第3話
郵便物を封筒のままベッドに放り出し、そのままベッドに座った。プッシーは窓辺で憂鬱そうにあくびを噛み殺しながら、白い膜の浮いた窓ガラスから往来を眺めている。牙が鋭さを持って欠伸の隙間から漏れ見えた。その鋭さに一瞬安堵する。
深く息を吐く。何、大した事じゃない。いつもの発作だ。自分が一人でこの世界に存在していて、その事に何の意味も見出せないように感じる瞬間が、時たまある。それだけの事だ。自分が今こうして座り、暗渠を見つめるように項垂れた姿勢をとっているのにも、何の意味もない。
何の意味も為さない。
放り投げられた封筒を束の間見つめ、サイドテーブルにおいた銀製の折り畳みナイフを手にとる。
馴染んだ感触。女のなかよりも遥かに心地よい、自分がまるでこの中から生まれてきたんじゃないかと思えるような、そう感じさせてくれるような、確かな安堵感。
その感触を、暫くの間弄びながら感じ取り、それからパチリと開いて、封筒を切った。
消防局を名乗る者から、部屋の点検を告げる旨の通知書だった。ほとんど意味を為さないと言えば、こういった事務的な出来事もそうだ。封筒を放り投げ、紙をナイフで切り裂いていく。消防局何某の名前が消えていき、切り刻まれ、暗渠の内側で焼け消えた。
実際はベッドの周りを薄汚くひらひらと待っているだけだったが、片付けは後でする事に決め、夜まで眠る事にする。
携帯は持っていなかった。その代わり、固定電話がある。黒い、もう何年も放ったらかしにされていたのだろう古式ゆかしい黒電話。外装はそのままにしてあり、機能面は現代式にリノベートされている。
電話が鳴らないことを祈りながら、プッシーの背中を撫でて、俺はベッドに横になり、シーツの中にくるまった。知らない香水の匂いがする。そういえば、一週間前に、サラ以外の女とこの部屋で寝たのだった。女の歯とあそこは最悪だった。オセロが匂いを立てているみたいだった。
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