第4話 白衣の勇者、事務所社長に出会う

 かつての同級生経由で合う日時を決め、約束の日に事務所へ向かう。


 Dプロダクション。それが紹介してもらった事務所だ。


 大手芸能事務所の関連会社であり、ダンジョン動画事業を取り扱っている。


 応接室で待っていると、室内なのにサングラスをかけた男が現れる。


「やあやあ、どうも。お待たせしました。社長の毛家太郎です。本日は、弊社へご足労いただきありがとうございます」


 太郎は坊主の怪しげな風貌であったが、どこかフランクな空気もまとっていて、話しやすそうな人物だった。


 英雄は目の前の男を『視診』する。勇者や医師の経験を通し、他人のステータスを五つの項目で評価できるようになった。あくまでも、英雄の推測値だが。


 ・レベル : 5

 ・体力  : 798/821

 ・魔力  : 10/10

 ・物理  : 104

 ・魔法  : 10


 レベルは下記四項目を総合的に評価した値で、体力と魔力の左が現在値、右は最大値を示す。物理は物理攻撃/防御に関連した値、魔法は魔法攻撃/防御に関連した値で、どれも高いほど優秀だ。


 男のステータスは一般的な成人男性と同じくらいの数値だから、冒険者ではないらしい。また、体力が最大値よりも少ないし、お疲れのようだ。男の視線に気づき、英雄は柔らかな笑みを返す。


「こちらこそ、わざわざお時間を作っていただき、ありがとうございます。八源英雄です」


「はい。八源さんのことは知っていますよ。まさか、時の人がうちの事務所に来るなんて夢にも思いませんでしたよ。この仕事も続けてみるもんですね」


「まぁ、人生、何があるかわかりませんからね」


「ははっ、実に重みのあるお言葉だ。それで、お知り合いの方から消息不明の家族を探すためにディーバーをやりたいとお聞きしたのですが、その認識で合っていますか?」


「はい。テレビやSNSだと国内にしか影響がないみたいなので、妹たちが海外にいることも考え、より大きな影響力のあるディーバーになりたいと考えています」


「なるほど。それで、うちを紹介されたわけですね。ちなみに、ダンジョンの経験はありますか?」


「ない、はずです。が、おぼろげにモンスターと戦っていた記憶はあります。だから、潜在的にはあるかもしれません」


 10年間の記憶が無いと公表しているため、ダンジョン経験については曖昧な言葉でゴリ押すことにした。


「ほぅ。それが本当なら面白いですね。なら、一回、うちの社員と行ってみますか?」


「え、いいんですか?」


「はい。実のところ、八源さんに所属の意思があるようであれば、ぜひ、うちに所属していただきたいとは思っています。話題性は十分なので」


「あ、マジですか。ありがとうございます」


「ただ、何をするにせよ、八源さんの実力がわからないことにはどうすることもできないので、まずはそこを確認させてほしい次第です」


「わかりました。そういうことなら、ぜひやらせてください」


「あと、うちに所属することになっても、すぐにディーバーにはなれませんが、よろしいですか?」


「『六か月ルール』ですよね?」


「ええ、ご存じでしたか」


「まぁ、ダンジョンについてはいろいろと調べたので」


 英雄が調べたところによると、ダンジョンで動画撮影を行うためには、『冒険者免許』と『撮影許可証』が必須となる。


 撮影許可証は冒険者免許があれば申請できるのだが、その冒険者免許を取得するためには、体力試験と筆記試験による仮免許試験に合格した後、冒険者一名以上との六ヵ月間のダンジョン探索経験が必要だった。


 正直、面倒なルールではあるが、無免許・無許可で配信なんてしていたらすぐにバレてしまうので、従わざるを得ない。妹も悪いニュースで兄の存在を知りたくないだろうし。


「そうでしたか。なら、とりあえず、仮免を取っていただいて」


「あ、仮免ならすでに持っています」


「え、持っているんですか?」


「はい。必要になると思ったので、昨日、取得してきました」


 勇者として活動していたから、体力試験には自信があった。


 筆記試験についても、異世界で学んだ知識をこの世界に合わせた言葉にするだけだったので、難なくクリアできた。


 英雄が机の上に仮免許を置くと、太郎は驚いた調子で確認する。


「本物だ。は、早いですね」


「これも潜在的な経験があるからだと思います」


「なるほど。なら、早速、探索しちゃいましょうか。少々、お時間をもらってもいいですか? いろいろ調整したいので」


「はい。お願いします」


 そして遅めの昼食後に再び事務所を訪れると、20代後半の気の強そうな女性社員を紹介された。

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