第24話 友達思いの少女、決意する
一花には親友がいた。その子とは、物心ついた時からの仲であり、いつも一緒にいることから姉妹に間違えられるほどだった。
あるとき、その子に誘われる。
「ねぇ、一花。うちと一緒にテニスをしない?」
「テニス? 何で?」
「お兄ちゃんが持ってる漫画を読んでたら、やりたくなった」
「ふーん。まぁ、いいけど。でも、あたしにできるかな?」
「大丈夫っしょ。一花は運動神経が良いから。これはうちの勘なんだけど、うちと一花が組んだら、『てっぺん』も夢じゃないと思うんだよね」
「日本一って、こと?」
「うん! だって、うちらって最強じゃん?」
「だね!」
そしてその子とダブルスを組み、中三の夏に全中で優勝する。
二人で表彰台に立った時、一花はその子との永遠にも思えるような友情を確信した。お婆ちゃんになってもくだらない話で盛り上がる。そんな最高の二人になると思った。
――しかし、それは一花が見ていた夢に過ぎなかった。
全中優勝後、その子に言われる。
「ねぇ、一花。冒険者にならない?」
「冒険者? 何で? テニスはどうすんの?」
「テニスはもういいや。それよりさ、ディーバーの動画を見てたら、やりたくなったんだよね。ダンジョンって、なんかワクワクじゃない?」
「うん。確かにワクワクかも」
「ね。だからやろうよ」
「うん。でも、どうやってなるの? あたし、その辺のこと、全然知らないよ」
「まぁ、いろいろなやり方はあるみたいなんだけど、エリートプログラムって言うのが、うちらには合ってるかも。何か、優秀な冒険者になるための訓練を受けることができるんだって」
「へぇ。それは全員、受けることができるの?」
「いや、選抜試験があるみたい。倍率が100倍とも1000倍とも言われている」
「そんなに? 大丈夫かな。あたし」
「大丈夫でしょ。だって、うちらは最強だし。うちも一花も合格できるよ」
「……だね! なら、それを受けてみようかな」
そして一花はその選抜試験を受け、落ちてしまった。一方、その子は合格。その子からは励ましの言葉をもらったし、一花も彼女を応援することに決めたが、次第に会うのが気まずくなって――疎遠になってしまった。
それから約一年が経った高1の夏。一花はDプロダクションの選抜を受けた。
選抜会場で、周りにいる同年代の少年少女を眺めながら一花は思う。
(あたし、何をしているんだろう……)
受けた理由については、正直、うまく言語化することはできなかった。志望動機はぺらぺら喋ることができるが、それは大人受けを意識したものであり、本心とは言い難い。
そもそも、一花にとってダンジョンは、自分とあの子を遠ざけた原因であり、本来は憎むべき対象である。しかし、自分は今、それに関わろうとしている。なぜだろう。わからない。
(帰ろうかな)
そんな風に思っていると、試験が始まって、実技試験のためにペアを組むように言われる。
一花が煩わしく思っていると、「ねぇ、良かったら、一緒にやらない?」と声を掛けてきた者がいた。それが、絵麻である。
「うん。いいよ。あたしは氷室一花。よろしく」
「私は雷塚絵麻。こちらこそ、よろしくね」
そう言って、絵麻は一花の顔をじっと見つめた。
「何?」と一花は眉を顰める。
「……これは私の勘なんだけど、あなたと組めば、この試験は楽勝な気がするわ」
そう言って、絵麻は弾けるような笑みを浮かべた。
その笑みを見て、一花の眉が開き、自然と笑みがこぼれる。ずっと、この瞬間を待っていた気がした。
「だね! あたしも同じことを思った」
そして、絵麻とともに合格し、それからはずっと一緒にいる。あの子がいなくなって、ぽっかりと空いてしまった心の隙間が、絵麻によって満たされていく感じがあった。他の友達と遊んでいる時には無かった感覚。出会いがあれば別れがある。その言葉の意味を絵麻に教えてもらった。
――だからこそ、絵麻には幸せになって欲しかった。しかし、そんな絵麻の幸せが壊されようとしている。
一花には仲の良い先輩がいた。その先輩は、20代の社会人と付き合い、今は精神を病んで、学校にも行けてないという。何があったかは噂でしか知らないが、一つ確かなのは、男の方がクズだったということだ。
それから一花は、未成年に手を出す男は全員クズだと思っている。ただの私怨といえばそれまでだが、社会的なモラルや法律を守れていない時点で、男側に問題があるのは間違いない。
そして、そんなクズのせいで絵麻が傷ついてしまうかもしれない。それは、一花の望むところではなかった。
(でも、あのマネージャーが?)
一花はゴブリン・バーサーカーと戦ったときのことを思い出す。あのとき、自分のために真剣になってくれた英雄に、そんな一面があるとは思えなかった。いや、そう思いたいだけかもしれない。一花には人の裏表を判断できるほどの人生経験が無かった。
(……これは、ちゃんと確認する必要がありそうだね)
一花は決意する。絵麻を助けるため、そして、英雄についてよく知るため、英雄を尾行することにした。
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