第22話 白衣の勇者、確信する
「まず、皆はよくやっている。今回の相手は、多分、皆が戦ってきた中で一番強い。そして慣れない連携ということもあって、わからないことも多いと思う。そんな中でも、臆することなく戦い続ける皆の勇気に、俺は称賛を送りたい。が、さっきの場面で、一花が大怪我、いや、下手したら死んでいたかもしれないことは、一つの教訓として覚えておこう」
三人の顔つきが厳しいものに変わる。
「で、本当は、何であんな場面になったかを分析したいところではあるんだけど、時間も無いので、手短にアドバイスだけ送るね。まず、絵麻」
「は、はい!」
「戦い方自体は問題ないし、むしろ、かなり良い。その調子で続けていこう」
「はい」
「どう? 精神的な余裕ってある?」
「余裕……。まぁ、相手を見ながら動けている気はします」
「そうだね。俺もそう思う。なら、一つ、テクニックを教えようかな。魔法剣に魔力を流した状態で戦ってみて」
「魔力を流した状態、ですか?」
「そう。要は、魔法剣に雷の属性を付与したいわけ。その魔法剣なら、魔力を流すだけでそれができる。そして、常に魔力が流れている状態にしておけば、敵の麻痺を狙いつつ、さっきのように相手が別の対象を攻撃しようとしたときに、魔法を発動して、足止めできる」
「なるほど。つまり――」と言って、絵麻は魔法剣を青白く光らせた。「この状態で戦って、私から逃げようとしたら、魔法を発動すればいいんですね?」
「うん。でも、魔法を発動するときの軌道には気を付けてね。仲間を巻き込んじゃう可能性があるから。どう? できそう?」
「……はい。やってみます!」
「よし。それじゃあ、それでいこう! 次に翔琉なんだけど、翔琉は今の動きを続けよう。非常に良いと思う」
「ありがとうございます」
本音を言えば、もう少し薬師らしい攻撃をやって欲しいのだが、精神的な余裕があるようには見えないので、今の動きを優先したい。
「何度も動き直しが必要で、体力的にしんどいかもしれないけど、最後まで続けてほしい」
「はい。大丈夫です!」
「うん。その調子で頼む! で、一花なんだけど――俺が言いたいことわかる?」
一花の顔が強張り、じわっと涙で目が滲む。
「……はい」
「なら、あまり厳しいことは言わないけど、俺に言われたことはちゃんと守ろうか」
「はい」
「もちろん、一花の挑戦を否定するつもりはないし、応援したいとは思うんだけど、タイミングは考えていこうね。もしも、あの場面で一花が大怪我したら、絵麻や翔琉が動揺して、最悪な事態になっていたかもしれない。一花だって、そんなの嫌でしょ?」
一花はこくりと頷く。
「だよね。なら、タイミングを考えて行動しようか」
「……はい」
「よし。じゃあ、さっきも言ったけど、制約のことは忘れて、慣れている氷魔法で攻撃しよう。次に位置取り。さっき、あいつに狙われたのは、一花の動きが止まっていたからだ。だから、何度も動き直して、狙いを絞らせないようにしよう。位置取りに関しては、翔琉がめちゃくちゃいいから、参考にすると良いかも。あとは魔法の強さ。あんまり強い攻撃を当てると、あいつが積極的に攻撃してくるだろうから、抑えめにいこう。ただ、一花の魔法の威力が魅力的なのも事実。だから、ここぞというタイミングでは、ためらわずに強力な一発を放っても大丈夫」
「わかりました」
「うん。じゃあ、やつを解放するから、皆、位置について」
三人が元の位置に戻ろうとする。が、一花の自信なさげな背中に気づき、「一花」と英雄は呼び止める。
「はい」と一花は振り返る。
「絵麻の言葉を思い出して。今は失敗できるチャンスなんだ。やつが一花の首を狙うなら、俺が何度だってその刃を止める。だから、失敗することを恐れずにガンガン挑戦していこう!」
「そうよ!」と絵麻が駆け寄って一花の背中を叩く。「マネージャーだけじゃないわ。私だって、一花のことを助ける。だって、私たちはチームじゃない。だから、一緒に頑張ろう!」
「そうだね」と翔琉も歩み寄って声を掛ける。「僕もサポートするよ。大丈夫。いつもの一花ちゃんならできる。だから、自信を持っていこう!」
「……二人とも。ありがとう」と言って、一花は目じりの涙を拭う。「そうね。ちゃんとしなきゃ。私、頑張るから!」
一花の吹っ切れたような横顔を見て、英雄の眉が開く。今の一花なら、きっとやってくれる。
「素晴らしいわ」と啓子。「これが青春ね」と目じりをハンカチで拭う。
大人である啓子には、もう少し緊張感を持ってほしいところではあるが、それを指摘するのも無粋な気がしたので、英雄は三人に視線を戻す。
三人が配置についたのを見て、声を掛ける。
「それじゃあ、やつを解放するよ!」
三人が頷いたので、英雄は【土蜘蛛】を解除する。ゴブリン・バーサーカーは雄叫びを上げると、一花を狙おうとするも、絵麻が【メガ・サンダー】を当てて、ゴブリン・バーサーカーの気を引く。その間に一花は動き直して、ゴブリン・バーサーカーの視界の端から氷のつぶてをぶつける。ゴブリン・バーサーカーが一花を睨むと、今度は反対側から風の塊がぶつかった。
そうやって、ゴブリン・バーサーカーをかく乱しながら三人は戦う。
三人の集中している様子を眺めながら、英雄は静かに声援を送った。
そして、堪忍袋の緒が切れたのか、ゴブリン・バーサーカーが翔琉を狙おうとする場面があった。そのとき、ゴブリン・バーサーカーの後頭部に大きな氷の塊がぶつかる。ゴブリン・バーサーカーが一花を睨むと、すかさず絵麻が、雷をまとった魔法剣を背後から突き刺した。それはゴブリン・バーサーカーの腹部を貫き、致命的なダメージを与える。
その一連の連携を見て、英雄は確信し、にやりと笑う。
――それからほどなくして、ゴブリン・バーサーカーは膝をつき、光の泡となって消えた。
肩を組んで喜ぶ三人の姿を目に焼き付け、英雄はポケットの中で力強く拳を握った。
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