第33話 白衣の勇者、相談に乗る②

「翔琉のキャラか……」


 翔琉には『イケメン』という明確な武器がある。さらに、運動もできて、頭も良い。欠点らしい欠点は無いが、確かに絵麻や一花と並ぶと、大人しい印象は受ける。だから、キャラを出すんだとしたら、あの二人を超える強烈なインパクトが必要だ。


「毒舌キャラとかどうよ? その爽やかな顔とのギャップで人気が出るんじゃないか?」


「僕、人のことをあまり悪く言えないんですよね」


「聖人かよ。んじゃ、無理を承知で、俺の悪口を言ってみて」


「え、その、ばか?」


「あとは?」


「あほ」


「あとは?」


「はげ」


「ふさふさだわ。でもまぁ、確かにその感じだと難しいな」


「すみません」


「いや、謝るようなことじゃないよ。でも、どうしたもんかな……。そういえば、翔琉って何でディーバーになったの? もしかしたらそういうパーソナルなところを知ることで、翔琉のキャラが思いつくかもしれん」


 志望動機的なことなら、資料を見ているので、何となくわかる。が、本人の口から聞くことで、閃きがあるような気がした。


「僕が、ディーバーになろうと思ったのは、姉の影響ですね。僕には三人の姉がいるんですけど、二番目の姉がダンジョンの記事を書いているので、その記事を読んだり、話を聞いているうちに、冒険者に興味を持つようになり、その姉にディーバーを勧められたので、ディーバーになったって感じですね」


「へぇ。姉がいるんだ。ちょっと話がそれるけど、お姉さんって記者をやっているの?」


「いや、そういうわけではないです。『ダンジョンドットコム』ってご存じですか?」


「うん。ダンジョンの情報についてまとめているサイトだよね?」


「はい。姉はそこで働いていて、エンジニアをしながら記事も書いているって感じです」


「なるほど」


 ダンジョンドットコムと言えば、ダンジョンに関する情報サイトとしては最大手だ。そんなところに身内がいるんだとしたら、何かの機会に使えるかもしれない。


(……って、そんなことを考えている場合じゃないか)


 英雄は翔琉に視線を戻す。


「話し戻すけど、弟キャラなんてどうよ?」


「弟キャラですか? 絵麻ちゃんや一花ちゃんの前で、僕が弟感を出せると思いますか?」


「……無理だな。むしろ、兄のように振舞っているところが容易に想像できるよ」


「ですよね。土井ちゃんがいると、彼女がまとめてくれるので、多少は状況が変わるかもしれませんが、それでもやはり、あの二人の前で弟キャラはちょっと」


「そっか。そうだなぁ。他に何かないかなぁ」


 英雄は翔琉とのこれまでのやり取りを思い返してみる。また、啓子に渡された資料なんかも頭の中で見返し、キャラ作りに生かすことができそうなものがないか、探してみる。


「……ああ、そうだ。一つ気になっていたんだけど、この間、ダンジョンに行ったとき、薬師の装備だったじゃん? あれは何で?」


「それは、野草が好きなんで、何となくその知識とか活かせないかなと思いました」


「へぇ、野草が好きなんだ。何で?」


「それも二番目の姉の影響ですね。その姉は生き物が好きで、小さい頃は一緒に河川敷に行って、野草探しや虫探しなんかをしていたんです。それで僕も野草の知識が身につきました」


「なるほど。それじゃあ、今の翔琉は、結構、二番目のお姉さんの影響を強く受けているんだ。好きなの?」


「え? まぁ、尊敬はしていますけど」


 翔琉が頬を染めて恥じらいながら答える。翔琉のそんな顔を見るのは初めてのことだったから、英雄は嬉しくなる。


「そっか。そのお姉ちゃんも、翔琉にそう言われて嬉しいだろうね。俺も妹にそんな風に言われたら、めちゃくちゃ嬉しいもん。下手したら、そのまま昇天するかも」


「それは大袈裟じゃないですか?」と翔琉が苦笑する。「でも、姉が英雄さんくらい喜んでくれたら、僕も嬉しいです」


「そうだな」


 何となく翔琉のことがわかってきた気がする。ただ、キャラを考えるためには、もう少し情報が欲しいところではある。


「よし! じゃあさ、今から河川敷に行こうぜ。そこで翔琉の野草知識を披露してよ」


「わかりました。でも、大丈夫ですか?」


「まぁ、そこは理由を話せば、啓子さんもわかってくれるよ。あ、でも、ちょっと待って」


 英雄は気配を探る。部屋に絵麻と一花の気配があった。今、帰ったら、二人がついてくるかもしれない。別に二人のことが嫌いなわけではないが、今日は翔琉と二人だけで過ごしたい。


 チャットアプリで、グループチャットを開くと、絵麻から『マネージャー、今、どこにいるの?』とのメッセージが来ていた。


「翔琉。お願いがある」


「何ですか?」


「今から、俺は部屋に戻って、啓子さんに翔琉と河川敷に出かけてもいいか聞いてくる。ただ、今、部屋には絵麻と一花がいるから、二人には話を聞かれないようにしたい。話を聞いたら、多分、二人はついてくるからね。そこで翔琉には、二人をここにおびき出し、俺が合図を出すまで引き留めて欲しい」


「それはいいですけど、わざわざ戻らなくても、啓子さんに直接連絡すればいいんじゃないですか?」


「まぁ、パソコンを置いてきたいし、それに、ワンチャン、直帰できるかもしれないから、荷物をとってきたい」


「なるほど。確かに、それなら戻った方が良いかもですね」


「だろ? じゃあ、具体的な作戦について話すね――」

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