第23話 いつから『オオカミ☆シロウ争奪杯』だと錯覚していた?

「問題っ! 大神士狼の自室の机の2番目の引き出しの二重底になっている場所に隠されている、歴史の教科書でカモフラージュされた、お気に入りのエッチな本の名前はナニ!?」

「…………はっ?」




 コイツはナニを言っているんだ?


 俺は芽衣の言っている意味が分からず、頭の上に『?』を浮かべていた。


 いや、言葉の意味は分かる。


 問題は、何故コイツが俺のトップシークレットである『あの本』の隠し場所を知っているかだ。


 教えてないよね、俺?




「制限時間は30秒! 分かった方から、フリップにお答えをどうぞ!」

「「「「「「――ッ!」」」」」」




 困惑する俺を無視して、よこたん達が一斉にフリップにペンを走らせた。


 みな確信を持っているのか、フリップを駆けるペン先に迷いが無かった。




「タイムアァァァ~~~~プッ! それではみなさん、一斉に答えをどうぞっ!」


『爆乳機関車【り鉄】部!~あの線路の向こう側へプルス・ウルトラ~』

『爆乳機関車【り鉄】部!~あの線路の向こう側へプルス・ウルトラ~』

『爆乳機関車【り鉄】部!~あの線路の向こう側へプルス・ウルトラ~』

『爆乳機関車【り鉄】部!~あの線路の向こう側へプルス・ウルトラ~』

『爆乳機関車【り鉄】部!~あの線路の向こう側へプルス・ウルトラ~』

『爆乳機関車【り鉄】部!~あの線路の向こう側へプルス・ウルトラ~』



「おぉ~っ! これは全員同じ答えですね? みな一様に自信がある表情だ。解説の士狼さん、コレはどうでしょうか?」

「……シテ……コロシテ……おねがい」




 誰か、俺を殺してくれ……。


 心がバッキバキに折れた俺の目尻から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


 それと同時に、芽衣が「答えは『爆乳機関車【り鉄】部!~あの線路の向こう側へプルス・ウルトラ~』でした!」と、高らかに俺の性癖を暴露していく。


 ねぇ神様?


 俺、そんなに前世で悪い事した?




「みなさん全員大正解です! オタクに優しいギャルが大好きな、実に大神士狼らしいタイトルでしたね! どうでしょう、鷹野選手? 第1問を終えた感想は?」

「そうやなぁ。やっぱり初手という事もあって、簡単な常識問題やったさかい、間違える方が難しいやろ、コレ」




 ドヤァッ! と、実に勝ち誇った表情でコメントを返す鷹野。


 そんな鷹野に「うんうん」と頷き返す参加プレイヤーたち。


 えっ?


 コレ、簡単な常識問題なの?


 俺の超機密事項の内容だったのに!?


 これから先、一体どんなエゲツナイ問題が控えているというのだ?




「頼もしいコメントありがとうございます。まぁ鷹野選手の言う通り、第1問はウォームアップみたいなモノで本番はここからです。それではいきます、第2問っ!」




 デデンッ! と例のBGMが大気を揺らす中、俺は1人震えながら自分に言い聞かせていた。


 お、落ち着け俺?


 大丈夫、大丈夫だよ!


 流石にもう、これ以上ヤベェもんは出てこない――




「問題っ! 大神士狼が小学生時代、はじめて購入したAVのタイトルはナニ!?」

「――密告チクったの誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




 俺の絶叫がプールの水面みなもを激しく震わせた。


 いや、分かっている。


 裏切り者はあの変態メガネ猿野元気に違いない事くらい。


 あの野郎っ!?


「絶対に誰にも言うなよ!?」って約束したのに! 


 口止め料として、俺の金で駄菓子を喰い漁ってたクセに! 


 あのファッキンメガネめ!?




「分かった方からフリップにお答えをどうぞ!」

「これは……流石に難しいデスネ」




 蜂谷同級生が難しい顔で「う~ん?」と唸る。


 その傍らでマイ☆エンジェル達がスラスラ♪ とフリップにペンを走らせていく。


 やがて自信なさげに蜂谷も筆を走らせ始め、




「タイムアァァァァァァァ~~~プッ! それでは皆さん、一斉に答えをどうぞ!」




 芽衣の掛け声と同時に、全員の回答がドンッ! と姿を現した。


 そこには――




『幼児退行プレイ~よちよちフィニッシュ120分』

『幼児退行プレイ~よちよちフィニッシュ120分』

『幼児退行プレイ~よちよちフィニッシュ120分』

『ウシ娘~そんなに搾っちゃ、ンモ~❤』

『幼児退行プレイ~よちよちフィニッシュ120分』

『幼児退行プレイ~よちよちフィニッシュ120分』


「おっとぉ? 蜂谷さん以外、全員同じ回答だぁぁぁ~っ!?」




 蜂谷があからさまに『ヤバイッ!?』といった表情を浮かべた。


 どうでもいいけど、このクイズ大会が終わったら、絶対にあの変態メガネのメガネをカチ割ってやろうと思いました、まる!




「それでは解説の士狼さん、元気よく答えをどうぞ!」

「……幼児退行プレイ~よちよちフィニッシュ120分」

「せいかぁ~~い! というワケで、答えは『幼児退行プレイ~よちよちフィニッシュ120分』でした! 残念ですが、蜂谷選手はここでリタイアです!」

「クッ!? 引っ掛けでしたカ……っ!?」

「どこが? 何に引っかかったの、蜂谷?」

「ちなみに蜂谷選手の『ウシ娘~そんなに搾っちゃ、ンモ~❤』は士狼が小学校卒業記念として友人たちとお金を出し合って買った、思い出の1品ですね」

「ねぇ芽衣ちゃん、ほんと何で知ってるの? 情報の出どころは何処どこなの?」

「芽衣ちゃんではありません、ヒツジ仮面です」




 赤裸々に俺のプライバシーを侵害していく、会長閣下。


 閣下は悔しそうに口の端を歪める蜂谷に向かって、




「それでは罰ゲームです。蜂谷さんには今から、小学4年生だったときの士狼が、当時好きだった女の子に向けて送ったポエム☆ラブレターを朗読して貰います!」




 と言った。


 ……えっ?




「えっ? 芽衣、ちゃん……? 何を言っているんだい? ポエム? ラブレター?」




 困惑する俺を無視して、どこに控えていたのか、頭に紙袋を装着した【古羊クラブ】の1人が、1枚の便箋びんせんを蜂谷に手渡した。


 そそくさと舞台袖へ引っ込む信者を横目に、蜂谷は便箋を開けると、中から1枚の手紙を取り出し、謳うようにその愛らしい唇を震わせた。




◇◇



【キミは魅惑みわくのマシマロ☆ガール】 著:おおかみ しろう。

 

 マシマロガール、マシマロガール♪


 どうして君はマシマロなの?


 マシマロガール、マシマロガール♪


 どうして君は可愛いの?


 プリティ、プリティ、こりゃプリティ!


 マシマロガール、マシマロガール♪


 君を見てるといつもハートがドキドキげ焦げロッケンロール!


 揺れる想いは君のマシマロパイパイのようにフワフワさ!


 マシマロガール、マシマロガール♪


 僕の大好きマシマロガール♪



◇◇




「「「「「…………」」」」」

「シテ……もう、コロシテ……」




 天をあおいだ俺の両の目尻から、熱い雫が床へと落ちる。


 何とも言えない周りの痛々しいモノを見る視線が、俺のSAN値をガンガン削っていく。


 芽衣はそんな俺を満足そうに眺めながら、




「いやぁ、凄いですね? 執拗しつように繰り返される『マシマロガール』は読む者の気力、体力、根気、SAN値を情け容赦なく奪い去るどころか、終盤の『君のマシマロパイパイ』に至っては、士狼の助平すけべいさが遺憾いかんなく発揮されていると言っても、過言ではありませんね!」

「やめて、芽衣ちゃん!? 解説しないで!? お願い!?」

「何よりこのラブレターの凄いところは、この圧倒的なまでの破壊力! このラブレターを前にすれば、どんなに懐の深い女性も裸足で逃げ出す事でしょう。わたしなら絶対にそうします!」




 例え2人の間にどれだけ美しい思い出があろうが、全力で関係を断ちにいく自信があります!


 と、芽衣は嬉々としてコメントを続けた。




「本当、一体どうやって我が妹を口説き落としたのでしょうか、この男は? 謎は深まるばかりです!」

「ねぇ芽衣ちゃん!? コレさ、蜂谷というか俺への罰ゲームになってない!? ナニコレ?『大神士狼をつるし上げよう!』とか、そういうもよおしだったっけ!?」

「おや? 今頃気づいたんですか、士狼?」




 気づくのが遅いですよ? と言わんばかりに芽衣がキョトンとした顔を浮かべる。


 えっ? えっ?


 な、なになに?


 どういう事だってばよ?





「他の皆さんはどう思っているかは知りませんが、この『第1回 大神士狼はオレの嫁♪ 天下一武道会!』は仮の姿……。本当は幼気いたいけな女心をもてあそぶ、女たらしクソ野郎『大神士狼を吊し上げよう!』という会ですよ♪」

「……うそ?」

「マジです♪」




 芽衣は誰もが見惚れるような、愛らしい笑顔で、




「覚悟していてくださいね? いくら士狼が泣き叫ぼうが、今日は絶対に許しませんから❤」




 そう言って笑う芽衣の笑顔は、女神のように優しくて……悪魔のように恐ろしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る