第3話 白衣の勇者、妹を探す

 警察に行ってから、本人確認などもあって、かなり時間が掛かった。


 行方不明になっていた10年間のことについて問われたが、覚えていないと答える。


 異世界について説明するのが面倒だったからだ。


 さらに、話を聞きつけたマスコミの人間もやってきて、英雄を取り巻く環境は慌ただしくなる。


 面倒なので、催眠を使って追い返すことも考えたが、妹探しに役立つと考え、利用することにした。


 また、マスコミに報道されたことで、政治家を含むいろいろな人が動いてくれた結果、戸籍が復活した。


「すまないね。英雄君が生きているとは思わなかったから」と叔父は申し訳なさそうに言う。


 叔父曰く、実家の土地を売る際に、英雄の死亡届も提出したらしい。


 さらに叔父の話によると、隣家の奥さんは蒸発と表現していたが、父親と母親の離婚は成立しており、母親と妹の住所を移した記録もあった。


 しかし、その後の足取りが不明だったので、戸籍復活に関わってくれた政治家なども頼ってみたが、発見することができず。


 記者会見を見た母親や妹からの連絡を期待したが――連絡は無かった。


 いろんな人の話から、SNSの影響が大きくなっていることを知り、SNSも活用してみるが、いたずらと思しきメッセージしか来ない。


 あるテレビ局から妹探しの番組作りを提案され、期限付きで承諾したのだが――。


「我々も全力を尽くして心愛ちゃんとお母さんを探したのですが、見つけられませんでした」


 MCのお笑い芸人が神妙な面持ちで語る。カーテンの向こう側にある空席を眺め、英雄はため息を吐いた。


「でも、我々が心愛ちゃんを探し始めてまだ2週間も経っていません。今後も、心愛ちゃんの行方を探りたいと思います」


「よろしくお願いします」


 期待はしていないが、義務的に答えた。


(どうしたもんかな……)


 ここが異世界なら、いくらでもやりようがあるのだが、残念ながら異世界ではない。


(彼らを頼ってみるか)


 英雄は叔父さんからもらったスマホを使い、ある男たちに連絡した。


 ――翌日のある居酒屋。


 英雄の前に、三人の男たちが正座していた。


 英雄が異世界へ転移するきっかけとなったかつての同級生たちだ。


 彼らは英雄が生きているとわかるや否や謝罪を申し込んできたのだが、英雄はその謝罪をどのように受け取るべきかで悩んでいた。


 彼らに対する怒りは多少あるが、感謝の気持ちも少なからずあったからだ。


 結果論になってしまうが、彼らのおかげでかなり特殊な経験を積むことができた。


 しかし、彼らのせいで家族が離散したのも事実。


 だから、彼らの謝罪を受け入れるかどうかは、彼らの働きで決めることにした。


 それで彼らの誠意を確かめる。あまり誠意を感じられなかったときは……。


「昨日のテレビは見た?」


「はい」と男の一人が答える。


「あれで見つかると思ったんだけど」


「まぁ、テレビの影響力もかなり落ちていますからね」


「そっか。この10年で世の中もいろいろ変わったんだな。どうすればいいと思う?」


「SNSはどうですか?」


「そっちも微妙」


「妹さんが海外にいる可能性はありませんか?」と別の男。


「それもあるよな」


 というか、その可能性が高いと思っている。妹は、幼稚園児でありながら、毎日ニュースをチェックするような子供であったから、自分のニュースを知らないはずはない。


 しかし、海外にいるんだとしたら、こちらのニュースも伝わっていない可能性はある。


「でも、その場合はどうしたらいいんだろう? 海外の人にも周知してもらえるような方法ってあるの? やっぱり、SNS?」


「まぁ、そうですね」


「ダンジョン動画とかどうですか?」と別の男。「今はダンジョン動画の投稿者をDVer(ディーバー)と呼んで、有名なディーバーになると、海外のファンも多いらしいですよ」


「ディーバーか……」


 英雄が数日過ごして驚いたのは、この世界にもダンジョンが出現し、内部の様子を撮影して投稿していることだった。


 とくにダンジョンが出現していることに驚き、ダンジョンは英雄が異世界へ転移したのとほぼ同時期に現れたらしい。


 ダンジョンの出現時期や、見知ったモンスターしかいないことから、ダンジョンとあの世界が繋がっている可能性についても考え始めている。


 妹のことが無かったら、すぐにでも調査したいところだが。


(待てよ。なら、妹を探しつつ、調査すればいいのでは?)


 それが一石二鳥な気がしてきた。


「あ、でも、撮影の仕方とかわからんぞ」


「それなら、取引先の事務所を紹介しますよ」


「事務所?」


「はい。今は、芸能人みたいに、ディーバーを管理している団体があるんですよ」


「なるほど。なら、その事務所を紹介して。というか、有名なディーバーに妹探しの協力を依頼すればいいんじゃないかなって思ったんだけど、どう?」


「んー。それは難しいかもですね。リスクになりかねないですし」


「リスク?」


「はい。まず、ユーザーはディーバーにダンジョン探索をする動画を求めているのであって、時事ニュースの取り扱いを求めているわけではないので、そのニーズの違いといった部分で炎上するかもしれません。

 ディーバー側としても、八源さんに一回協力してしまったら、その後も協力し続けなければいけなくなっちゃうので、それがリスクですね。途中でやめたら、八源さんが厄介なクレーマーになるかもしれないので。あと、八源さん以外の人からも依頼がたくさん来て、それを断ったら、何であいつだけって話になりますからね。だったら、最初から八源さんの依頼も受けない方が良いと判断するでしょう」


「なるほど。世知辛い世の中になったんだな。まぁ、でも、そういう理由ならしゃーない。事務所の紹介をお願いします」


「はい!」


 こうして英雄は、ある事務所の社長と会うことになった。

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