第25話 恋する乙女は素敵に無敵♪

「問題――大神士狼の彼女である古羊洋子のファーストキスの相手は、誰!?」

「……はっ?」




 ……えっ?


 芽衣のヤツ、今、なんて言った?




「これは……」

「ちょっ、メイちゃん!?」




 軽快に走らせていた2人のペンがピタリッ! と止まる。


 メバチ先輩は珍しく難しそうに眉根を寄せ、マイ☆エンジェルに至っては顔を真っ赤にして、抗議するように芽衣に噛みついていた。




「な、何で知ってるの!? あのとき、居なかったよね!?」

「そ、そのリアクション……マジか!? マジなのか、よこたん!?」




 俺が慌ててマイ☆エンジェルに詰め寄ると、分かりやすく『ヤッベ!?』といった表情を作る爆乳わん娘。




「その相手、絶対に俺じゃないよね!? だってキスした記憶無いもん! 誰なの!? 誰とキスしたの、よこたん!?」

「そ、それはその……えへへ♪」




 爆乳わん娘は、誤魔化すような笑みを浮かべた。可愛い❤


 けど、騙されんぞ!


 今回ばかりは騙されんぞ!




「だ、誰なんだ!? 相手は一体誰なんだ!?」

「だ、だから、それは……うぅ~っ!? め、メイちゃ~ん!?」

「『メイちゃん』ではありません。ヒツジ仮面です」




 妹のすがるような視線を無視して、芽衣は嬉々として声を張り上げた。




「制限時間は30秒! 分かった方からフリップに答えをどうぞ!」

「これは難しい……」




 険しい表情で数多あまたの可能性を吟味し始めるメバチ先輩。


 そんな先輩の横で、俺とマイ☆エンジェルの言い合いは、痴話喧嘩へと発展しようとしていた。




「マジで経験済みなの!? 嘘でしょ、よこたん!? 嘘だと言ってくれぇぇぇ~っ!?」

「お、落ち着いて、ししょー? みんな見てるよ?」

「これが落ち着けるか!? ハッ、分かったぞ! 芽衣だな? 初めてのチッスは姉妹同士でやったんだろう!? ナニそれ、めっちゃ尊い! とうとみ幕府爆誕、おめでとうございます!」

「ボク、何も言ってないよ?」

「ちなみに洋子の初めての相手は、わたしではありません」

「じゃあ誰なんだぁぁぁぁ~~~っ!?」




 心が壊れるかと思った。




「もしや弟か? あのシスコンが俺のマイ☆エンジェルの唇を奪ったのか!? 許せねぇ、あのサンフランシスコンめぇぇぇ~っ!」

「あの様子からして、相手はオオカミくんじゃない……。会長も違う……。だとしたら、相手は……」




 何か思い当たる節でもあったのか、ピタリッ! と固まっていたメバチ先輩のペン先が、踊るようにフリップの上を駆けまわり始めた。


 ソレを見て、爆乳わん娘は焦ったような顔を浮かべる。




「うぅ~っ!? このままじゃ負けちゃう……でも。うぅぅぅ~っ!?」




 よこたんは葛藤するようにうなり声をあげながら、実の姉を恨みがましそうな目で睨んだ。


 芽衣はそんな妹の視線なんぞ、どこ吹く風と言わんばかりに、飄々ひょうひょうとしていた。




「残り10秒ぉ~。9、8、7――」

「あぅぅ~っ!? うぅぅ~っ!?」

「誰なんだぁぁぁぁっ!? 俺のラブリー☆マイエンジェルの唇を奪った泥棒猫は、一体誰なんだぁぁぁぁ~~っ!?」

「よし、出来た……」




 自信あり気な表情で答えを書き終える、メバチ先輩。


 そんな先輩の真横で、ようやく覚悟が完了したのか、殴り書くようにフリップにペンを走らせる爆乳わん娘。


 そして発狂するナイスガイ、俺。


 ありえない、俺のマイ☆エンジェルに限って他の男とキスするなんて……絶対にありえない!


 エロマンガ界における『キスはダメなの』とか言う、人妻の申し訳程度の貞操観念しか持ち合わせていない、そこら辺の腐れビッチ共とはワケが違うのだ!


 マジで一体誰なんだぁぁぁぁっ!?




「――3、2、1……タイムアァァァ~~っプ! 2人とも、ペンを置いてください!」




 ギリギリ答えを書き終えたマイ☆エンジェルが、何とも言えない表情でペンを置いた。


 瞬間、会場の空気が嫌というほど静かになる。


 みな口には出さないが、本能で理解したのだ。


 おそらく、この問題が勝負を決する1問になると。




「覚悟をいいですか、2人とも? ……それでは一斉に答えをオープンッ!」




 芽衣の号令を合図に、2人がフリップを提示する。


 メバチ先輩の答えは……『両親』だった。


 刹那、俺はそこに希望を見た気がした。


 な、なるほどっ!


 そう言えばドラマやアニメなんかで、愛情表現として、我が子にキスをする心優しきママンとパパンを見た事がある!


 弟よりも、断然コッチの方が可能性が高い!


 つまり我がマイ☆エンジェルのファーストキスの相手は、彼女のMOMマムに違いない!


 QED証明終了。


 俺が確固たる自信を持って、答え合わせだ! と言わんばかりに、爆乳わん娘のフリップに視線を滑らせた。


 そこには、





 ――『おおかみ しろう』





 と、女の子らしい丸っこい文字で、俺の名前が書かれていた。


 ……Whatなに




「なにソレ……?」




 俺の代わりと言わんばかりに、メバチ先輩が驚いたように瞳を見開く。


 そんなメバチ先輩の視線から逃げるように、爆乳わん娘は「うぅ~っ!?」と頬を真っ赤にしながら、フリップで顔を隠してしまう。


 が、ちょっと待って欲しい?


 えっ?


 俺、よこたんとキスした記憶が全く無いんだけど?


 俺の優秀な灰色の脳細胞がキンキンッ! 音を立てて記憶の底を漁るが……ダメだ!


 全然思い出せねぇ!?


 もしかして、答えを提示するのが恥ずかしくて、嘘を書いたのか!?


 そんな不埒ふらちな俺の思考をぶった切るように、芽衣の声と『パンパカパ~ン♪』という陽気なBGMが俺の肌を撫でた。




「古羊選手、大正解! 大神士狼の彼女である古羊洋子のファーストキスの相手は、誰!? 答えは『大神士狼』でした!」




 魚住選手、ここで脱落です! と、元気よく口をひらく、会長閣下。

 

 ……俺とメバチ先輩の頭の中が、真っ白になった。




「という事はぁ? 大神士狼の『人権』及び『恋人』兼『来週の模擬結婚式の花嫁』の権利を獲得するのは……古羊洋子選手に決定でぇぇ~す!」




 おめでとうございます! と、陽気ようきに笑う女神さま。


 そんな彼女に釣られるように、マイ☆エンジェルも恥ずかしそうに小さく微笑んだ。


 かくして、俺の人権を完全に無視した【第1回 大神士狼はオレの嫁♪ 天下一武道会!】は、爆乳わん娘の優勝で幕を閉じたのでった。

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