楽に耐えているようだった。


 それでも、英雄が徐々に力を加えると、「んっ♡」「あっ♡」と両手の間から優月の甘い吐息が漏れる。


 翔琉は、姉の見てはいけないところを見ている気がして、居心地が悪くなってきた。また、多少の悔しさも覚える。優月が自分がマッサージするときよりも気持ちよさそうにしているからだ。


「――とまぁ、こんな感じかな」


 英雄が優月の背中から手を放したので、翔琉は慌てて視線を戻す。


「どう? なんとなくイメージできた?」


「はい」


 嘘である。ちゃんと見ていなかった。でも、もう一度お願いする気にはなれなかった。英雄に申し訳ないし、それに……。


「んじゃ、これで終わり」


「……まだですよ」と優月。


「え、でも、やりすぎはよくないですし」


「まだマッサージできるところはあります。肩とか腕とか。このままじゃ、記事が書けません。だから、続きをお願いします」


「……まぁ、優月さんがそう言うなら」


 英雄は新たにジェルを掬って、優月の肩に垂らした。そして最初はさすりながら、徐々に揉みこんでいく。


 やはり優月は快感に耐えきれず、微かな吐息が部屋に響いた。


「バスタオルを前に掛けたまま、仰向けになってください」


 英雄が耳元でささやくと、優月は小さく頷く。バスタオルを抑えながら恥ずかしそうに仰向けになる。


 バスタオルは、優月の首元から膝下までの魅惑のラインを隠した。


「それじゃあ、腕の方をマッサージしていきますね」


 英雄は優月の右手を優しく握り、揉み始める。優月が左手で口を押えると、英雄はマッサージの手を止めた。


「優月さん。声を我慢する必要はないですよ」


「え、でも」


「大丈夫。この辺には俺たちしかいないんで。それに、これは人によるんでしょうけど、俺は人の反応を確かめながら、マッサージをしたいんです。それで、魔力などの調整もできますし。だから、声は我慢しなくてもいいですよ」


「うぅ、でも」


 英雄は優月の耳元に口を近づけ、囁いた。


「これは、より良いマッサージのためなんです。だから、ご協力のほど、よろしくお願いします」


「……より良いマッサージのためですもんね」


「はい」


「わかりました」


「ありがとうございます」


 英雄が爽やかな笑みを向けると、優月は恥ずかしそうに顔を逸らした。


 そして、粘性のある水音と甘い声が響きだす。


 翔琉は、その様を後方から眺めていることしかできなかった。


「それじゃあ、次は左腕をマッサージしますね」


「……はい♡」


 優月は夢見心地な表情で、左腕のマッサージを受け入れる。


 が、翔琉と目が合い、はっと我に返った。


「み、見ないでぇ」と赤い顔を右手で隠す。「こんなお姉ちゃん、見ないで」


「ご、ごめ――」


「見てもらいましょうよ」と言って、英雄は優月の右手を優しく掴んでおろした。


「で、でも」


「人が気持ちいいマッサージを受けたとき、どんな顔をするのかを知ることは、翔琉の今後に繋がるかもしれませんよ」


「そんなこと」


「無いとは言えませんよ。少なくとも、俺はそうでしたから。もちろん、翔琉がそうとは限りませんが。そもそも、見られたくないなら、我慢すればいいじゃないですか」


「ぅぅ、八源さんのいじわる。さっきは我慢するなと言ったのに……」


 英雄はその言葉を無視してマッサージを再開する。


 優月は、「あっ♡」と声を漏らすも、すぐに唇を噛んで快感を堪えようとする。


 しかし、英雄が繰り出す快感の波に勝てず、表情筋は決壊し、ゆるみきった表情をさらす。


 優月は翔琉に何か言おうとしたが、その言葉は「やっ♡」という甘い声音で翔琉の耳に残った。


(ゆづ姉……)


 翔琉の眉尻が下がる。物心ついたときから優月とは一緒だった。優月の喜んでいる顔も、怒っている顔も、悲しんでいる顔も、楽しんでいる顔も見てきた。


 しかし、優月が今、自分に見せている顔は、そのどれでもない。彼女は今、異性の顔になっていた。そして、そんな顔は見たくなかった――はずなのに、目が離せない。


 翔琉は、その場に立ち尽くしたまま、変わっていく姉を眺めていることしかできなかった。


「――ということで、腕も終わりです」


 翔琉の心情など知らない様子で、英雄は淡々と語る。


「え? もう? ま、まだ、記事が書けそうにないです」


「でも、やるところが」


「足が残っています。それに――」と言って優月は英雄を手招く。


 英雄が耳を寄せると、何事か囁き、英雄が眉をひそめる。


「いや、でも、そこは」


「お願いします。私も協力したんですから」


「……わかりました。じゃあ、先にそっちからやっちゃいますね」


 そう言って、英雄はバスタオルの下に手を滑らせた。


 瞬間――。


「んあっ♡」


 ひと際大きな嬌声が響いて、優月の腰が跳ねた。


 ――十数分後。ベッドの上には穏やかな表情で眠る優月の姿があった。途中で気を失い、そのまま夢の中で快楽に浸り続けた。


「――ってな感じで、マッサージをすればいいから」


「……はい」


 翔琉は目を伏せて答える。自分の姉を変えてしまった男の顔を見ることができなかった。


「んじゃあ、まだ『スライムの体液』が残っているし、今度は翔琉にやってあげるよ」


「……えっ」


 翔琉は驚いて顔を上げる。


「じょ、冗談ですよね?」


「何で冗談を言う必要があるの? 翔琉にはどんな感じのマッサージをすればいいか見てもらった。だから今度は、実際に体感してもらいたいと思うんだよね」


「で、でも、ベッドの上にはゆづ姉が」


「それなら問題ないよ」


 文字通り地面から土のベッドが生えてきて、英雄はベッドのシーツを広げる。そして、端に座って、ベッドを軽く叩く。


「とりあえず、服を脱いで、こっちへ来て。大丈夫。ちゃんと気持ちよくしてあげるよ――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る