第16話 俺の彼女モテすぎ問題

 爆乳わん娘とお付き合いを始めて、もうすぐ1週間。


 今現在、俺、大神士狼は大いに頭を悩ませていた。


 原因はアレだ。


 我が未来のマイ・ワイフ、ヨウコ・コヒツジだ。


 いや、別にアイツに不満があるワケじゃないよ?


 優しいし、お菓子作りは上手だし、家事炊事は一通り出来るし、いつも俺を甘えさせてくれるし、何なら俺にはもったいない位できた彼女だよ。


 でもさ?


 そのせいかな?


 よこたんね、めちゃくちゃモテるのね。


 もう彼氏の俺がビックリするほど、おモテになられるのよね。


 そりゃ、グラビアアイドル顔負けの容姿ルックスに、聖母のような性格をしていれば、モテてしまうのはしょうがないと思うよ?


 ぶっちゃけ、超カワイイし。


 彼氏としては『ごめんなさい!』と、告白してきた野郎共をキッチリ振ってくれる彼女には、すごく安心はしているよ。


 それでもさ?


 ごくまれにさ、諦めの悪い、恋に不器用で粘着質な男たちが湧き出てくるワケよ。


 そりゃもう、2日に1度の割合で出現するワケさ。


 校内放送で【よこたん宣言】をした翌日なんか、喋った事もない後輩の男子生徒から、殺害予告とゴキブリの卵(通称ゴキボール)が詰まった手紙を下駄箱の中に入れられていたからね?


 アレ、処理するの大変だったんだぞ……主に芽衣が。


 ごほんっ。


 ごめん、話が逸れた。


 あぁ~、つまりだ?


 俺が何を言いたいのかと言えば――




「頼むっ! ヨーコ姉と別れてくれ!」

「……ブルータス、おまえもか?」




 ウチの彼女、モテ過ぎ問題について……。




「よ、ヨーくん!? なんで我が家に居るの!? 学校は!?」

「サボった! 学校よりも大事な事が、今はある!」




 古羊家の玄関を開けると、そこには古羊姉妹の弟君にして、暴走シスコン特急『ヨウスケ・コヒツジ(♂)』が、学校帰りの俺とマイ☆エンジェルを、土下座で出迎えてくれた。


 ……何故か全裸で。




「なんでスッポンポンなの!? ヨーくん服は!?」

「服なんて着てたら、俺の邪念の無いピュアな気持ちを表現できないと思ったんだ」

「どういう事!?」




 目を見開き、驚き固まるマイ☆エンジェル。


 そんなマイ☆エンジェルを見て、古羊弟は不思議そうに眉根を寄せた。




「おかしい……? 俺の知っている可愛いヨーコ姉なら、この時点で頬を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうに目を逸らすハズなのに……。なんで当たり前のように男の裸を見続ける事が出来るんだ、ヨーコ姉!? そんな女の子に育てた覚えはないぞ!?」


「えっ!? なんでボクが怒られる流れなの!?」

「オレはヨーコ姉の恥ずかしがる顔が見たいんだ!」




 邪念どころか煩悩ぼんのうまる出しで、業の深い事を叫び出す、古羊弟。


 弟よ……その欲望に忠実な所、嫌いじゃないぜ?




「恥ずかしがるも何も、男の子の身体は、ししょーで見慣れているし……」

「み、見慣れている!? つまりヨーコ姉はもう、ユニコーンには乗れない身体にされたという事か!? おのれ喧嘩狼ぃぃぃ~~~っ!?」




「ユニコーン? 身体?」と、弟の言っている意味が分からず、小首を傾げるマイ☆エンジェル。


 そんなマイエンジェルを横目に、弟は敵意全開の瞳で、俺の胸倉を掴み上げた。


 無論、全裸で。


 ちょっ、モザイク!?


 誰かモザイクかけてぇ!?




「やはりお前はヨーコ姉の彼氏に相応しくない! 絶対にオレの方が合っている! 絶対にだっ!」

「まぁまぁ。落ち着けよ、弟?」




 俺は興奮で顔を真っ赤にしているシスコン・モンスターの肩を優しく撫でながら、慈愛に満ちた笑みで奴を見つめた。




「確かに弟の言う通り、世の中には適切な組み合わせというモノがある」




 コーラにポテチ。


 陰キャに異世界。


 JKにっさん。


 もはや意識するまでもなく『アレにはコレッ!』として、当然のごとく付随ふずいしてくるモノがある。


 人々はソレを『適切な組み合わせ』と呼ぶ。


 なら逆に『不適切な組み合わせ』とは、一体なんだろうか?


 オッサンにビキニ? 


 ババァにTバック?


 陰キャにギャル……は興奮するな。




「??? つまり、何が言いたいんだよ?」

「つまり、俺が言いたいのは……コレじゃない」

「だろうなっ!? 真面目に聞いたオレがバカだったわ!」




 今にもキスせんばかり超至近距離で、俺を睨みあげてくる古羊弟。


 そんな目で俺を見るなよ? 孕みそうだ。


 弟の瞳は、烈火の如く怒り狂っていて、ちょっと、ちょっとぉ~?




「そんな怒んないでよぉ~? もうテンション高スギィ~♪」

「はっ倒してぇ~っ!? 心の底から全力で、はっ倒してぇ~っ!?」




 古羊弟は、コメカミをバキバキ☆チ●ポの如くビキビキッ!? 言わせながら、グイッ! とリビングの方へと俺を引っ張って行く。




「ちょっとコッチ来い!」

「いやぁぁぁぁぁっ!? 掘られるぅぅぅぅっ!?」

「人聞きの悪いことを言うな!?」




 大人しくエキセントリック☆シスコンボゥイの後をついて行くなり、いきなりドンッ! と壁に身体を叩きつけられた。




いたたた……おいおい? もっと優しく扱ってくれよ? 俺の身体は童貞のメンタル並みに繊細なんだぞ? 取扱い注意なんだぞ? ニトログリセリンなんだぞ?」

「あぁもう、黙れ!? おまえと話していると気が狂いそうになるわ!」




 古羊弟はイライラした様子で、俺の襟首を締め上げていく。


 ちょっ、苦しいって?


 この高圧的な態度……好きな子にイタズラする男子小学生じゃないんだから……うん?


 好きな子?




「はっは~ん? なるほどな。さてはおまえ、この俺様に、淡い恋心を抱いて――」




 ――って、うぉい!?


 ナニを冗談でも言っちゃいけない言葉を口にしているんだ、俺は!?


 今さらりと、当たり前の冗談のように信じられない言葉が、俺の唇からまろび出そうとしたぞ!?


 クッ!? 常日頃から日常的に、その手の話題や言葉を聞かされ続けたせいか、ナチュラルに俺の口から、ありえねぇ台詞が飛び出て行こうとしやがる!?


 これが調教されるという事か!?


 おのれ鷹野めぇ~っ!?


 森実が誇るハードゲイが、どこかで『ニッチャリ♪』と粘着質に微笑んだ気がした。




「き、気色の悪いことを言うな、変態め!? オレが愛しているのは、ヨーコ姉ただ1人――いてっ!?」

「アンタも充分に気色悪いわよ。ったく」

「芽衣っ!」

「メイちゃん!」

「いらっしゃい、士狼。それと、おかえり洋子」




 制服エプロン姿のままの芽衣が、手に持っていた『おたま』で古羊弟の頭を軽く叩いた。


 その様子からして、どうやらキッチンで晩御飯を作っていたらしい。


 くぅっ!?


 相変わらず制服エプロン姿が最高に似合う女だな、コイツは!


 裸エプロンじゃないのが悔やまれる所だ!




「何をするんだ、メイ姉!? オレはヨーコ姉を救うべく、このロクデナシに――ぷぎゃっ!?」

「うるさい、うるさい。……お母さんめ、コイツには絶対にバレないようにって伝えたのに」




 ハァ……と、分かりやすく肩を落とす芽衣。




「お父さんもお母さんも、洋子が士狼と付き合うのは認めているんだし、いい加減アンタも認めなさい?」


「認めねぇ! オレは絶対に認めねぇ! ヨーコ姉と結婚するのはオレだ!」

「あのねぇ? 何度も言うようだけど、姉と弟じゃ結婚なんて出来ないの。お分かり?」

「愛があれば、歳の差なんて関係ねぇよ!」

「『歳の差』以前の問題なんだよなぁ……」

「うるせぇぞ、喧嘩狼カス!? 何て言ってヨーコ姉を騙した!? どんなエロい催眠術でオレのヨーコ姉をたぶらかした!? オレにも教えてくれ! 頼む、一生のお願い!」




 まるで手負いの獣のように、ギラギラと危ない光を瞳に宿した弟が、今にも噛みつかんばかりに俺に詰め寄って来る。


 が、その言葉の節々からにじみ出るバカ特有の残念さが、何とも俺もホッコリ♪ させてくれる。


 まるで実家に帰って来たかのような安心感だ。


 俺が1人微笑ましい気分に浸っていると、弟の発言が気に入らなかったのか、珍しく爆乳わんが眉根を吊り上げ、弟を叱責し始めた。




「もうっ、ヨーくん!? 年上にそんな言葉を使っちゃいけません! ちゃんとししょーに謝って? ね?」

「カァ~~~~~……ペッ!」

「すげぇ。この子、自分の姉たちの家にたんを吐いたよ?」




 ペチャっ! と、弟の黄ばんだ痰が、古羊家の綺麗なフローリングにいろどりを与えた。


 瞬間、芽衣の右ストレートが弟の頬に炸裂した。


 ソレはまさに一瞬の神業。


 瞳を吊り上げたマイ☆エンジェルが何かを口にするよりも早く、2人の攻防は始まり、そして決着は刹那についた。




「パパスッ!?」

「洋介っ! アンタ、誰の家に痰いたのか分かってんの! あぁんっ!?」

「ひぃぃぃっ!? ごめんよ、メイ姉ぇぇぇ~っ!?」




 涙で顔をドロドロにしながら、芽衣に胸倉を掴まれ、泣き叫ぶ弟。


 う~む。


 見事な泣き叫び具合だ。


 M豚でもここまで下品に泣き叫ぶ事はないだろう。




「あっ、そうだ。もう晩ごはん出来てるから、2人とも、さっさと手ぇ洗って来なさい」

「了解しました! 行こ、ししょー?」

「うん♪」

「ちょっ!? 誰か助け――いやぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!?」




 俺と爆乳わん娘は、弟の悲鳴をBGMに、2人仲良く洗面台へと移動した。

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