第24話 誰がラブリー☆マイエンジェルの唇を奪ったのか?

【恋の三角関数  著:大神士狼】


拝啓


 桜花爛漫おうからんまんこうとなりましたが、山下さんはいかがお過ごしでしょうか?


 僕は毎日、山下さんの後ろ姿を見るたびに、胸が締め付けれ、気がつくとアナタへの想いが指数関数的に増加していくばかりです。


 この想いが相対性理論のごとく急速に膨れ上がった結果、僕はフェルマーの最終定理を左前方45度から証明することに成功しただけに飽き足らず、二進法によりテロバッチョ楕円だえんがハート型となり、平行線は交わり、境界線を越え、あばたはえくぼになり、男女は必ず結ばれるのです。


 コレを分かりやすく数式で説明させていただくと、【X=山下さんへの想い(巨乳+笑顔)÷あの日の思い出~センチメンタル・ダイアリー~×ダイナマイトボディ=パンツからはみ出そうなポコ●ンの角度】となります。


 よってこれをドスケベ係数に照らし合わせ因数分解すると、猥褻関数が明らかになりYの値を導き出すことが出来るのです。



 そうこれはつまり――君が好きだ!



◇◇



「――以上、中学2年生だった士狼が、当時好きだった女の子に送ったラブレターでした!」

「殺せよ! もういっそ殺せよ!? いや、誰か俺を殺してくれぇぇぇぇっ!?」




 あぁああぁぁっ!? と頭を抱える俺を無視して、芽衣が嬉々として我が黒歴史をほじくり返していく。


 おかげで、いつの間にか集まった観客はもちろん、クイズに参加していたプレイヤー達まで、何とも哀れみに満ちた視線を俺に送ってくる。


 やめて!?


 そんな可哀そうな子を見るような目で、俺を見ないで!?




「いやぁ、何と言いますか、知的に表現しようとした結果、1周回って奇怪な怪文書が出来上がってしまいましたね? 言葉の節々から滲み出る、この残念さが、何とも哀愁を誘い……流石は大神士狼といった所ですかね!」

「許して……もう許して、芽衣ちゃん?」




 いやもう、ビックリだよね?


 ほんとにコレ、俺が書いたの?


 なんだ、この数式は?


 どんな育ち方をしたら、こんな気持ちワリィ数式を導き出す事が出来るんだ?


 頭どうなってるんだ、俺?


 特に最後、芽衣が『そうこれはつまり――君が好きだ!』と読み上げた時には、己の頭の悪さに絶望したよね?


 昔の俺って、こんなに頭が悪かったっけ? 




「さてっ、罰ゲームもそこそこに、本題へ戻っていきましょう!」




 そう言って芽衣は、視線を俺のラブレターから会場の方へと滑らせた。


 そこには、悔しそうな顔で唇を嚙みしめる大和田ちゃんが居た。




「第29問目で、大和田選手が脱落です! それでは大和田選手は【敗者ボックス】の方へ移動してください」

「くっ!? やっぱりアッチが答えだったか……」




 大和田ちゃんは芽衣に導かれるまま席を立つと、ステージの端っこにある簡素かんそな鉄パイプ椅子の方へと、歩いて行った。


 未練がましそうに、何度もチラチラッ! 俺の顔を見返す大和田ちゃんが向かう先には「ウェルカム!」と言わんばかりに、鷹野、蜂谷、オカマ姉さんが座っていた。


 早々にクイズに答えられなかった、負け犬たちである。


 いやほんと、鷹野とオカマ姉さんが勝ち残らなくて良かった……。


 心の底から安堵の吐息を溢していると、実況の芽衣が【見せ場】と言わんばかりに、会場を盛り上げ始めた。




「大和田選手が脱落した事により、コレで残っている挑戦者は、魚住選手と古羊選手の2人だけとなりました!」




 さぁ、永らく続いたこの勝負も、いよいよクライマックスです!


 果たして栄光は誰に輝くのかぁっ!?


 そう口にした瞬間、いつの間にか集まっていたギャラリーが、地鳴りのように沸き起こる。


 みんな、ノリがいいなぁ……。




「問題へ移る前に、2人に今の意気込みを聞いておきましょう。魚住選手、自信の程はいかがでしょうか?」

「負ける気がしません……。勝って笑顔でオオカミくんと幸せな結婚式を挙げます……」

「なるほど、気合十分と。古羊選手は、どうでしょうか?」

「絶対に負けません」




 それだけ伝えると、ムッツリと黙って集中し始めるマイ☆エンジェル。


 す、凄い集中力だ!


 まるで道端に落ちているエロ本を前にした男子中学生のような集中力で、次の問題へと耳を澄ませる爆乳わん娘。


 もうコレ以上、言葉は要らない。


 あとは存分に(知識で)殴り合おう! と、表情が語っていた。




「短いながらも気合のこもったコメント、ありがとうございます! さぁ、ここからは、1つのミスが命取りっ! どちらかが間違えるまで、休憩ナシの連続で出題していきますよ! では 緊張の第30問目……いきます!」




 かくして、芽衣の実況を皮切りに、メバチ先輩と爆乳わんによる、最後の一騎打ちが幕を開けた。




「問題ッ! 大神士狼の出身地はどこ!?」

『『地球』』

「正解! では、大神士狼の好きなブラジャーの色は!?」

『『スカイブルー』』

「正解! では、大神士狼が最近視聴して後悔したアニメ映画はナニ!?」

『『となりのスカ●ロ』』

「大正解っ! それでは――」




 ハイスピードで暴かれていく俺の個人情報。


 なんなら俺より俺の事が詳しいまである。


 ……ちょっと怖いな、この人たち。




『『――平成見抜き合戦ち●ぽこ』』

「これまた10問連続大正か~~~いっ! 2人とも1歩も譲らない! まさに最終決戦に相応しい、実にエキサイティングな勝負ですね! 解説の士狼さんは、どう思いますか?」

「そうですね。正直、穴があったら腰を振りたい気分です」

「【穴があったら入りたい】と言うことですね、分かります」




 さも当たり前のように、俺の気持ちを代弁してくれる芽衣にも、若干怖いモノがある。


 なんでコイツは俺の考えている事が読めるのだろうか?




「それは士狼の顔が分かりやすいからですね」

「おまえ……人の心を読むなよ? 恥ずかしいだろうが?」

「士狼の感性にまだ【恥ずかしい】という感情が残っていた事に驚きつつ、次の問題です! ……あぁ~、この問題は難しいですねぇ。果たして2人に解けるのでしょうか?」




 それでは第40問目ッ! と、芽衣は原稿に目を落とし、





「問題――大神士狼の彼女である古羊洋子のファーストキスの相手は、誰!?」





 と言った。


 ――頭が真っ白になった。

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