第27話 白衣の勇者、施術する
英雄はシングルベッドの上に一花を座らせ、自分も対面に座る。一花ははにかんで言った。
「なんか、緊張しちゃうね」
「大丈夫。一花も初めてだろうから、優しくするよ」
英雄は『賢者モード』を発動し、集中力を高める。
「それじゃあ、両手を出して」
一花が伸ばした両手を英雄は握る。
「まず、軽く魔力を流していくね」
「あっ♡」
英雄が魔力を流すと一花の体がビクッと震える。比較的すぐに頬が上気し、もじもじする。その様をじっと眺め、英雄は分析した。一花は他の人よりも魔力に対する感度が高いように思う。
「一花ってさ、結構、感じやすいでしょ?」
「……えっ、まぁ、そうだけど」
一花の頬がさらに赤くなる。そんな一花に、英雄は満面の笑みを返した。
「だよね。だと思った」
「……わかるの?」
「そりゃあね。いっぱい診てきたし」
「……そうなんだ。意外だね」
「意外か?」
「うん。だって、あんまりそう見えないし」
「そうか?」
ダンジョンでは白衣を着ているが、それだけでは足りないらしい。普段から着ている必要があるかもしれない。
「まぁ、いいや。その様子だと、十分、俺の魔力を感じることができているみたいだね」
「う、うん。でも、変な気分。ダンジョンだとここまでじゃ無かったのに」
「それは場所の問題かな。ダンジョンだと緊張感もあって、それどころじゃないからね」
「なるほど。じゃあ、マネージャーが作ってくれた空気のおかげだ」
「作るほどのことをした覚えは無いんだけど、そうなんじゃない」
「ふぅん……」
魔力の出し入れによって、一花の体が温まってきたので、次に進む。
「そろそろ、魔素の含有量を変えていこうか。んじゃ、まずは――これは何の魔素を増やしたかわかる?」
一花は目を閉じて集中する。
「んっ。ヒリヒリするから、火の魔素かな?」
「正解。んじゃ、頃合いを見て、別の魔素を増やすから当ててみて」
英雄は一花の息遣いなどからタイミングを見て、魔素の量を変更する。
「あっ♡ ゴツゴツする。これは、土、かな」
「正解。やっぱり、感じやすいから、魔素の違いもちゃんとわかるんだね。んじゃ、また適当なタイミングで変えるね」
それから、何回か魔素の量を変え、複数の魔素を慣れさせていく。魔素を切り替え度に、一花の体はビクッと震え、筋肉の収縮と弛緩の回数が増えていった。
(そろそろ、いいかな)
一花の表情から察するに、満足度は高そうだ。これなら、気持ちよく帰ってくれるだろう。
英雄が終わりを告げようとしたら、先に一花が口を開いた。
「ね、ねぇ、マネージャー。もっと強くできないの?」
「強く? 勢い的なこと? それならできるけど」
「なら、強くして♡」
英雄は魔力の出し入れを強めた。さらに、土の魔素を増やした瞬間――。
「あ、っば」
奇声にも似た声を上げ、一花の腰が大きく跳ねる。そのまま後ろに倒れそうになったので、英雄は慌てて手を伸ばし、優しくベッドの上に寝かせた。見方によっては、英雄がベッドに押したようにも見える。一花はそばにある英雄の目を見つめ、荒い息遣いで言う。
「ま、マネージャー。い、今のやばかった。もう一回♡」
「いや、もう大丈夫だよ。これでおしまい」
「……は?」
一花は素早く英雄に抱き着いた。その姿は、木にしがみつくナマケモノのようだ。しかしながら、ナマケモノよりも力強く、執念のようなものを感じる。
「お、おい」
「ヤダ! まだ、あたしは全然納得してないよ。むしろ、これからだから!」
「はぁ? もう十分だって」
「ヤダ。自分だけ気持ちよくならないで。もっと、あたしを納得させてよ」
「別に気持ちよくなってないんだが?」
一花が全然離れそうにないので、英雄はため息を吐く。
「わかったよ。納得したら、放してくれるんだな?」
「うん♡」
「んじゃ、納得いくまでいかせてもらうわ」
「……へへっ、おもしれーじゃん。やってみろ!」
――十数分後。ベッドの上には、干からびたカエルのように倒れ伏す一花の姿があった。
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