第5話

 次の日、三木は捜査本部で今取り寄せてある分の監視カメラの映像を眺めていた。


 それ以外の映像も、時期に届く。一度現地で観た映像であろうが片っ端から取り寄せる様に槙島に命令してあった。

 槙島は今頃ぶーぶー言ってそうだが、今はとりあえずそれしかない。


 三木は一二件目の現場付近の監視カメラの映像を観終えたところだった。



 通常の犯罪捜査の場合であれば、コンビニなどの比較的姿形が分かりやすい映像から怪しい人物をピックアップし、周辺のカメラで特定していくことになる。それは、犯人は大抵無意識に自分の姿を隠そうとする性質から、服装である程度見分けがつくのである。


 しかし、今回の犯人については、二十四件も捜査の網を掻い潜り、事件を起こして来た奴である。用心深く、狡猾で、件数からして粘着質で異常な精神構造を持っていると推察できた。



 故に、今までは監視カメラの映像から犯人の特定に至らなかった。怪しいと思えた人物は全て事件には関係の無いことが裏付けられてきたのだ。



 しかし、今はどうだろう。

 小柄で痩せ型、老舗メーカーの古びたスニーカー、住宅街に居てもおかしくない服装で、身のこなしも軽く、若い。ともなれば、自然犯人像を絞ることが出来る。



 三木は犯人を中高生と断定し、監視カメラの映像を見直していた。何度も巻き戻したり、早送りをしたりして、何度も何度も見返す。



 その間、三木は脳裡で思考する。


 "犯人はどうやって被害者を発狂させたのか"


それがどうしても分からない。薬物ではないとして、果たして他人を容易く発狂させられるものか。催眠術とはそれほど強力なものか?いや、強力な催眠には長い時間を要するはずだ。


 現場の映像から全てにいる"共通人物"を探し出し、被害者とのコンタクトが確認出来ても、そのカラクリが分からなければ、逮捕令状は取れないだろう。



 一体どうやった……?



 映像を観ながらそう思考する三木の頭には、透の悪魔の様な姿と、昨夜の東地の一言がリフレインしていた。



 "悪魔は実在するぞ"

 "この街に良からぬ者が潜んでいる"



 三木はひとりごちた。




「悪魔の仕業……ねぇ」



 三木はつぶやいた自分の一言に驚き、ため息を吐いて頭を振った。




「まさかな」

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祓師 チン・コロッテ@少しの間潜ります @chinkoro

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