第39話 白衣の勇者、さらに提案する

「『スライムの体液』入手できました!」


 嬉しそうに瓶を見せる優月に、英雄は微笑み返す。


「ありがとうございます。んじゃあ、翔琉の所へ行きましょうか」


「はい。八源さんの分はどうしますか?」


「まぁ、そのうち適当に見つけますよ」


 二人は来た道を戻る。その道中で、英雄は言った。


「優月さん。さっきの話、翔琉にしてもいいですか?」


「さっきの話ってマッサージの件ですか?」


「はい」


「だ、駄目ですよ!」


「どうしてですか?」


「いや、だって、私が変な姉だと思われちゃうかもしれないし」


「大丈夫です。そこはうまくぼかすんで。俺に任せてください。悪いようにしません」


 英雄が自信のある笑みを浮かべると、優月は困惑しながらも頷く。


「……わかりました。八源さんにお任せします」


「ありがとうございます!」


「何か私にできそうなことがあれば言ってください」


「え、いいんですか?」


「はい。まぁ、私が言い出したことですし」


「なるほど……」


 そして、翔琉と合流し、調査を続ける。


 ――三時間後。


 一帯の調査を終え、翔琉は目を輝かせながらノートを見返していた。


「すごいですよ、英雄さん! この『スライム毒物反応』によって得られた結果と報告例がほぼ一致します。一致していないものに関しても、食べるのは推奨されていないものばかりだし、これを使えば、毒物かどうかをちゃんと見分けられそうですね!」


「そうだろう」と英雄は鼻を高くして語る。「でも、もしかしたら、このダンジョンだけ、さらに言うと、この一帯だけ、たまたまうまくいったのかもしれないから、他の場所やダンジョンでも使えるやり方かは今後も検証が必要だな。あと、スライムの種類によっても、反応に違いがあるかもしれないし」


「そうですね。あ、そうだ。それを調べるのを動画の企画とかにしたら、いいんじゃないですか?」


「確かに。そのアイデア出し助かる」


「へへっ」と翔琉は笑い、その姿に優月がきゅんとする。


「企画と言えばさ、優月さんに翔琉がマッサージが得意だと聞いたんだけど、そうなの?」


「あ、はい。一番上の姉にやっているうちに上手になりましたけど」


「そっか。ならさ、俺にもマッサージしてくれよ」


「まぁ、それはべつにいいですけど」


「よし。じゃあ、その様子を動画で撮影して、公開しよう」


「え、僕が英雄さんをマッサージする動画ですか?」


「ああ」


「需要あるんですか、それ」


「あるよ。ほら、最近も、おっさん同士でイチャイチャするドラマが流行っただろ? あれを見た感じ、今の時代、男同士でイチャイチャする動画にも需要があると思うんだ。そして、そういった動画を見るのは、おそらく若い女性。つまり、今、Elementsに足りていない層の獲得に繋がる。だから、翔琉が俺にマッサージする動画は良いと思うんだよね」


「なるほど……」


 翔琉は思案顔になる。意図は伝わったみたいだ。優月に目を向けると、グッと親指を立てたので、英雄はウインクを返す。


「……わかりました。そういうことなら、やりましょう」


「ありがとう」と言って、英雄はニヤリと笑う。「――でも、普通にマッサージをしても面白くないんだよね。冒険者のチャンネルだから、折角だし、冒険者らしいマッサージをしたい」


「と言うと?」


「この『スライムの体液』には、もう一つ、面白い性質がある」と言って、英雄は瓶に入ったスライムの体液を見せた。「スライムの体液には、多量の魔液が含まれているため、魔力が全体に流れやすい。例えば、この体液に水属性の魔力を流してみると――」


 英雄は瓶の蓋を開け、右手の人差し指と中指を突っ込んで魔力を流した。その後、蓋を閉めて、瓶を振る。再び蓋を開けて、指で掬うとゼリー状だった固形物が粘性のある液体に変化していた。


「こんな風に、状態変化が起きて、ゼリー状の固形物だった体液が粘性のある液体に変わる。この状態を『スライム・ジェル』と呼んだりする。厳密に言うと、変化前もジェルなんだけど、まぁ、それはいったん置いといて、このように状態を変化させることで、スライムは移動したりする。で、この性質を利用し、このジェルに雷属性の魔力を流せば、微弱な電気を帯びたジェルに変わり、これを塗りながらマッサージすると、微弱な電気刺激が加わるため、通常のマッサージ以上の疲労回復効果が期待できる。また、皮膚に魔力を塗り込むことで、魔力のめぐりも良くなり、魔導系の疲労回復効果も望めるようになる。だから翔琉には、このジェルを使ってマッサージできるようになってほしい」


「僕が、そのジェルを使って、マッサージをする?」


 翔琉は眉を顰め、優月はごくりと生唾を飲む。


「その通り。と言っても、これを使う場合は、法律でダンジョン外に持ち出せないから、まぁ、申請すれば持ち出せないこともないだろうけど、面倒だから、俺が撮影許可をもらうまで、つまりあと半年くらいは、このジェルを使ったマッサージができない。ただ、どのみち、いきなりこれを使ったマッサージは無理だと思うから、その半年間でこれを使ったマッサージができるようになろう」


 日本では、危険性の有無を判断するための基準ができていないため、ダンジョン内で入手したアイテムをダンジョン外へ持ち出すことは禁じられている。許可を貰えば、持ち出すこともできるが、その許可を貰うのに時間が掛かるし、今回のような理由だと、拒否されてしまうだろう。どのみち、翔琉はこのアイテムの使い方がわかっていないだろうし、まずは使い方を覚えることを優先する。


「ということで優月さん――」


 英雄は爽やかな笑みを優月に向ける。


「今から優月さんにこれを使ってマッサージをしてもいいですか?」

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