第7話 白衣の勇者、マネージャーになる
翌日。
英雄は、説明を受けながら諸々の書類にサインした後、社長室へ向かった。
ソファーに座り、神妙な面持ちの太郎と向かい合う。
「まずはこれを君に渡そう。辞令だ。今日から私たちはファミリーになる。一緒に頑張っていこう」
「はい。よろしくお願いします」
英雄は改めて太郎を観察する。やはり、彼からは強欲な権力者めいた嫌らしさを感じず、一定のリスペクトを感じた。彼となら、一緒に仕事ができる。
「それで、八源君にやってもらいたい仕事についてなんだが、あるディーバーグループのマネージャーをして欲しい」
「マネージャー? 俺が?」
「ああ。いろいろ言いたいことはあるだろうが、まずは私の考えを聞いて欲しい」
「はい」
「マネージャーをしてもらいたい理由は、君に担当してもらいたいグループが、今、我々が育てたいと思っているグループで、そのグループが有名になれば、間接的に君も有名になるのではないかと思ったからだ。『Elements』というグループを知っているかい?」
「サイトで名前は見た気がします」
太郎に資料を渡され、英雄は軽く目を通す。
「三ヶ月前に立ち上げたグループでね。アイドル系冒険者をコンセプトに、それぞれの得意な属性を活かしながら探索活動を行っている。登録者も3万人を超え、順調な滑り出しだ」
「へぇ」
属性は、火・水・風・土・雷・氷・光・闇の八つの要素からなり、魔法に強く影響する。
異世界でも、自分が得意な属性を伸ばすやり方は一般的だったから、そこに違和感はない。
「……アイドル要素は必要なんですか?」
「ああ。ディーバーも多様化していてね。生き残るためには、そういった戦略も必要になるのさ。そして、彼女たちには新規の視聴者層の開拓も期待している。現在、ダンジョン動画の視聴者層は男性がメインだが、彼女たちをきっかけに女性、とくに若い女の子たちの視聴者も増やしたいと思っている。だからメンバーは、全員高校生だ。あ、でも、安心してくれ。彼女たちは、免許を取得している立派な冒険者だ」
「高校生ですか。いいですね」
「むっ。君はもしかして、ロリコ――」
「妹が高校生の年代なので、その年代に訴求効果がありそうだから、いいなと思ったんです」
「そういうことか。安心したよ。わかっていると思うが、彼女たちは未成年だ。そこのところをちゃんと理解した上で行動してほしい」
「はい。もちろんです」
「で、えっと、話を戻すと、そのグループの子たちには、最終的に危険度Aのダンジョンでも撮影できるような冒険者になって欲しいと思っている。彼女たちもそういう冒険者になることを望んでいるようだし」
「アイドル系なのにですか?」
「アイドル系だからこそだよ。そのギャップが良いんじゃないか」
「へぇ、そういう考え方もあるんですね」
「ただ、危険度Aに挑めるような人材になるためには、それ相応の教育ができる人間が必要で、君にならそれを任せられると私は考えている。だから、お願いしたい」
「なるほど。あ、でも、教えられるほどの知識があるかはわからないですよ? まだ完全に思い出せていませんし」
「昨日の動画を見る限り、大丈夫でしょう」
「そうですか。まぁ、社長がそれで良いなら、良いですけど」
実際、忘れているフリをしているだけなので、教えようと思ったら、いくらでも教えることはできるから、とくに問題はない。
「そしてマネージャーの仕事をしていく中で、君には彼女たちの動画に出演してほしいと思っている」
「動画に出演ですか? でも、撮影許可証はないですよ」
「あれはダンジョン内における撮影許可だから、ダンジョン外での撮影はとくに問題ない。だから、彼女たちのダンジョン外での活動を撮影するときに一緒に出てほしい」
「そういうことなら、俺にもできますね。でも、良いんですか? よくわかっていないんですけど、男の俺はいない方が良いんじゃないですか? アイドルに男の影があったりすると、荒れたりするんですよね?」
数日前に、女性アイドルと男性アイドルのコラボ企画で発狂している男性ファンをSNSで見かけた。
「それなら問題ない。先ほども言ったように、若い女性をメインにしたいと思っているから。それに、ストーカーになったりして、彼女たちの私生活に影響が出てしまうかもしれないから、そういったファンは最初から対象にする気が無い。冒険者みたいな命を削る仕事をしている彼女たちに余計なストレスは掛けたくないんだ」
「なるほど。冒険者を優先する方針なんですね。素晴らしいと思います」
「そう言ってもらえると助かる。実際、そのグループには、すでに男の子も入ってもらっているし」
「なら、大丈夫そうですね」
「……とはいえ、ちゃんと狙い通りにコントロールができているかはまた別の話なんだが」
「へぇ。いろいろ大変なんですね。あ、でも、俺が表に出たら、リスクがあるんじゃないんですか? 私情を彼女たちの活動に持ち込むなとかのクレームとか来るかもしれませんよ?」
「その辺は、彼女たちとの関係性と君がマネージャーになったストーリーをしっかり説明できれば、そこまで問題にならないんじゃないかなって思う」
「なるほど」
「まぁ、とにかく、以上が私の考えなんだが、どうだろうか。君が彼女たちを有名にすれば、結果的に君も有名になることができる。だから、悪い話ではないと思うんだよね」
「そうですね。まぁ、話題性とかも俺が単独でやるより高そうだし、そもそも半年はディーバ―(ダンジョン動画投稿者)として活動できないので、少しでも早く妹に見つけてもらいやすいやり方となると、社長から提案のあったやり方が良さそうですね。なので、マネージャーとして働かせてください」
「Good! 君は話が早くて助かる。それじゃあ、早速、彼女たちに会おうか。ついてきてくれ。別室に待機してもらっている。あ、そうだ。妹さんのことはどう説明する?」
「……状況を見て、俺の方から話します」
「わかった」
そして案内してもらった会議室で、英雄は二人の少女と一人の少年に出会った。
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