第20話 俺の彼女と先輩が修羅場すぎる

 もしかしたら俺は、選択肢を間違えてしまったのかもしれない。


 こんにちは、大神士狼です。


 さて、なぜ俺がいきなりこんな事を言い始めたのかを語る前に、俺がどんな好青年で、どんな愛らしい高校男児だったかを、皆さんにデイヴィッド・コパーフィールド式に面白く説明したい所なのだが、時間が無いので割愛。


 簡単に説明すれば、本日は俺のファーストキスを奪ったメバチ先輩とマイ☆エンジェルが、女の意地とプライドを賭けて勝負する、決戦の日曜日。


 ちなみに、優勝賞品は俺。


 何をトチ狂ったのか、勝負で買った方が俺の『カノジョ』兼『模擬結婚式の花嫁』の権利を手に入れる事が出来るらしい。


 別にここまでは問題ない。


 いや、問題しかないけど、まぁいい。


 よこたんも、何故かメバチ先輩との勝負にノリノリだったし、俺もマイ☆エンジェルに嫉妬して貰えて嬉しかったから、役得とも言えなくはない。


 問題。


 そう、問題はこの情報がどこからか漏れてしまった事にある。


 その結果――




「喧嘩狼は誰にも渡さん! ワシこそが喧嘩狼の伴侶はんりょに相応しい男ぜよ!」

「んん~っ♪ この勝負に勝ったら、ダーリンをお婿さんに出来るって本当? よ~しっ! お姉さん、頑張っちゃうぞぉ~❤」

「この勝負に勝てば、オオカミくんを好きに出来るんデスヨネ? ワタシ、久しぶりに本気出しちゃいマスヨ~ッ!」

「べ、別にシロパイの『カノジョ』の権利とか、結婚式の『花嫁』役とか興味ないけど、翼さんが無茶しないか心配だから参加するだけで、他意はないしっ! ホントだし!」




 その結果――8時でもないのに、変態共が大集合していた。




「……ナニコレ?」

「さ、さぁ?」




 よこたんと2人して、呼んでもいないのに大集合してしまった妖怪共を、何とも言えない表情で見つめた。


 時刻は午前10時少し前。


 メバチ先輩との約束通り、駅前の銅像前へとやって来た俺達を出迎えてくれたのは、やたらヤル気と殺気がみなぎっているハードゲイ達であった。


 右から順に【ハードゲイ】鷹野翼。


『元』東京卍帝国の大幹部【オカマ姉さん】こと獅子本ししもとレオン。


 同じく『元』東京卍帝国の大幹部【ハニービー総長】蜂谷はちや蝶々ちょうちょう


 そして我らが生徒会書記【プチデビル後輩】大和田信菜たん。


 以上の面々が、瞳に欲望の炎をともらせ、俺達が来るのを今か今かと待ちわびていた。


 ……いつからスタンバイしていたんだろう、この人たち?




「何で呼んでもねぇ奴らが、いの1番に集まってんだよ?」

「あ、あはは……」

「あっ、シロパイと古羊パイセン発見!」

「ホントや! でかした、ノブリン!」

「お~い、ダ~リ~ン! コッチよ~ん♪」

「オオカミく~んっ! 遅いデスヨ~っ?」




 俺達に気づいたらしいモンスター達が、一斉に色めき立つ。


 ヤダなぁ……。


 行きたくないなぁ……。


 俺が色んな意味でファンタスティックな4人に近寄るのを躊躇ためらっていると、何を勘違いしたのか、モンスターズはさらに騒ぎ始めた。




「あれ? シロパイ達、聞こえてないのかな?」

「おーい! 喧嘩狼ぃ~? ここやでぇ~? ここ、ここ~っ!」

「バカね、鷹野。ソレじゃ分からないわよ。だ~り~んっ! アナタの専用人型コキ捨て便器はココよぉ~っ!」

「【あだ名】じゃダメですヨ、猫脚。ちゃんとオオカミくんの名前を呼ばないト。お~い、●●●●●ッ! ……●●●●●? ●●●●●~っ!?」




 天下の往来で、高らかに放送禁止用語を叫び続ける蜂谷。


 おかげで周りを歩いていた歩行者たちが『この女、正気か!?』と、驚愕に満ちた瞳で蜂谷達を見つめていた。


 家族連れの母親に至っては「ねぇママ? ●●●●●ってなぁに?」「シッ! 聞いちゃいけません!」と、我が子の耳を塞いで、逃げるようにその場を後にする始末だ。


 嫌だなぁ……仲間だと思われたくないなぁ。


 しかし神様は残酷である。


 中々近寄って来ない俺たちに痺れを切らしたのか、蜂谷達の方が俺達の方へ近寄ってきた。




「もうっ! なんで無視するんデスカ!? 酷いデスヨ!」

「酷いのはハチヤさんの言動だと思う……」

「というか、何でおまえら、ココに居るんだよ?」




 ドン引きする俺とマイ☆エンジェル。


 そんな一心同体のラブラブ❤カップルである俺達に向かって、鷹野が『何を今さら?』と言った様子で、肩をすくめてみせた。




「『何で』って、今日はそこのホルスタイン娘と陰キャ女が、喧嘩狼を賭けて勝負する日やろ?」

「ほ、ホルスタイン娘……」


 ハードゲイに『ホルスタイン娘』呼ばわりされたのが地味にショックだったのか、自分の胸元を押さえて肩を落とすマイ☆エンジェル。


 瞬間、彼女のお乳様がぷるん♪ と寂し気に震えた。


 う~ん、芽衣が見たら発狂しそうな光景だ!


 ぜひともウチの彼女には、今度のお家デートで牛柄のビキニを着て貰いたい所だ。




「確かに今日は、よこたんとメバチ先輩が勝負する日だけど……それが?」

「ワシらもその勝負、参加させて貰うで!」

「勝ったらダーリンのダーリンを好きにいじっていいのよね? あたし、頑張るわ!」

「絶対勝って、喧嘩狼を【ハニービー】に入団させてみせマスネ!」




 俺の人権を無視して、勝手に盛り上がる変態たち。


 なんで勝負する気満々こなの、この人たち?


 許可してないよね、俺達?


 まぁこの3人は言い始めたら聞かないので、この際しょうがない。


 俺が勝負に参加して、この3人が優勝できないように妨害すれば、それでいい。


 ただ、意外な人物がこの場に集まっていて、正直驚いている。


 俺は期待と興奮に、胸と股間を膨らませている変態共から視線を切り、気まずそうに俺から目を逸らしている愛しの後輩へと、意識を向けた。




「えっ、大和田ちゃんも参加するの? この勝負に? マジで?」

「ち、違うから! 好きで参加するワケじゃないから!」




 そう言って、我が愛しのプチデビル後輩は、明後日の方へ視線を寄越よこしながら、




「う、ウチはただ純粋に、翼さんの監視役で来ただけで、他意はないから! 翼さんが無茶をしないように勝負に参加するだけで、別に優勝とかは狙ってないから安心して構わないし。ただまぁ、運悪く優勝したら、しょうがないからシロパイと付き合ってあげる。これもルールだから、しょうがなく、あくまで『しょうがなく』ね! いや本当、優勝とかこれっぽっちも興味ないけど、参加する以上はね!」

「すっごい喋るんだけど、この子……」




 もはや前日考えて来たとしか思えない分量の台詞を、スラスラと口にする大和田ちゃん。


 流石は未来の生徒会長さまだ。


 よくもまぁ噛まずに、ソレだけの台詞を口に出来たモンだ。


 ……速すぎて半分以上は聞き取れなかったけど。




「――どうやら全員、集まったみたいだね……?」


「「「「「ッ!?」」」」」


「め、メバチ先輩! おはようございます!」

「うん、おはよう大神くん……。ふふっ、今日も元気だね……?」




 その小さい声量のクセに、やけに耳に残る魚住メバチ先輩の声音が、駅前の喧騒をブチ破り、俺達の耳朶を優しく撫でた。


 瞬間、俺以外の勝負参加者の身体が強張ったのが分かった。


 全員、瞳に好戦的な色を宿しながら、ある者は不敵に笑い、ある者は睨みつけるようにメバチ先輩を見つめていた。


 メバチ先輩は、都合6人分の視線を一身に受け止めながら、




「どうやら、呼んでもいない人達も居るみたいだけ……まぁいいかな」




 先輩は全員を一瞥いちべつすると、ニヤッ! と挑発的に微笑みながら、宣言するようにこう言い切った。




「どうせ勝つのは、このワタシだしね……」




 刹那、全員の身体から尋常ならざるプレッシャーが発せられた。




「言ってくれるやないか、小娘?」

「あらヤダ、久しぶりねぇ~。あたしに啖呵たんかを切った『おバカちゃん』に会うのは♪」

「上等デスヨ! オオカミくんはワタシの物ネ!」

「べ、別にウチはシロパイの事なんか……(ごにょごにょ)」




 やはり俺の人権を無視して、好き勝手言い始める、ハードゲイと愉快な仲間たち。


 膨れ上がる5人分のプレッシャーの嵐の中、我らが爆乳わんは、まっすぐメバチ先輩の目を見つめ……いや、睨みつけていた。


 そこには、いつも姉や俺の後ろに隠れている、気弱な女の子の姿は無かった。




「ししょーは誰にも渡さない。勝つのは、ボクだ!」




 そう言って、メバチ先輩を睨みつける爆乳わん娘は、不覚にもカッコよかった。

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