第21話 バイバイ、人権♪ ~オオカミ☆シロウ争奪杯、再び!~

 それぞれの思惑が重なり、かくして俺の人権を無視した『シロウ・オオカミ争奪杯!』が幕を開けて40分。


 俺達は水着に着替えて、例の温水プール【ハワイやんパーク】へとやって来ていた。




「出来ればマイ☆エンジェルと2人っきりで来たかったなぁ……」




 それにしても俺、本当にあの古羊洋子たんと付き合ってるんだよな?


 まったく、我ながら一生分の運を使い果たしたとしか思えない。


 と、しみじみ自分の幸運に酔いしれていると背後から「だ~れだ?」と俺の剥き出しの乳首を何者かが両手で隠してきた。


 ……あぁ、分かっている。


 こんなアンタッチャブルな事をする奴は1人しか居ない。




「おい鷹野? そこは普通、目を隠すもんじゃねぇの?」

「おっと、陸亀りくがめかと思ったら大胸筋やったわ❤ やっぱり喧嘩狼の大胸筋は最高や! このパイパイでかめ♪」

「バカ止めろ!? 乳首をドリルするんじゃねぇ!? はっ倒すぞ!?」




 器用に指先で俺のB地区をコリコリ指で弾く、ハードゲイ。


 繊細かつ大胆な指使いだ!




「もう、ダメよ2人とも? そんなに騒いじゃ? 他のお客さんの迷惑になるでしょ?」

「あっ、オカマ姉さん!」

「オカマじゃねぇ、オネェだ!」




 俺が無理やりハードゲイを引きはがしていると、今度はオカマ姉さんがやって来た。

 



 ……マイクロビキニ姿で。




 この世の終わりかと思った。




「姉さん……ソレは?」

「あっ、この水着? いいでしょ~? ココの売店に売ってあったから、買っちゃった☆」




 そう言って、セクシーポーズを取るオカマ姉さん。


 何て言うか、もう……凄いぞ?


 面積の少ないマイクロビキニのせいで、色んな所がハミ出しているのね?


 とくに下半身は、もはやモッコリし過ぎて3Dだよ?


 視覚の暴力とは、まさかこの事!


 こんなの見る劇物だよ!


 おかげで変態に耐性のない純粋にプールで遊んでいた周りの野郎共が、一斉に目を押さえて悲鳴をあげている始末だ。




「目が、目がぁぁぁぁぁっ!?」

「嫌ぁぁぁぁっ!? 目をつむったら、あのモッコリが網膜に焼き付いて離れねぇよぉぉぉぉっ!?」

「取って!? 誰か俺の眼球を取って!? 丸洗いして!?」




 楽しいハズのプールが阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図へと切り替わる。


 なんだコレは?


 もしかしてココが地獄の1丁目か?




五月蠅うるさいわねぇ? ここの使用客はモラルが低いんじゃないの?」

「う~ん? モラルが低いと言うより、SAN値が低いかな?」




 発狂する野郎共をわずらわしそうに見つめる、バイオ兵器姉さん。


 正直俺も、今すぐ眼球を取り外して丸洗いしたい気分だ。


 誰だ!?


 一体誰なんだ!?


 あの特級呪物マイクロ・ビキニをオカマ姉さんに渡した、愚か者は!?




「なんや猫脚!? その最高にイカす水着は!? ワシも欲しい! 売店に行けばあるんか!?」

「あら、鷹野? 相変わらず良い目をしているわね? でも残念。コレが最後の1着でしたぁ~❤」

「くぅ~っ!? そのイカす水着で喧嘩狼を悩殺のうさつする気やな!? 負けへん、負けへんぞぉ~っ!」




 バチバチッ! と火花を散らす変態共を前に、俺のSAN値がガンガン減っていく。


 よこたん、助けて……?


 俺が祈るような気持ちでマイ☆エンジェルの降臨を天にお願いしていると、全身真っ黒のダイバースーツを着込んだ、色気もクソもない蜂谷が俺達の前に現れた。


 神様、違います。


 俺はマイ☆エンジェルをお願いしたのであって、変態要員の補給をお願いしたワケじゃないんです……。




「まったく、3人トモ? なんて防御力の低い格好をしているんデスカ? そんな装備で大丈夫デスカ?」

「アンさんに言われとぉないわ! なんや悪童、そのスーツは?」

「ダイバースーツね。あらソレ、アタシがあげた奴じゃない。使ってくれてたのね?」

「猫脚、感謝シマース! アナタがくれたこの水着、最高デース!」




 そう言って、全身真っ黒のダイバースーツに身を包んだ蜂谷が、ふふん♪ と自慢げに鼻を鳴らした。




「温かいシ、動きやすいシ、耐久力が素晴らしいデース! そして何より、そんな軟弱な布1枚より断然コッチの方が格好いいデス! ね、オオカミくん?」




 パチンッ! と、愛らしくウィンクを飛ばしてくる、ダイバースーツ蜂谷。


 見た目が可愛いだけに、実に残念だ……。


 心の中で、こっそりガッカリしていると「し、シロパイ……?」と聞き慣れた愛らしい声が、鼓膜を叩いた。


 俺はハッ!? としつつ、弾かれたように声のした方向へ視線を向けると、そこには――




「その……水着、着てみたんだけど……ど、どうよ?」




 そこには妙に緊張した面持ちで、頬を赤らめチラチラ俺の様子を窺う、水着姿の大和田ちゃんの姿があった。


 正直メチャクチャ可愛かった。


 ピンクのフリル付きの水着は見る者すべてを釘付けにする、魔性の魅力があった。


 が、そんな可愛らしい水着よりも何よりも、大和田ちゃんの表情がイイッ!


 不安を押し殺すように、強気な態度でありながらも言動の節々にソレが滲み出ていて……おいおい?


 可愛いの最終兵器かよ?


 俺にマイ☆エンジェルが居なければ、この場で求婚している所だ。




「な、何か言えしっ!」

「可愛い、最高だ」

「~~~~っ!? う、うるさいバーカッ!?」




 特に理由はない罵倒が、俺を襲う!




「ば、バカな!? の、ノブリン? ノブリンはワシの味方やなかったんか!?」

「んまっ! なんてあざといっ! これだからオチ●チンの生えていないめすは嫌いなのよ!」

「あの子、あんな防御力の薄い装備で大丈夫デスカ?」




 ボっ! と顔を真っ赤に染めるプチデビル後輩を驚愕に満ちた瞳で見つめるハードゲイ達。


 大和田ちゃんはそんな色めき立つ変態共を一瞥し、ふふんっ♪ と勝ち誇った笑みを浮かべてみせた。


 瞬間、コテン? と首を傾げる蜂谷を無視して鷹野とオカマ姉さんが「うぎぎぎぎっ!?」と悔しそうな声をあげた。


 よく分からんが、決着が着いたらしい。




「……彼女の目の前で他の女の子を口説くのは、どうかと思います」

「うぉっ!? よこたん、居たのか!?」




 いつの間に俺の傍へやって来ていたのか、ぷくぅっ! と頬を膨らませたマイ☆エンジェルが何か言いたそうな顔で俺を見上げていた。


 マイ☆エンジェルは、恥ずかしがり屋な彼女にしては珍しい水色を基調とした白の水玉模様のビキニで……おいおい?


 なにアレ? 可愛いの最終兵器かよ?


 俺のカノジョ、可愛すぎない? 


 何なら世界で1番カワイイとすら思える。


 が残念なことに、何故かその瞳は妙に湿っていて……おやおやぁ?




「ど、どうした、よこたん? そんなあからさまに不機嫌そうな顔をして?」

「ししょー。問題です。ししょーはボクの何でしょうか?」

「はい?」

「答えてください。ししょーはボクの何ですか?」




 逃げる事も誤魔化す事も許さん! とばかりに、まっすぐ俺を射抜くマイ☆エンジェル。


 俺がマイ☆エンジェルにとって、どんな存在かだって?


 そんなの考えるまでもない。


 俺は心の中でスーパーひ●しくん人形をベッドしながら、迷うことなく答えを言った。




「それはもちろん、大事な恋人ですが?」

「そう、その通り。ししょーはボクの彼氏で、ボクはししょーの彼女です」




 よこたんは、低い声でおどすように、




「彼女であるボクが居るにも関わらず、あんな風にオオワダさんを口説くのは、どうかと思います」

「別に口説いてなんか――ごめんなさい。もうしません」




 間髪入れずに頭を下げる。


 う~む。


 ウチの彼女はヤキモチ焼きだぁ!


 そのヤキモチが嬉しくもあり、怖くもある。


 女の子を褒めてコレなら、手なんか繋いだら殺されちゃうんじゃないかな、俺?




「束縛の強い女は嫌われるよ、副会長ちゃん……?」

「むっ?」




 爆乳わん娘が眉根をしかめて、背後へと振り返った。


 この軽やかで耳に残る声は、間違いない!


 俺は導かれるように爆乳わん娘の視線を追いかけると、そこには黒のコルセット・ビスチェを着込んだメバチ先輩が優雅に微笑んでいた。




「そんなんじゃ、オオカミくんに嫌われちゃうよ……?」

「余計なお世話です。ふんっ!」

「あらあら……? 随分と嫌われちゃったな……。先輩、悲しい……」




 微塵もそんな事を考えていなさそうな態度でクスクス♪ 笑う、メバチ先輩。


 瞬間。



 ――バチィッ!? ブゥン!



 2人の間の空間がいびつな形でねじ曲がった。


『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴッ!』と某奇妙な冒険でしか見た事がない擬音が、マイ☆エンジェルとメバチ先輩の背後に浮かび上がる。


 やめて、仲良くして!?


 お願い!




「……何か、ウチらだけ蚊帳の外じゃない?」

「ふんっ! 構わんぜよ。どうせ勝負が始まれば、誰が主役か分かる事や」

「そうね、小競り合い位させてあげましょう。どうせ勝つのは、あたしなんだし」


「「…………(メンチの切り合い)」」


「ちょっ!? 今度はコッチでバチバチするの!? し、シロパ~~イ!? へるぷ、へるぷ!」

「どうでもいいですケド、早く勝負を始めましょうヨ~?」




 アッチコッチで火花を散らし始める、乙女(+野郎&オカマ)たち。


 愛しのプチデビル後輩が『何とかして!』と俺にSОSサインを発信するが……残念ながら、ただいま先輩、よこたんとメバチ先輩に腕を捕まれ、修羅場なう☆。


 むしろ、俺が助けて欲しい位なんですけど?


 誰か助けて!?




「はいはい、全員落ち着いてくださいね? まだ勝負は始まっていませんよ?」




 日頃の行いが良かったからだろうか?


 まるでピンチに表れるヒーローのように、真っ赤なバタフライ・マスクで目元を覆った、女性用フォーマルスーツを着込んだ1人の女の子が、俺達の間に割って入った。


 す、スーツの上からでも分かる、自然なオッパイの盛り上がり……間違いない!




「め、芽衣!? どうしてここに!?」

「メイちゃん!? ナニしているの!?」




 ギョッ!? と驚く俺の視線の先には、何故か朝から姿が見えなかった『双子姫』の姉君、メイ・コヒツジの姿があった。


 何やってんの、コイツぅ!?




「『メイちゃん』じゃありません。わたしは清く正しい正義の審判『ヒツジ仮面』です」

「この人は、今日の勝負のためにワタシが雇った審判だよ……」

「いや、どう見ても古羊さん家の芽衣ちゃんですよね?」

「メイちゃんが昨日の晩に言ってた『大切な用事』って、コレの事だったんだね……」

「何やってんの、会長……?」

「会長ではありませんよ、大和田さん。ヒツジ仮面です」




 ドン引きしている大和田ちゃんに、優しく訂正を入れつつ、何故かノリノリの芽衣がペコリとその場で全員に会釈えしゃくをした。




「それでは改めまして。みなさん、おはようございます。本日の『司会進行』兼『審判』を務めさせていただきます、美少女紳士しんし『ヒツジ仮面』です」

「自分で美少女って言っちゃうんだ……」




 大和田ちゃんのツッコみを無視して、芽衣は続ける。




「皆さんには、これから大神士狼にまつわるクイズにお答えして貰います」

「「「「「クイズ?」」」」」

「はい。大神士狼を愛しているならば、簡単に答えられるハズのクイズです」




 問題は映像から謎解きまで多岐に渡りますが、大神士狼という人間を知っていれば、恐らく難なく答える事が出来るでしょう。


 ただしっ! 1問でも違えた場合は、大神士狼への理解度が足りないという事で、罰ゲームを受けて貰います!


 と、楽しそうに説明を続ける芽衣。




「罰ゲーム……って、一体なんや?」

「さぁ? あたしに聞かれても、ねぇ? 悪童は何か聞いてる?」

「はいはーいっ! 罰ゲームって、一体どんなゲームですカ?」

「それは間違えてからのお楽しみです。ちなみに違えた時点で即失格になりますので、解答する際は気を付けてくださいね?」




 蜂谷達の疑問を微笑でスルーしながら、ヒツジ仮面は俺の背中をポンッ! と叩いた。




「そして無事、最期まで勝ち残ったプレイヤーは……おめでとうございます! 大神士狼の『人権』及び『恋人』兼『来週の模擬結婚式の花嫁』の権利を獲得する事ができます!」

「サラリと俺の『人権』が優勝賞品になっている件について……」




 ガラガラ!? と法治国家の終わりの音が聞こえた気がしたよね!


 背筋が寒くなる俺とは対照的に、ハードゲイ達の瞳がギラッ! と一際ひときわ強く輝き出した。




「つまり、この勝負に勝てば、文字通り喧嘩狼の『すべて』を手に入れる事が出来るワケやな?」

「上等じゃない。あたしのダーリン28号は、誰にも渡さないわよ!」

「別に『恋人』とか『花嫁』の権利とか要らないので『人権』だけくれませんカ?」

「べ、別にウチはシロパイの恋人とか興味ないけど、お、女の子のたしなみとして『花嫁』さんには興味あるから、参加しようかな? いやほんと、シロパイの恋人とか興味ないけど、ウェディングドレスには興味あるし、しょうがなくね!」




 にたぁっ♪ と女体を前にした男子高校生のように、下卑た笑みを浮かべるハードゲイ達。


 身の危険を感じて仕方がないです……。




「副会長ちゃん……。約束、覚えてるよね……?」

「ウオズミ先輩……もちろんです」




 メバチ先輩が口角をクイッ! と引き上げ、挑発じみた笑みを口元に作った。


 よこたんは、そんなメバチ先輩と真っ向から張り合うように『絶対に退かない!』という強い意志を持って、小さく頷いた。




「負けた方が、勝った方に全てを渡す」

「『お金』『プライド』『友情』『地位』……そして――」

「「――男」」




 2人は同時にニヤっ♪ と微笑んだ。


 もはやこれ以上の言葉は、2人には要らないらしい。




「さぁ、決着をつけようか、副会長ちゃん……?」

「誰であろうと、ししょーは絶対に渡さないっ!」




 そう言ってメバチ先輩を睨みつけるマイ☆エンジェルは、彼氏の俺よりも何だか男前だった。

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