第37話 白衣の勇者、紹介する②
「スライムがいないときにも、今の『スライム毒物反応』ができるように、あのスライムを倒してあるアイテムを手に入れる。と言っても、それで本当にできるかは怪しいんだけど。とりあえず、あいつを倒すか」
次の瞬間、スライムが弾け飛んだ。
「……え?」
唖然とする優月の隣で、「お、ラッキー」と英雄は言う。スライムがいた場所に、プリンみたいなゼリー状の塊が残っていた。英雄はそれを瓶に詰めて、戻ってくる。
「見てください。これが『スライムの体液』です。厳密に言うなら、ゼリー状に固形化した『スライムの体液』ですが」
「ちょ、ちょっと待てください」と優月が遮る。「今のは、八源さんがやったんですか?」
「はい」
「どうやって?」
「……まぁ、それはいいじゃないですか」と英雄は笑って誤魔化す。「それより、この『スライムの体液』に、先ほどのキノコを入れてみます」
英雄は体液の中にキノコを突っ込む。キノコは標本のように体液の真ん中あたりに留まっていたが、次第にキノコを膜が覆い始める。そして、ゆっくり浮上すると、体液の液面に浮き出た。
英雄はその様子を見て、安どする。正直、アイテム化した体液でも『スライム毒物反応』ができるかは賭けだった。異世界では倒したスライムがアイテム化することは無かったから、アイテム化した体液が、異世界のスライムの体液と同様の性質を有しているかがわからなかった。
「同じことが起きましたね」と翔琉が興奮した面持ちで言う。
「そうだな。まぁ、こんな感じでアイテム化した『スライムの体液』でも確かめることができる。ちなみに、これに『メイキュウタンポポ』を入れてみると……」
メイキュウタンポポは、キノコと同じ時間が経っても、液中に留まり続けた。膜に包まれる感じも無い。
「このように、毒物じゃない食材に対しては、反応が起きない。だから、アイテム化した後も、スライムの特性は残り続ける。つまり、『スライムの体液』さえあれば、いつでも確かめることができるってわけ」
「なるほど」
「あっ」と優月が慌ててカメラを構える。「すみません。今の撮り忘れていました」
「まぁ、いいんじゃないですか。時間ならまだありますし。それで、もう一つの質問だけど」
「スライムが毒物じゃないと判断したからと言って、人間にとっては毒物の可能性もあるって質問ですね」
「うん。それについては、その通りだと思う。ただ、俺が試してきた感じだと、人間にとっての毒物をスライムが毒物と認識することが多かったかな。というか、少なくとも、さっき倒したスライムは、毒物全般に対して敏感な反応を示すタイプのスライムなんだよね。だから、ニンニクなんかにも同じ反応を示したりする。と言っても、ダンジョン産の『メイキュウニンニク』だけど」
英雄は白衣のポケットからメイキュウニンニクをひとかけ取り出す。ダンジョン前で売っていたものだ。
「このニンニクは、人間にとっては毒じゃないけど、ある種のモンスターにとっては毒であることが知られている。このニンニクを与えてみたとき、体液がどんな反応をするか見てみよう」
英雄は皮をむいて、体液に突っ込んだ。ニンニクは液中に留まるも、次第に膜に包まれて、液面に浮かび上がる。
「とまぁ、こんな感じで、この種のスライムは毒物全般に反応を示すから、怪しいものは、とりあえず体液に突っ込んで、毒があるかどうかをチェックしたらいいと思う。で、ニンニクみたいに人間が食えるものもあるから、人間が食べられる食材かどうかは、また別のやり方で調べる。どうしても食べたいなら、だけど」
「なるほど。つまりこの方法は、毒の有無を調べるのに有効であって、その毒の種類や効果までは調べることができないんですね」
「そうだ。そのまとめ、助かる」
「へぇ。まぁ、毒の有無がわかるだけでも、役立ちそうですね」
翔琉が興味深そうにスライムの体液を眺めるので、英雄はスライムの体液を翔琉に渡した。
「んじゃ、これを使って、この辺一体の食材に毒があるかどうかを調べてみようか。幸いなことに、この辺の食材については、有志がまとめてくれた資料がある。だから、それを見ながら調べれば、この体液を使った判別の仕方の精度みたいなところもわかるでしょ」
今回、八王子のダンジョンのしたのも、豊富な野草を使って、この反応の精度を確かめるためだった。スライムの体液を手に入れるだけなら、啓子と行った『スライムの巣窟』で事足りるが、あそこは食材と呼べるアイテムがあまり入手できない。
「はい!」
そして三人は調査を始めた。
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